日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

技あり?一本?スーパーの音楽

たいがいスーパーマーケットでは、有名な曲(ビートルズや80年辺りの洋楽)などをキーボード主体やオーケストレーションで編曲した、少しがっかりするチープな音楽が流れていたりする。版権が絡むのだろうか、オリジナルの音源を聴く事もない。・・・。

しかし西友は凄い。よく行く西友は3軒あるが、そのいずれでも流れる音楽は共通のようだった。今日の西友もいつも通りだった。店内放送のスピーカーから流れてきた切ないボーカルに胸が躍った。またある時は軽快なギターのカッティングだった。そしてその次は柔らかなオーケストレーションに乗ってファルセット風な優しいヴォーカルが流れていた。

西友に関しては、店内に流れる音楽は「がったりした音楽」ではない。当時のオリジナル音源が流れるのだった。それも聴く範囲では、どれもが決まっていた。70年代までの「ソウル・ミュージック」。それはまさに自分の嗜好とピタリだった。

ジャクソンファイブ(マイケル・ジャクソン)、マーヴィン・ゲイダイアナ・ロス・・・、このあたりのモータウンサウンドが流れるのなら話は分かるが、西友はもう少しひねった選曲をポンポンと流してくる。こちらは買い物どころではなくなってしまう。

ソウルミュージックは「踊るための音楽」。買い物をしながら自分は無意識にビートを拾ってしまう。踊ってしまうのだ。横で家内は「恥ずかしいからやめなよ」という。しかしソウル音楽を聴いて体を動かすなというのは、餌を前にお座りしている犬にもう一時間待てというのと同様に、まったく無理な話だった。

ある日は REID Inc の What Am I Gonna Do。軽快なギターのカッティングとグルーヴィなハイハットとベースライン。友人にしてブラックミュージックの大家でもあるBVJ氏の著作「Rare Groove A to Z(リットーミュージック刊)」によると女性コーラスグループのこのナンバーはレア・グルーヴに分類される。マニアのみぞ知るという曲だった。

今日は、これだった。切ないヴォーカルは ♪One Last Chance と唄っていた。Jeffreeが1979年に発売した曲、One Last Chance。北部のソウルミュージックだがモータウンではないようだ。

次に流れてきたのは柔らかな歌声にファルセットを交え、更にフニャフニヤ鳴るいつものテレキャスターの音で直ぐわかるのだった。ああカーティス・メイフィールド。ソウルの巨人に挙げられるだろう。ナンバーはTrippin Out。

ははあ、スーパーマーケットに何故音楽が流れているのかわかるような気がする。買い物客に軽快な心を思い起こさせ、要らないものまでも籠に放り込まそうという狙いではないか。 しかし思い出すのはかつて住んでいたドイツやフランスのスーパーマーケットだった。ドイツのどの町でも見かける食料品店Kaiser'sでは音楽はなっていなかった。REALという大型店だけは例外的だった。♪Das Ist REAL (これぞ本物!)というワンフレーズの音楽が終始なっていた。うちの店は安い、これが真実、とでも言いたかったのだろうか。しかしフランスのスーパー、AuchanでもChampionでもCarrefourでも、店内は静かだったと記憶する。

するとこの店内に流れる音楽というのは日本だけの世界だろうか? 中国や東南アジアのスーパーはどうなのかあまり記憶にない。西洋のスーパーで音楽を耳にした記憶が無いのは、忘れたのか、実際に流れていないのか。後者であるならばそこに日本人との民族的な差異がありそうだ。宗教観に根差しているのかもしれない。ちょっとした考察のネタかもしれない。

しかし音楽が人を嬉しくさせるのは事実だ。すると「音楽→ビート→自然に動く体→軽快な気持→緩む財布」という図式も成立するしどうも万国共通な気がする。乗れる音楽は民族性によって違うかもしれないが。

農耕民族の日本人は田植えのリズムが身についているが騎馬民族の西洋人は乗馬のリズム。だから日本人は表拍、西洋人は裏拍が自然に出ると言われる。テレビで見るのど自慢などの会場風景は皆さん見事に表打ちの手拍子。誰ひとり裏拍を打つ人はいない。であれば店内にソウルミュージックを流す意味もよくわからない。ブラックミュージックは裏でノルのだから。

イオンやセヴン&アイの店内では流れないソウルミュージックが何故西友で?それもかなりコアなサウンド。一度お店の音楽を担当している方に聞いてみたいと思う。なぜソウルなのか?一体選曲は誰がどんな思考の下でやっているのかと? 

裏拍でノルというリズム感で客を歩かせ商品棚の隙間の商品にももらさず視線を向けさせるという戦術か。あるいはブラックミュージックファンを囲い込み、そのうちにフィリーチーズステーキやイタリアンビーフあたりの、フィラデルフィアやシカゴあたりのディープなソウルフードでも販売し始めるという遠大な戦略なのだろうか。いや、何も考えないで好きな曲を流しているだけかもしれない。もちろん西友で流れるソウルナンバーのごく一部しか知らないので相手は相当なツワモノに違いない。是非お会いして薫陶を得たいところだ。

確実なのは、今日も今すぐ必要でない食材や買わずにいることのできるお菓子などを余分に買い込んだことだった。今夜のメニューは予算超過してしまった。まさにビートの聴いた音楽を放ち続けるスーパーに・選曲担当者さんに、技ありどころではなく見事に一本取られた訳だ。貴方の戦術には脱帽だ。

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西友店内で流れていた曲・・・もっと自分の中でソウルのアーカイブが豊富なら、この店のBGMももっと楽しめるはず。沼へ誘うガイド本もある。未知へと扉は何時も開かれている。

https://www.youtube.com/watch?v=Mq8R-ro2Gtg What Am I Gonna Do / Reid Inc
https://www.youtube.com/watch?v=cJC7o_yEGbo Once Last Chance / Jeffree
https://www.youtube.com/watch?v=Fyf3D81N9N4 Trippin Out / Curtis Mayfield 

時として想定以上の買い物をさせてしまうソウルミュージック。頭と体はたちどころに反応しリズムに乗ってしまう。その調子で買い物かごが満たされる。ただ脱帽。