日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

犬のいる風景

くりのみち

栗が落ちているよ。そうフクは立ち止まり教えてくれる。いつもの散歩道だった。甲斐駒ケ岳には一点の曇りもなく今日はあの岩襖の山頂までがよく見えた。懐かしい山だ。山頂には石の祠があったように思う。夏らしく日差しは強いが空気に輪郭があった。 確かに…

通せんぼ

犬の繁殖施設で五年ほど過ごした彼は一体どんな環境で育ったのだろう。人間もそうだが、犬もまた育った環境、幼少期の記憶がその後の性格に大きな影響を与えるように思う。彼が繁殖施設から保護団体に保護されたのはその施設の経営者が何らかの理由で施設の…

幸せの団扇

子どもの頃から犬が好きだった。好きで仕方なかった。当時は近所には柴犬しか居なかったけれども、見かけた犬にはいつも触ろうとしていた。しかし柴犬の多くは飼い主にのみ忠実で後は警戒範囲を超えると唸られてしまうのがオチだった。それでも好きなものは…

カワイイ中年・福之記15

ああ、自分も中年になったな。そう思ったのは四十歳の誕生日だった。少しばかり寂しくややショックでもあった。四十歳などすべてくたびれてしまい、腹が出て息が臭い。そんなただのオヤジだと思っていたのだ。口臭には気を使い仕事中はガムをかんだり息清涼…

白目は嬉しく可愛い

白目をむくという表現はあまり好ましい印象はない。驚いたり恐怖を感じたりするときに使われるだろうから。しかし犬と生活をしていると目にするだろう。例えば彼は床に伏せている。何かの拍子で顔を上げずに見上げるならば黒目の裾に白目が見える。この表情…

アゲアゲで

習慣としてNHKの朝ドラを毎日見ている。画面には現在時刻が表示されるのだから、あ、朝飯食べ終えよう、歯を磨こうと追い立てられる。結果的にここ数年はどの作品も見てきた。半年タームの番組ではあるが中では自分も途中離脱するものもある。「反省会」…

甘党なんです

コラッと叫んでしまった。ついでにポカンと殴ってしまう。すると彼は尻尾を巻いて隅に行くのだった。 またやられた。前は「信州安倍川餅」だった。そしてその前は「西新井大師の栗もなか」だった。口の周りにきな粉がついていた。そしてもなかのかけらが散っ…

匂う人相書き

テレビの時代劇。父親が好きなのでつられて見た。水戸黄門はあまりにも明快で少しひねったものが自分は好きだった。父の贔屓は東京12チャンネル・現テレ東の「大江戸捜査網」だった。公儀隠密の手慣れな四人組。浪人や町人を装っているが江戸を揺るがす陰…

あしあと

氷点下三度の朝だった。強い北西からの風が吹いている。そんなに吹いたら北西から空気が消えてなくならぬかといらぬ心配をする。この風が無ければ過ごせるのだがまっすぐに立っていられぬほど寒風に吹かれたらなんだか凍り付いてしまう。そんなせいか、路肩…

暖かい部屋

椅子の上も良いですよ、そう言われるのだった。さすがに迷っていたがそう言うのなら、と椅子に抱き上げた。カラビナが壁に掛かっている。もちろんそれはクライミングの為ではない。 人口六千人程度の街。そこにトリミングショップは何軒あるだろう?ゼロでも…

ダッシュ・50mX4本

ファンフォン・・警笛ではなくそれはタイフォンだ。すると彼は一瞬身を低くする。車影が視界の一部に飛び込む遥かその前から彼は臨戦態勢だがそれを僕が抑えている。視界に飛び込んでくると同時にリードを緩める。彼はすぐさま走り出しウサギの様に飛翔する…

好きになりたい猫嫌い

学生時代の友人は今も言う。お前は猫が嫌いだったなと。履いていたサンダルをそのまま「ロケット弾じゃ」と言いながら猫に飛ばしていたよね…。そう、自分は猫が苦手なのだ。なによりも円形ではなく縦型の瞳孔が不気味だ。山羊の四角い瞳孔もかなり不気味だが…

ココ見ろワンワン

心優しい老夫婦が居た。迷子の子犬がやってきた。すこし怪我をしているようでもある。まぁ何と可哀そうな。うちで育てましょう。子犬は直ぐに大きくなる。そして老夫婦が大切に耕している畑を前に鳴き始める。「ここ掘れワンワン」と。さあて掘ってみると・…

君は何を待つ?

