日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

図書の旅18 蛍川(宮本輝)

・蛍川(宮本輝・筑摩書房・1978年) 宮本輝の小説を読んだことはなかった。思春期の頃に触れていたら、もしかしたら少し違う自分になっていたかもしれない、そんな事を考えた。 手にした本は宮本輝のデビュー作にして太宰治賞を得た「泥の河」、それにその…

悩ましき月餅

山登りの行動食で、コンビニに在ったら買ってしまうのが月餅。もちろん大福のほうが腹持ちも良く優先度は高いので次点だろう。しかし月餅も実力者だ。皮の中にたっぷり詰まった餡がなかなか行動食に適している。行動食はやや多めに買うので下山後に残ってい…

創作・水に垂れる花

山から下りる道は楽しいものだ。だんだんと人里の香りがしてくる。シイタケ栽培地のような薄暗く湿った地から乾いた畑に下り着くこともある。古びた神社の裏手に出る事もある。小さな泉が湧く谷戸の最奥に下り着くこともある。農道の片隅に道祖神やお地蔵様…

600円の後悔

山歩きはなかなかハードな運動で、行動中に水分摂取が少ないと足がつるし、空腹もある程度を過ぎるとハンガーノックをおこしてして急に動けなくなる。だから自分は山歩きに関しては一日三食というパターンをいつしか止めて、塩分タブレットと水分補給は随時…

プチ贅沢

何時からだろう、贅沢をしなくなったのは。 現役の頃は金遣いは荒くなかったが天引きで積み立てる財形貯蓄や年金保険などの資産作りを除いてはなんとなくお金を使っていたのだろう。贅沢な家庭ではなかったが、自分は趣味には金遣いが荒く湯水のごとく使って…

聖母様

手ほどきの本を読む限り、マリア様、磔刑後に復活したイエスに従ったマグダラのマリアではなく、イエスの母とされる聖母マリア様についての新約聖書の記載は少ないという。信者でもなく神学に無縁な自分は、確認もしていないしそれが何故だか分からない。し…

電波の魚網

PCや読みかけの本を手にして近所のハンバーガショップに時々出かける事がある。脂質が多いメニューが並ぶのでのであまり食べ物は摂らない。がコーヒー一杯で一、二時間座っても文句を言われない。混んでくるとさすがに長居は遠慮してしまう。それでも好きな…

図書の旅17 銀河鉄道の夜

・銀河鉄道の夜(宮沢賢治・福武書店・1987年) 岩手県の山は数えるしか登ったことが無い。岩手山、早池峰山、八幡平、そしてこれは三県にまたがるが栗駒山。その程度だ。まだまだ登りたい山が岩手に沢山ある。奥羽山脈は南北に長く、その一派。とりわけ盛岡…

創作・糸かがり

一日がノートの一枚のページだとすれば、過ぎし日々はそれを綴じたものといえる。それを本と言うならば、その本は聖書や広辞苑のように分厚いだろう。 一人息子は栃木県の地方銀行に就職していた。賢一の住む横浜からは近くはない。なぜ栃木なのか賢一には分…

ダルマさんが転んだ

犬を手元に呼び寄せる時もっとも有効的な兵器は「餌」だろう。餌を出せば幼犬なら放っておいても駆け寄ってくるし、成犬もしかり。しかし高齢犬になってくると違うのだ。 シニア犬といわれるようになった我が家の犬は、年齢なりに病も増え、投薬が増えた。シ…

解体現場

静かな住宅地に住んでいる。しかし取り巻きの道路は狭く、軽自動車が行きかうのも難しい。言い換えれば古い住宅地とも言えた。そんな場所にここ一、二週間ずっと怒号が飛び交っている。怒号を受けている相手の声はほとんど聞こえずに、他人事ながら気になる…

巡り巡って

昨年の今ごろ、いや少し前だろうか。道路わきに野生の蕗の群生地を見つけて、少しまとめてとって煮物にしたのだった。今朝犬の散歩をしに外出した妻がビニル袋に半分くらい、蕗を摘んできた。今年は少し遅いね、そんな話をした。この春は真夏日はあれば10℃代…

進まぬ工事

建設途上の鉄道。なかなか工事が進まない。工事資金の問題か、技術的な困難に直面したのか。 現実の鉄道ならば工期には利用者さんの期待がかかっている。遅れるわけには行かない。しかしこれは卓上の鉄道「模型」なのだから、遅れようが誰も文句は言わない。…

指名される事

指名をする、される事。そんな職業は何だろう。女性ならヘアカットだろうか。お気に入りの美容師さんにやはりお願いしたいところだろう。男性が指名するというと何だろう。個人経営の床屋さんは親父さんの腕を味わいにその店に行く、ある意味指名している。…

別離

長くお世話になった人とお別れするのは寂しい。哀しくもある。友人と別れるのもなかなか再会できない相手なら寂しい。別離という言葉は寂しさと哀しさに飾られているだろう。断捨離で身の回りの物を整理する。思い出のある品でももう使わないなら、別れよう…

