日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

バックカントリーの事故報道に思う

今シーズンはバックカントリーでのスキーやボードの遭難事故報道をよく目にする。一つはコロナも緩和の方向に向かいスキー客が増えていているのだろう。加えて良質の雪。パウダースノーを求めて南半球からあるいは北半球からもスキーのために来日する人も多い。コロナで数年来なかった分、一気に反動で増えたのではないか。統計を目にはしていないがそんな想像をする。

ニセコノザワ、ミョウコウ、ハクバ…。これらのスキー場に行くと、西洋人の経営する宿も目に付くようになった。きっかけは何であれ、かの地の雪が好きで廃業した旅館やペンションを買い取り新たに経営する人も多いようだ。過疎化が悩みの自治体にしてみるとありがたい話で、Win-Winの構図が成立しているのかもしれない。すくなくとも貴重な水源林エリアを一気に山ごと買い占める某国人のようなやり方でもなく、日本の山村の持つ素晴らしさと共生しそれを広く海外に発信してもらえる事には好意を感じている。

バックカントリーの事故というニュースを見て気づいた。事故の多くは、スキー場のコース外の滑走ではないか。コース外に架かったスキー場のリフトに乗っていると、リフトの下にシュプールが残っていることもある。ターンのごとに作られた跡地からは雪の球が幾つも線を引いて谷へ落ちている。コース外走行か。足前に覚えのある人は昔からやっていたようだ。 ゲレンデの外、つまり管理されていない場所のヴァージンスノーを目当てに滑るというのもわかる気がする。実際粉雪は心地よいし、それはコース外に残っているのだから。

スキー場のルートは上越岩原のような巨大な一枚バーンでもない限り傾斜の緩い尾根筋をうまく利用していることが多い。林道が初心者用ルートになっていることもある。山は尾根と谷が常に隣り合う。そして谷には吹き溜まりの様に新鮮な雪が残る。そこを滑るのは確かに気持ちが良いだろうが、同時に危険だ。コースのショートカットならまだしも、谷からトラバースして尾根に戻り、また違う谷へ進む、そんなルートは自分は通りたくない。

山スキー」と呼ばれる、冬山登山の一形態がある。昭和のごく初期から、スキー場などない頃から登山家はスキー板に滑り止めを貼って慎重にルートを選んで登山した。山頂でシールと呼ばれる滑りどめを剥がし、下山はスキーだった。このジャンルは根強く残り、日本には多くのクラッシックルートと呼ばれる山スキーのルートが在る。山頂へのアプローチは下からひたすら登ることもあれば、ピークへの途上にスキー場があるならば遠慮なくゴンドラやリフトのお世話にもなる。しかしあくまでも登山だ。スキーは「目的」ではなく「手段」。自分ももう25年以上、少ない頻度ではあるがそれを楽しんでいる。

登山の一形態であるから、冬山登山と同様にルートの地形は徹底的に事前に「読む」。2.5万分の1地形図を精査しルート上の急な谷や尾根を避ける。密な等高線を避ける事が出来ない場合は実力以上と考えその山には「行かない」。また視界も大切だった。いったん滑り出してミスコースと気づいても、1分も滑ればもう取り返しがつかない場所まで滑っていることになる。登り返しは大変だ。スキーはかくも迅速だ。きちんとルートを視認してすべるべきだと知った。

スキーに限らずホワイトアウトの中でルートを失い行動能力を失うのも冬山の典型的な遭難パータンだろう。そうならぬよう、自分の山スキーの友は悪天候を徹底的に避ける。そもそもそんな天気図の時にはあっさり山を止める。絶好の有視界の時しか行動しない。そんな友と同行するにつけ、独りで始めた自分の山スキーも随分と安全意識が変わったと思う。いつかビーコンとゾンデ棒、スコップとヘルメットも山スキーのザックに加わった。今でこそスマホGPS機能で現在地がすぐにわかる。しかし周囲真っ白な中でそれを見るのか。ホワイトアウトを味わうと分かるが、方向感覚は容易に狂う。リングワンデリング(輪形彷徨)という言葉もある。視界が無い中の行動は何時しか同じ個所をぐるぐる回ることになる、八甲田での日本陸軍の雪中行軍での大遭難という、あれだ。

これ迄も薄氷を踏むようなシーンが幾つもあった。それでも目下のところは山スキーを無事に過ごしている。友のお陰もある。スキーの適期は雪が落ち着く春先で。また有視界であっても快感に任せて滑り降りる事はせずに、友との次の合流地点を決めてそこまで滑る。「次はあの三本並んだアオモリトドマツまで滑ろう」と。勿論「山スキーヤー」の事故も当然ある。様々なルートを開拓した山スキー屋の仲間たちの間での有名人の方々も幾人かは山を墓場にしている。

山スキー屋」は思っているのではないか。バックカントリーの事故と報道するけど、あれは地形も雪質もリスクも考えずに「滑りを楽しみために」コース外に飛び出す人たちだ。自分達と別にしてほしい、と。また、登山で入念に準備して入山したうえでの事故なのか、気軽なコース外での事故なのか。バックカントリーという単語には2種類のスタイルがある事。どちらのケースなのかを明確に断じてから報道してほしいと。入山時の登山届の提出が、ある種の判断基準かもしれない。バックカントリーという素敵な単語が、ネガティブなイメージで語られるのは心痛い。

春先からゴールデンウィーク迄の、雪の落ち着いた季節、ザラメ雪の季節が自分のバックカントリースキーの季節だ。ガイドブックに雪崩の「な」でも書かれていたら、パスだ。それ以外は雪原や雪の森などの比較的安全な場所でクロカンを楽しむ。これもまたバックカントリー

そろそろスキー板を取り出して整備する季節が来たようだ。友とも山スキーの計画を練り始めた。今後も安全第一でバックカントリーを楽しんでいきたい。間違っても「報じられ」たくない。雪の原に動物の足跡を追い、芽吹き始めたブナ林の中をスキーで登り、山頂で快哉を叫び、スキーでのんびり降りる。ザラメ雪は快適な回転を約束してくれるし天気が崩れる兆候もない。安全であるならばこれ以上の楽しみはないだろう。

山スキーはまず自分の足で登るところから始める。雪の状態、クレバスなどの危険を事前に把握する事ができる。山頂について滑り止めのシールを剥がすと、さぁ格好だ。5月のザラメ雪にはへっぴり腰のテレマークターンでも心地よい。(鳥海山山形県遊佐町

ブナ林の続く斜面なら山スキーに癒しが加わるだろう。おっと、生命力の強いブナの樹の根元は常に大きなツリーホールがある。ブナへの激突も、ホールへ落ちるのも避けたいところ。(信越トレイル・鍋倉山(飯山市))

山頂に至るには、スキー板の裏にシール(滑り止め)を貼って歩いて登る。踵の上がる登山用のスキーなので容易だ。あるいはシートラーゲン(担ぎ上げ)する。シートラーゲンはザックに板を刺す、または板をザイルで引っ張り上げる。後者は板が暴れるが、とても楽な方法。友は引っ張る方法が気に入っているようだ。アオモリトドマツが顔を出す緩い斜面を、山頂目指して登る。(西吾妻山山形県米沢市

目指す山頂まであとわずか。往路の尾根道にはシュルンド(クラック)もあり気が抜けなかった。(会津駒が岳・福島県桧枝岐村)

少し気が早いがシーズン・インの準備を始める。テレマークの簡易なビンディングを付けた3セットの板。一本はウロコ板。もう二本は自分で回転砥石でウロコ加工したもの。性格の異なる三本、さて手始めはどれで行くか。