日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

犬のいる風景

フリーになって欲しいこと

バリアフリーは随分と一般化してきた。自分がもし家を建てるのならバリアフリーにするだろう。つまらない事でも高齢者は足が引っかかる。カーペット一枚の有無が転倒リスクを左右する。ましてや部屋と部屋の間の扉周りの建具で段差があるとやはり危ない。そ…

折れたうどん

香川県生まれの自分がうどんに求めるものは二つ。強いコシの麺と金色に光るイリコ出汁だ。冷たく戴くときは余りこだわりが無い。物心ついたころには香川のうどんは暖かいものばかりだったから。 コシは大切に思う。関東のうどんを目にしたときに真っ黒い汁に…

信じる事に決めた・福之記13

抗癌剤の治療が決まった時、自分は家内に犬用のバリカンを持ってきてもらった。病院の浴室で鏡を見ながら自分の頭を丸刈りにした。薬で毛が抜けるのなら自ら短くしようと。さっぱりした。が、毛根はなかなかしたたかで、意外にも抗癌剤に耐えた。しかしその…

歯磨き・福之記12

ドリフの「八時だよ全員集合」が大好きだった。番組の最後では出演者一同がステージに並び「いい湯だな」を歌うが、そこで一番人気のカトチャンがこう言う。「歯みがけよ」と。しかし歯磨きは好きではなかった。痛いし面倒くさかった。色気づき口臭が気にな…

IDカード・福之記11

運転免許書、社員証、学生証、そしてマイナンバーカード・・。誰しもが自分の写真が写ったカードを持っているだろう。 犬の写真が入ったカードなど想像もしなかったが、それなら名前をもう少し丁寧に書けばよかった、と思うのだった。保護犬が家にやってきて…

犬の会話・福之記10

散歩に行く。いつも同じルートだと認知力が落ちるのでたまには違うところへと行く。とはいえ近所の住宅地などたかが知れているので車で少し走ってから馴染の薄い場所を歩く。すると新しい発見もある。 それは我が家の犬も同じこと。知らない土地は地面を頻繁…

面取り

木材は工作の前に角を面取りするように。そう技術家庭の時間に教わった。角材から木柱を作る場合でなくとも、木肌が手に接する箇所は角をやすりで綺麗に落とすように、そんな内容だったと思う。 心地よく晴れた休日だった。朝の散歩では北からの風は強かった…

イヌリンピック・福之記9

子供のころから運動音痴だった。小学生なら誰しもが夢中になったのは草野球だった。空き地があればどこでもできた。だれもが王・長嶋になりたがった。自分は柴田が好きだった。王と長嶋は輝きすぎていたが柴田・高田・末次辺りは地味にかっこよかった。しか…

僕のセーター・福之記8

生まれた時から服なんか着たことは無かったよ。生まれたての記憶はないけどママが僕をたくさん舐めてくれたよ。それで目が覚めたのかもしれないんだ。 ボクは生まれてからすぐにママと離れてしまって、何故だろう、檻の中にずっといたんだ。時々お爺さんがや…

昔の名前で 福之記7

京都にいた時は「しのぶ」と呼ばれていた。神戸では「なぎさ」と名乗った。そんな人もいたのだろう。彼女はきっと夜の女。幾つもの名前は源氏名。本名と商売の名前の二本立てだったろう。 十二年もの間そう呼んでいたのだから簡単には変わらないようだった。…

かさぶた剥がし・福之記6

エリザベスカラー、なぜそう言われるのだろう。故エリザベス女王がつけていたわけでもない。ネットで調べると十六世紀頃の英国はエリザベス朝の頃に女性の首元に実際に使われていたからとの解説があった。確かにそんな絵画は美術や歴史の教科書で絵に見るこ…

信頼関係・福之記5

ザイルパートナーと言う言葉がある。雪山でパーティを組む。ザイルで互いの身を結ぶのは一人が稜線から滑落したらもう一人が滑落防止姿勢を取りそれを防ぐ為だ。ピッケルと雪面に刺すと言うが、さてどれほどのものだろう。不幸にして流されることもあれば供…

マシラの如く・福之記4

マシラの如く山を歩いた・・。そんな文章に接したのは高校生だったろうか。そう、当時熱中していた北杜夫氏の何かのエッセイだった。旧制松本高校(現・信州大学)に在学し北アルプスを彼が頻繁に登っていたのはそんな旧制高校時代の話だ。彼の登山趣味は蝶…

しつけ 福之記3

十二年前、初めての犬・ゴン太が我が家に来た時、あまりトイレのしつけで苦労したことは無かった。ごく初期から彼は家の外、散歩をする際に大小の排泄をするようになった。それは特にそう躾けたわけではなく気づけばそうなっていたのだった。もともと犬は綺…

名づけの親 福之記2

「アブラハムはイサクをもうけ、イサクはヤコブを、ヤコブはユダとその兄弟たちを、ユダはタマルによってペレツとゼラを、ペレツはヘツロンを、ヘツロンはアラムを‥‥」大概はその辺りで音を上げて本を閉じる。世界で一番売れているという本は聖書と言われて…