ひやむぎの季節

なんでも各地で数十年ぶりの5月の真夏日と、そんな報道がニュースで流れている。陽炎が揺れる熊谷の街や、シャツを捲し上げる勤め人で溢れる新橋駅前がテレビに出てくるのも時間の問題だろう。目下は確かに日中の日差しはきついがあまり湿度が高くないので救…

サングラス

- レイバンの似合う男って誰だろうね。ダグラス・マッカーサーではなくて俳優でさ。 -トム・クルーズじゃない? - いや、もう少し渋いイメージだな。えーと、そうだ、ジョージ・クルーニーだよ。- たしかに格好いいわ。- 日本人だと誰だろう?- 裕次郎かな。…

開けてしまったパンドラの箱

パンドラの箱を開ける、そんな言葉は現役の会社員の頃使っていた。長く手付かずだったファイル類に着手するときに言っていたのだろう。ああ、この案件やるか。パンドラの箱を開けるか。そんな使い方だった。パンドラの箱はあけてびっくり。災いもくれる。余…

図書の旅16 香川県の民話

・香川県の民話 (日本児童文学者協会・偕成社・1985年) 自分の出身地は香川県。育ちの多くは神奈川県になるが、出身は?と聞かれると胸を張って香川と答える。小さな県だが地理学的には東讃、中讃、西讃に分かれるようだ。東から高松。坂出・丸亀・善通寺…

創作・白い光に満ちた部屋

室内が明るいのは好い事だな、と俊介はいつも思っている。 さまざまな症状と、我が子を思いやる気持ちがさして大きくない部屋を満たしている。そこは苦しみと心配、そして慈愛が交錯している部屋とも言えた。部屋が白く塗られて明るい事が救いだった。それで…

かける言葉

湿気の多い梅雨時にはあとひと月か。風薫る五月。ある意味四季で一番過ごしやすい季節だろう。菖蒲湯につかっても夜ならば汗も長引かずに退いていく。かといって寒い訳でもない。 六月でもないのに靴下の蒸れがあったのか、足の指に有り難くないカビ菌が繁殖…

ファースト・ペンギン

三年間以上猛威を振るったコロナ禍もここへきて沈静化したのだろうか。もはや自分も世の感染者何名というニュースに興味を失って久しい。5月からのマスク着用個人判断という方針は嬉しいが高齢者も出入りする自分の職場は今後も自主的にマスクをするというこ…

つまらない夢二題

つまらない話だが、夢がある。二つある。 ● 一つ目の夢。もう50年以上、途切れぬ夢。 一度で良いから列車を運転してみたい。 出来れば単行の気動車だ。山梨の小淵沢から長野の小諸を走る小海線は憧れる。小淵沢から野辺山迄はのどかな高原列車だ。一区間、い…

交わりあう多様な文化

数年間にわたり重いムードを作り出していたコロナ禍も、いつしか静まり街に三年前の平常が戻ってきたように思う。外国人を街でとりわけ多く見るようになったと思うのはなにもコロナを取り巻く環境が変わっただけではないだろう。そう、絶対的に外国人居住者…

五百円の幸福

かつて馬込温泉という名の銭湯、いや、健康センターがあった。東京を出た東海道新幹線が大森で環状七号線を渡る直前に左手を見る。そこに建っていた。高架を走る新幹線からとりわけよく見えたのは低層住宅の続く中でその馬込温泉自体が中層ビルだったからだ…

閉じてしまったクリニック

住む街をゆっくりと自転車で走っていたら気づいた。あるクリニックが先々月末で閉店していた。「諸般の理由で閉院致します」、扉にはその旨の張り紙があり、看板も外されていた。 外れた看板の裏手だけ建物の色は周囲と異なっていた。それが妙に寂しく見え、…

目一杯の向こう側

延々と続く上り坂。行く先を見れば滅入るばかり。肩にしたザックはますます重くなる気がする。登山靴が妙に重い。地球の重力に反して上に向かう事は楽ではない。そんな事をいつも感じている。早く尾根が平坦にはならぬか。気をつかうが脚は楽になるトラバー…

駅そばシリーズ(14) 三沢駅とうてつ駅ソバ

知らない地の駅に駅ソバがあると立ち寄ってしまう。自分の中で駅ソバは旅情と直結している。初めて訪れた街、青森県三沢市。八甲田山登山のレンタカーをこの街で借りたのだ。車を返して駅に戻る。新幹線の通る街・八戸へ向かう次の電車は1時間ほど先だ。駅構…

不安定な自由

誰もいない真っ白な緩いスロープに大きなカーブを刻んだ。この程度の斜面ならリードスキーをハの字に開き外足の内エッジに体重を乗せて内足の踵を上げて雪面にフラットにするとスルスルと軽く回る。アルペンターンのように踏み込んで抜重、という感覚とは全…

これと決めている人

とにかく彼、Hさんは「コレ」と決めていた。これが置いてある店をきちんと調べて選んでいたようだった。Hさんとは仕事の関係上よく飲食をともにすることがあった。残業後に行くことも多かった。 彼は中生は頼まずに瓶と決めていた。黒ラベルに金の星。たし…