日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

つまらない夢二題

つまらない話だが、夢がある。二つある。

● 一つ目の夢。もう50年以上、途切れぬ夢。

一度で良いから列車を運転してみたい。

出来れば単行の気動車だ。山梨の小淵沢から長野の小諸を走る小海線は憧れる。小淵沢から野辺山迄はのどかな高原列車だ。一区間、いや100mでも良いのだ。

小淵沢駅を西に向かって出発すると小海線は八ケ岳の広大な裾野を大きなカーブで180度進行方向を変える。海抜890mの駅から1000mのコンター迄登っていくのだから気動車のエンジン音は高らかに違いない。海抜1000mライン、丁度その辺りに友人夫妻が住んでいる。時々立ち寄っているのでその風景に憧れる。ブナやカラマツの森の中を往く鉄道だ。国鉄最高標高地点の駅・野辺山は海抜1345m、その辺りは広闊な裾野で高原レタス名産地も近い。夢の高原鉄道だ。

しかし気動車の運転はじっくり見たことが無い。エンジンの出力調整はどうなるのか。見る限りの運転台は電車に近い。電車なら左手にノッチ。右手にブレーキ。足下に警笛。まずはノッチ台にキーを入れガチリと前に倒す。ガラガラとノッチを回すと動き出す。右手のブレーキ弁を動かして制動だ。油を塗られて黒光りする木のブレーキハンドルは見るからに頼もしい。こんな古いメカならば所作は頭に焼き付いている。

「電車の運転手になりたい」は自分が子供の頃に最初に口にした将来の夢についての答えだ。母親がひどく落胆したことを覚えているが、全く失礼な話だと思う。齢六十でも未だに思うのだから。就活でも当然鉄道会社を受験したが縁はなかった。ああどこかの廃線跡でも良い。体験運転会はないだろうか。

夢の高原鉄道 小海線。高原のポニーC56とは言わない。キハ110で良いのだが。少しだけ運転させてもらえぬだろうか。(小淵沢-甲斐小泉間、写真撮影7L1UGC氏)

● 二つ目の夢。これは列車の運転のように人命にかかわらず気楽だ。

オーケストラの指揮をしてみたい。

食事を作る時は常に音楽を鳴らしている。曲はスマホ任せだが音楽と供に体は気持ちよく動くので調理も楽しくなる。やはり明朗なモーツァルトあたりか。調理が佳境に差し掛かり、流れているシンフォニーが盛り上がってくると我が菜箸は指揮棒になり、鍋を離れて激しく空を切る。例えば41番ジュピターならば終楽章の壮大なフーガで過呼吸を起こし気絶寸前だ。両者のタイミングが重なると料理は失敗する。しかし気持ちよさと失敗した料理のどちらを取るかと言われれば、やはり前者だろう。こんなに無心になる事はそうはないからだ。

楽譜も読めぬ低レベルだから指揮者は遠い夢でもある。しかし台所でのエア指揮なら構わない。これは菜箸と言う指揮棒を持った踊りなのだから。踊りである以上、憧れの指揮者のスタイルから特徴を頂戴したいと思う。

カラヤンバーンスタインベームジュリーニクライバー

きりがなくなる。彼ら巨匠の映像はネットに残されている。指揮姿としてはカラヤンも良いがやはり華麗な指揮のクライバーが憧れだ。彼のベートヴェン7番の指揮姿はアートだ。さてエア指揮はクライバーで。演目はブラームス交響曲2番終楽章でお願いしたい。立体的な造りの中に歓喜と生命力があふれるから。

菜箸、もとい指揮棒を持った。調理台が観客席。最近は加齢の影響か指揮棒を長く持つと指がつってイテテとなる。これは想定外だった。まぁしかし音楽はよどみなく流れる。当たり前だ。こちらは音楽に乗って踊っているだけなのだから。そんな旦那のすぐそばで妻は何事もないように日々を過ごしている。スルーする術を得たのだろうが「全く変人と結婚したものだ」とでも思っているのだろう。

若手社員の頃ドイツはハノーバーで行われていた見本市に出張した。夜はビアホール。生の楽団が色々な音楽を演奏していた。そこは酔客が指揮できる。同行の年上のエンジニア氏はノリがよく酔うと陽気だ。彼は志願して指揮台に立った。楽団が演奏し始めた「軍艦マーチ」を指揮して彼は悦に入っていた。どうみても指揮は演奏とズレているが楽団はコンマスの下しっかり演奏する。演奏の最後には彼はタクトを手放してなんと万国旗を振り回していた。彼も音楽で踊っていた。なんと楽しそうな事だろう。これぞ魂の開放!と唸った。遠いハノーバーに行き万国旗で指揮をすることは今や叶うまい。やはり台所でのエア指揮がせいぜいだ。

二つとも全く他愛のない夢だ。夢などはそう叶うもんでもないし叶ったらその後の楽しみがなくなる。せいぜい鉄道模型とエア指揮を続けることだろう。するとまだまだ夢を大切にすることができる。

いつまでも実現しないほうが張り合いがあるように思えるのだ。  

オーケストラを前にエア指揮が出来たならば卒倒しそうだ。そんな奇特なオーケストラは無いだろうか。会場は、そりゃムジークフェラインザールが憧れだ。(写真2008年、ウィーン、ムジークフェラインザールにて。ウィーン交響楽団演奏会・指揮ファビオ・ルイジ)

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