日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

山にまつわる随想

山の湯

登山の楽しみの一つは、山麓の湯だろう。三十年以上昔の政府の肝いり政策・ふるさと創生事業で支給された支援金を元で多くの温泉施設が至る所にできた。下山して緊張が解ける。そこに暖かい湯がある。いつか山が目的なのか湯が目的なのかわからなくなる。有…

右か左か

下山路だった。目指した山頂は先程まで足元にあった。都心を遠望できる冬枯れの低山だった。登山はピークを踏むばかりでなく無事に下山することで完結する。山頂を踏むと誰もが安心し何かを成し遂げた気がするのだろうか、道間違い、滑落、疲労による行動不…

空想の庭

もし自分の家に広い土地があったら、どんな庭にしたいのだろう? 林の中に棲んでみたいという思いが芽生えたのはやはりアウトドア誌のお陰だろう。そんな雑誌を楽しむようになったのは社会人になってすぐだった。しかし生活の拠点は会社と家のある首都圏に限…

紙の上の箱庭

つい最近まで登山と言えば何時も二種類の地図を持参していた。登山ガイド地図と地形図だった。 登山ガイド地図はルートと所要時間などの情報が記されたものだ。自分達のヤマ屋世代では「エアリア」とだけ呼ばれる地図だ。ユポ紙で出来たそれは耐水性と耐久性…

元旦の朝

♪ダッ・ダララ・ダララ・・ ああ、今年も始まるな。 昨夜はたった一本の缶ビールで眠くなってしまった。NHK-Eテレでベートーヴェン第9の演奏会放映を見ているうちは起きていたが、後は憶えていない。年越しそばを食べる事もなく寝てしまったのはこの二週間収…

山里の恵み

ハイキングでも良い。里山散策でも良い。長閑な風景の中を歩いてみよう。するとよく目にする。籠と料金箱だけを置いた「無人野菜販売」コーナー。多くは畑の一角であり、高台に位置する農家への入り口にあるだろう。プラスチックのコンテナであり手製の篭で…

図書の旅35 山とスキーとジャングルと 本多勝一

●山とスキーとジャングルと 本多勝一 山と渓谷社 1987年 本多勝一の単行本を初めてどこで目にしたのかを一生懸命思い出そうとしていた。しかし記憶は曖昧としている。確かあれは学生時代だった。僕は友人と二人で女友達の引っ越しを手伝ったのだったように思…

旅をしませんか

ひどく厄介な気持ちだった。二つの想いが自分を満たす。見知らぬ地の風景に触れその空気を吸いたい。しかし一方では家の中でゆっくりと妻と時を過ごしたい。相反する思いは満ち潮と引き潮のような関係だった。波間に木の葉のボートでも浮かばせてみよう。奥…

山道具の歌・ヘッデンの独り言

僕はヘッデン。つい最近ショップの棚にぶら下がっていたら、ああこれだ、あったあった。と小太りのオジサンが手に取って喜んでいたよ。ヘッデンと言ってわかるかな?本当はヘッドランプと言うらしい。それでも山屋さんつまり登山者やハイカーの間では簡単に…

山の犬

奥秩父の甲武信岳に知人が登山したという知らせがメーリングリストに届いた。甲州(山梨)、武州(埼玉)、信州(長野)の三州の境に立つからそう名がついた。安易とは言えるかもしれないが「こぶし」とは良い名前だと思う。彼は甲州側から登られたと言うが…

自分試し 日光・女峰山

脳腫瘍を摘出し化学治療を終えた時、山は遥かに遠い存在に思えた。 実際体はふらつき頭に痺れは残った。今もそれは概ね変わらない。しかし山やサイクリングといった体を使う趣味への思いは強く少しづつ試してきた。登り残していた山形の朝日連峰など気合のい…

迷い道

どこかで道を間違えたのだろうか。会社を早期退職し第2の人生が始まろうとする辺りから自分の周りには予期せぬ出来事が起きてくる。肉親の死、自身の病、そんな風に大切な人も自分も少しづつ世を去りあるいは病になっていく。どこかで足を外し違った道と気づ…

休日列車「楽しみの国」行き

宇都宮の駅に居た。夏も終わりで夕暮れは決して暑くない。そんな中、同駅始発の列車を待っていた。日光の2400m級の山に一泊二日かけてでじっくり登った自分は疲労感に包まれながらも無事に終えた山の余韻と満足感、下山後の立ち寄り湯、それに駅前で手早く食…

表現者礼賛

登山と山頂でのアマチュア無線運用。山に登れば電波が良く飛び下界の無線局と交信が多くできる。無線機を持っていれば緊急時に携帯電話よりも確実に誰かに連絡が取れる。SOSは誰かが聞いている。仲間内でもはぐれない。そんな二点から登山とアマチュア無線は…

出逢い

多くの日を山で過ごしたはずだ。泊まりの山ならテントが多いだろう。避難小屋も多い。営業小屋を余り使ったことがなかったのは食事付きの値段が高い事もあるし夏場など一畳3人のスペース、などという言葉に恐れをなしたからだ。その点テントは気楽で自分の求…

