- レイバンの似合う男って誰だろうね。ダグラス・マッカーサーではなくて俳優でさ。
-トム・クルーズじゃない?
- いや、もう少し渋いイメージだな。えーと、そうだ、ジョージ・クルーニーだよ。
- たしかに格好いいわ。
- 日本人だと誰だろう?
- 裕次郎かな。渡哲也と。
- そう来たか。でもさ、やっぱりユーサク、松田優作だろ!ついでだけど、俺も似合うと思ってんだけどな。どうかな?
そこで二人の間に沈黙が流れる。会話は終わってしまった。
車中でサングラスの話を妻にしたのは、運転をして妙に外が眩しく目が辛いなと感じたからだった。
サングラスとは容姿の優れたお洒落な人のファッションアイテム。ずっとそう思っていた。しかしサイクルツーリングやスキー登山では必需品だ。自転車で走っていると自分の細い目をわざわざ狙うように小さな虫が目に飛び込んでくる。防護のために必ず必要だ。冬山では雪盲対策だ。少しでも明るければ眩しく目が開けてられないし地形の細かいニュアンスも判別できない。
数年前まで夏では全く必要性を感じなかったのだが、ここ一二年か、あまりの光に眩んでしまう。あげく、しばらくすると目が火傷したかのようにヒリヒリする。太陽の輝度が急に上がったとも思えぬし、やはり加齢のせいだろうか。
航空機パイロットはいつもサングラスをしているが高度1万メートルでは明かりも紫外線も強烈なのだろうか。空港をサングラスで颯爽と歩く彼らはかっこいい。しかし戦闘機パイロットのこんな話もある。「我ら日本人にはサングラスは不要。我々は黒い瞳だから。しかし西洋人の青い瞳なら必要だ。サングラスと目の間の隙間、そこに死角が生まれる。自分たちは左空中逆回転捻りで巴戦に持ち込んで、その死角を突くのだ。」それは日本海軍航空隊トップエースは坂井三郎氏の言葉だったと記憶する。当時の空戦高度は3000mから6000m程度だったろうから1万メートルの世界とは少し違うのかもしれない。
流石に食うか食われるかのドッグファイトをするわけではなく、高度1万メートルにも行かない。しかし目が眩むのだ。車用サングラスが必要だった。急ぎスキー用に使っていた100円ショップの品を使ってみた。転倒して何時紛失しても良いように、と安いものをスキーでは使っているのだ。運転は快適となったが、いかんせん見た目は冴えなかった。B級ギャングの様だった。
何故か妻も、私もサングラス必要ね、犬の散歩に車の運転。眩しい、と言い出した。これまではそんなことも言わなかったのだから、やはり何処かの年齢が境になるのだろうか。家内は100円ショップで良いよ、と言うがさすがにそれは止めなよ、と言った。妻は背丈は小柄なので頭蓋骨は小さく、帽子も眼鏡も大人用はチンドン屋のように似合わない。そこに100円ショップのサングラスと来ると、夫婦して国籍不明な怪しい人たちになる。 結局彼女は小さなフレームサイズのサングラスをネットで買った。思いのほかにそれは似合った。
ああ自分もジョージ・クルーニーのようだったらなぁ、レイバンもどきでも買おうに。しかし現実を僕はよく知っている。デカイ頭に短い脚、出っ張った腹。似合う訳が無いことを。それでもせめて1000円くらいのものを買おうかと真面目に考えている。山の中ならいざ知らず、街で100円とはちょいと情けない。
そう、それと今度眼科に定期検査に行った時に聞いてみよう。やたらと陽光が眩しく感じるようになったのは、年齢のせいですか?と。しかし「そうです」と言われてもはて困る。何もリアクションが出来ないのだから。