リードにぐいぐい引っ張られながら走る。全力疾走だ。還暦を越えた自分が心配すべきは足がもつれて転倒する事だった。顔の骨でも折るだろう。 未だ幼稚園だった。最寄りの国鉄の駅には駅ビルが建っていた。その屋上には小さな遊具施設があった。親に連れられ…

踏切板

高原の地に引っ越して早くも数カ月が過ぎた。身の回りのもの、庭の整備にかかわるもの、そんな買い物がいまだに続いている。一気に買い込んでも整理できぬ、必要になってから揃えていく。必然的にホームセンターには三日、いや二日に一度は通っている。 「い…

待ちわびたよ

忠犬ハチ公を知ったのは幼稚園の時だっただろうか。渋谷という街に銅像があるという。そしてハチ公にまつわる話を聞いた時に、自分の犬に対する思慕は高まった。以来、ずっと犬が好きだ。当時東京都大田区に住んでいた叔母の家に何故泊まりに行ったのかは覚…

口の匂いを嗅ぐ医師・福之記14

あんたの口はひどく臭いぜ 映画「ダーティハリー」でクリント・イーストウッド演ずるハリー・キャラハン刑事は身勝手な上司にこう言いのける。 余りに強烈なセリフなので子供ながらに覚えてしまった。権力を笠に着て無理な捜査を強いる上司に対しての言葉は…

た・ね・い・ぬ

フゴゴゴ…。ふと目が覚める。妻のいびきかと思う。そうかも知れない。少し眺める。するとウガガガと聞こえた。横たわったお腹が大きく膨らんだ。息を吸ったのだろう。・・なぁるほどそうか。夢でも見ているのか。どんな夢なのだろう。そう、半年か。そんなに…

僕だって入りたい・・

ここの所すこしばかり断捨離で物を捨てる作業をしていたので妻も自分も疲れ気味だった。これからシャワーを浴びるのもなにか味気ない。すこし芯から休めないか、そう話して今日は銭湯の日にした。 行きつけの銭湯は数カ所あり、基本的にはそれをぐるぐる回っ…

フリーになって欲しいこと

バリアフリーは随分と一般化してきた。自分がもし家を建てるのならバリアフリーにするだろう。つまらない事でも高齢者は足が引っかかる。カーペット一枚の有無が転倒リスクを左右する。ましてや部屋と部屋の間の扉周りの建具で段差があるとやはり危ない。そ…

折れたうどん

香川県生まれの自分がうどんに求めるものは二つ。強いコシの麺と金色に光るイリコ出汁だ。冷たく戴くときは余りこだわりが無い。物心ついたころには香川のうどんは暖かいものばかりだったから。 コシは大切に思う。関東のうどんを目にしたときに真っ黒い汁に…

信じる事に決めた・福之記13

抗癌剤の治療が決まった時、自分は家内に犬用のバリカンを持ってきてもらった。病院の浴室で鏡を見ながら自分の頭を丸刈りにした。薬で毛が抜けるのなら自ら短くしようと。さっぱりした。が、毛根はなかなかしたたかで、意外にも抗癌剤に耐えた。しかしその…

歯磨き・福之記12

ドリフの「八時だよ全員集合」が大好きだった。番組の最後では出演者一同がステージに並び「いい湯だな」を歌うが、そこで一番人気のカトチャンがこう言う。「歯みがけよ」と。しかし歯磨きは好きではなかった。痛いし面倒くさかった。色気づき口臭が気にな…

IDカード・福之記11

運転免許書、社員証、学生証、そしてマイナンバーカード・・。誰しもが自分の写真が写ったカードを持っているだろう。 犬の写真が入ったカードなど想像もしなかったが、それなら名前をもう少し丁寧に書けばよかった、と思うのだった。保護犬が家にやってきて…

犬の会話・福之記10

散歩に行く。いつも同じルートだと認知力が落ちるのでたまには違うところへと行く。とはいえ近所の住宅地などたかが知れているので車で少し走ってから馴染の薄い場所を歩く。すると新しい発見もある。 それは我が家の犬も同じこと。知らない土地は地面を頻繁…

面取り

木材は工作の前に角を面取りするように。そう技術家庭の時間に教わった。角材から木柱を作る場合でなくとも、木肌が手に接する箇所は角をやすりで綺麗に落とすように、そんな内容だったと思う。 心地よく晴れた休日だった。朝の散歩では北からの風は強かった…

イヌリンピック・福之記9

子供のころから運動音痴だった。小学生なら誰しもが夢中になったのは草野球だった。空き地があればどこでもできた。だれもが王・長嶋になりたがった。自分は柴田が好きだった。王と長嶋は輝きすぎていたが柴田・高田・末次辺りは地味にかっこよかった。しか…

僕のセーター・福之記8

生まれた時から服なんか着たことは無かったよ。生まれたての記憶はないけどママが僕をたくさん舐めてくれたよ。それで目が覚めたのかもしれないんだ。 ボクは生まれてからすぐにママと離れてしまって、何故だろう、檻の中にずっといたんだ。時々お爺さんがや…

昔の名前で 福之記7

京都にいた時は「しのぶ」と呼ばれていた。神戸では「なぎさ」と名乗った。そんな人もいたのだろう。彼女はきっと夜の女。幾つもの名前は源氏名。本名と商売の名前の二本立てだったろう。 十二年もの間そう呼んでいたのだから簡単には変わらないようだった。…

かさぶた剥がし・福之記6

エリザベスカラー、なぜそう言われるのだろう。故エリザベス女王がつけていたわけでもない。ネットで調べると十六世紀頃の英国はエリザベス朝の頃に女性の首元に実際に使われていたからとの解説があった。確かにそんな絵画は美術や歴史の教科書で絵に見るこ…