図書の旅25 日本百名山を楽しく登る (岩崎元郎)

・日本百名山を楽しく登る 岩崎元郎 山と渓谷社1999年 山の作家・深田久弥氏が著した「日本百名山」が主に中高年ハイカーの目標として人気になったのは何時頃からだろう。30年以上前に自分が山の世界に入ったころは違っていた。しかしその数年後にはブームに…

霧に溶けゆくニッコウキスゲ

初めてニッコウキスゲの花を見たのは何処なのか?消えかけている記憶をたどって、それは北アルプスの常念岳だったと思い出した。正確に言うと常念岳から蝶が岳へ向けての縦走路だった。大きな常念岳を喘いで登りきりガレ道を南下すると尾根道はいったん森林…

アジサイの坂

アジサイの花がお二人には似合うだろうな、そう考えて今回の山のルートを考えたのだった。昨年はその地を出身地とする友人と家内とでアジサイを見に行った。とても見事だったのでまた見たいと思っていた。 今回の山歩き。ヒデさんは会社時代の元上司。ミエコ…

出来ないはずはない

思い込みとは曲者だと思う。そんな事出来っこないよと思ったらそれはなかなか出来ない。思った時点で挑戦しようと思わないのだから結果も出るわけはない。 そんな事は自分にもある。一日の行程で標高差1000メートルを超える登山だ。地図を広げると、これ、登…

創作・水に垂れる花

山から下りる道は楽しいものだ。だんだんと人里の香りがしてくる。シイタケ栽培地のような薄暗く湿った地から乾いた畑に下り着くこともある。古びた神社の裏手に出る事もある。小さな泉が湧く谷戸の最奥に下り着くこともある。農道の片隅に道祖神やお地蔵様…

600円の後悔

山歩きはなかなかハードな運動で、行動中に水分摂取が少ないと足がつるし、空腹もある程度を過ぎるとハンガーノックをおこしてして急に動けなくなる。だから自分は山歩きに関しては一日三食というパターンをいつしか止めて、塩分タブレットと水分補給は随時…

不安定な自由

誰もいない真っ白な緩いスロープに大きなカーブを刻んだ。この程度の斜面ならリードスキーをハの字に開き外足の内エッジに体重を乗せて内足の踵を上げて雪面にフラットにするとスルスルと軽く回る。アルペンターンのように踏み込んで抜重、という感覚とは全…

胸躍る山の計画づくり

友人とファミリーレストランスに詰める。別に食事をするわけでもない。目的は山の計画作りだった。少し長い連休がくる。この時期は例年山スキーと相場は決まっていた。 山スキーとはスキーを用いた登山だ。登る山にたまたまスキーリフトがかかっているならば…

図書の旅12・CWニコルの黒姫日記(CWニコル)

・CWニコルの黒姫日記(CWニコル著。武内和代訳、講談社1989年) 自分が山を始めるきっかけとは何だったろう。はじめにアウトドアに憧れた。もともとバイクが好きで学生時代に250ccのバイクに乗り始め、これを駆り北海道などツーリングした。その後、友が持…

夢があった山道具

昔からファッションには興味が無かった。肥満気味の体にフィットする商品は少なかったのだ。 しかし唯一興味があったのはアウトドアブランドだった。高機能性は高い安全性に結び付くのでお洒落と言うよりは必須だった。ノースフェイスのマウンテンパーカ。60…

図書の旅9・処女峰アンナプルナ(モーリス・エルゾーグ)

・処女峰アンナプルナ(モーリス・エリゾーグ著 近藤等訳 ちくま少年文庫 1977年) 「聞いてくれよ!今度の新製品シリーズはコードネーム「アンナプルナ」なんだよ。」東京での製品会議に出席していた社長は帰国するなりそう言った。当時会社の商品計画には…

シュカブラの唄

雪面に風が作ったスプーンカット、シュカブラ。風紋とも雪紋とも書かれる。初めてそれを見た時にどこかで見たなと思った。「ああ、蓋を開けた時のハーゲンダッツアイスクリームか」。何ともお粗末な連想だった。アイゼンを効かせて峠から尾根に出るとそこは…

高炉を焚く・富士二ツ塚BCスキー

樹林帯を抜けると風が強かった。西から吹いてきた。その少し前から同行の友は言う。「今日も風強いな。ピークの前で辞めてもいいね」。確かにそうだった。年に一回はこの季節に必ず登っていたのだ。山頂は隅々まで記憶に残っており今更こだわる必要もない。 …

バックカントリーの事故報道に思う

今シーズンはバックカントリーでのスキーやボードの遭難事故報道をよく目にする。一つはコロナも緩和の方向に向かいスキー客が増えていているのだろう。加えて良質の雪。パウダースノーを求めて南半球からあるいは北半球からもスキーのために来日する人も多…

雪とみかん・湯河原城山

みかん畑の中をゆっくり登っていく。きつい勾配だが簡易舗装の道は細く長くうねるように続いている。みかん農家の玄関先のトレーの中に袋詰みかんが重なっていた。一袋100円。この道を歩くハイカー目当てなのか、市場に出さなくて良いのかともいらぬ心配をす…