いらっしゃい・福之記1

とある縁があり我が家にワンコがやってきた。いらっしゃい、と迎えた。七月に十二年間共に暮らした犬が他界した。彼の最後は脾臓癌だったが一晩だけ苦しがった。翌朝昼食を二人で食べていたら苦しみでばたつかせていた四本の脚は止まり彼は永遠の伏床を得た…

縁結び

一目あったその日から恋の花咲くこともあるそんな貴女と見知らぬ貴方をデートで結ぶバンチDEデート そんなくだりをスルスルと言えるのは自分と同じ世代だろう。いまは知らないが当時は男女のカップルづくりの番組を明るくテレビで流していた。 男女の出会い…

闇深き巡業

そこに居るはずだった。行ってみるとショーケースには居なかった。店員さんに聞くと「今朝お店を移りました」と言われたのだった。そんな話は以前もあった。そこは隣県のあるホームセンターだった。そこで偶然見かけた。元気もあり可愛かった。数か月後にそ…

犬が食べないもの

子犬から飼い始め虹の橋を渡ってしまったその十二年の間、我が家の犬は何でも食べていた。犬は味音痴だが食いしん坊。食べ物はあればあるだけ、口にできるものは出来るだけ見境なく食べると聞いていたがまさにその通りだった。ある日帰宅すると向こうからシ…

ショルダーバッグ

「縫えたよ、これでいいでしょ。」 そう言いながら妻はとても嬉しそうだった。実際このショルダーバッグをこれまで一番使っていたのは彼女だった。グレーのコットン生地のそれはバッグというよりサコッシュ、いや、頭陀袋だった。深さはあまりなく前後の幅は…

山の犬

奥秩父の甲武信岳に知人が登山したという知らせがメーリングリストに届いた。甲州(山梨)、武州(埼玉)、信州(長野)の三州の境に立つからそう名がついた。安易とは言えるかもしれないが「こぶし」とは良い名前だと思う。彼は甲州側から登られたと言うが…

ケーキのような化粧箱

こんなことで家族四人が顔を合わせるのも皮肉だった。顔を合わせた誰もが目に涙を浮かべていた。気落ちしないようにと娘はケーキの箱を持ってきた。苺のケーキが入っていた。その箱を見て妻は涙ぐんだ。ああ、我が家に来たときもこんな箱だったな、と。そこ…

違いがわかるヤツ

犬を飼っているのなら彼らが水を飲む姿が好きなのではないかと思う。我が家は餌台をつかいそこに水のボウルと餌のボウルを置いている。犬の食欲は限りないように思える。可愛いからと人間の食べ物も含めて好き放題にあげるとしっぺ返しが待っている。彼も肝…

イヌフグリ

今思うとそれは生物の授業だったのか古文だったのか覚えていない。普通なら生物の授業だろうが古文の授業か?と思った訳は教わった植物の名前が古式ゆかしく趣のある日本語に感じられたからだった。ウチダ先生の授業だったような気がする。するとやはり生物…

施設の犬

新聞を読んでいたら胸を打つ記事があった。犬が支える入院生活、とでもいう記事だった。 そういう働きをする犬がいる事は聞いていたがファシリティドッグという名前は知らなかった。ファシリティは施設だからそのまま訳すと施設犬になってしまう。しかしそれ…

ダルマさんが転んだ

犬を手元に呼び寄せる時もっとも有効的な兵器は「餌」だろう。餌を出せば幼犬なら放っておいても駆け寄ってくるし、成犬もしかり。しかし高齢犬になってくると違うのだ。 シニア犬といわれるようになった我が家の犬は、年齢なりに病も増え、投薬が増えた。シ…

創作・白い光に満ちた部屋

室内が明るいのは好い事だな、と俊介はいつも思っている。 さまざまな症状と、我が子を思いやる気持ちがさして大きくない部屋を満たしている。そこは苦しみと心配、そして慈愛が交錯している部屋とも言えた。部屋が白く塗られて明るい事が救いだった。それで…

夜間情動不安症

どれがいいのかね、うちの子は6キロ未満だからね。新生児用ではキツそうだし、Sサイズは大きいね・・・。そんな話をホームセンターのオムツコーナーでしていた。傍目には祖父祖母が孫用のオムツを選んでいるのか、と思われたかもしれない。人間用は通気性が…

膝の上の幸福

愛犬が激しいけいれんを起こし、4日間の入院を経て自宅に戻ってきてから2週間強経った。脳疾患と言う。毎日シリンジを使い経口でステロイドと抗痙攣剤を与えている。奏功してか、目下痙攣の再発はない。しかし病前の習慣や本能的なものは全て忘れたかのよう…

腕の中の重さ

「ガターン」。大きな音とともに横の机の椅子がひっくり返った。黒い学生服のM君が椅子のまま仰向けにひっくり返ったのだった。彼は硬直して歯を食いしばっている。口からは泡を吹いた。隣席のN君は慣れた調子で口にハンケチを突っ込んだ。しばし小刻みに震…