日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

図書の旅

図書の旅50 1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター

●1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター 五十嵐貴久 双葉社2007年 本を読んで泣く事など忘れていた。しかしやられた。涙が止まらなかった。 高校受験に失敗した中学浪人の息子をもつ主婦。男運がなく離婚を繰り返しマルチに引っかかり借金を抱える独身女。…

図書の旅49 光の台地

●光の台地 辻邦生 毎日新聞社 1996年 本について何かを語る時にはやはり自分の好きな作家が冒頭に来る。これだけは仕方がない。それだけ多くのことを、そして本と言う広い海を旅することを教えてくれたのだから。自分の好きな作家を挙げるならばやはり北杜夫…

図書の旅48 約束の海 山崎豊子

●約束の海 山崎豊子著 新潮社 2014年新潮社 故・田宮二郎はクールな美男子だった。神経質そうでもあった。そんな彼は猟銃を口にくわえて足で引き金を引いた。その直前までそんな彼が主演するテレビドラマがお茶の間で人気だったのだから社会に与えた衝撃は大…

図書の旅47 ヨハネスブルグへの旅 ヴィバリー・ナイドゥー

● ヨハネスブルグへの旅 ヴィバリー・ナイドゥー著 もりうちすみこ訳 さえら書房 2009年 不思議に思ったことがある。だがそれも今ではいつの事かは思い出せない。もちろんサッカーワールドカップの歴史を紐解けばわかる。調べてみた。2010年の事だったか。 …

図書の旅46 カブールの園 宮内悠介

● カブールの園 宮内悠介 文集文庫 2020年 日系移民が登場する・舞台になる本は二冊読んだことがある。一つはアントニオ猪木の自伝、そしてもう一つは山崎豊子の長編小説「二つの祖国」だった。前者は貧困故家族そろってブラジルへ移民し、猪木氏は肉体的な…

図書の旅45 旧約聖書を知っていますか

●旧約聖書を知っていますか 阿刀田高 新潮文庫 1994年 スパイ大作戦、またはミッションインポシブル。人によっては、格好良すぎるトム・クルーズ演ずるイーサン・ハントの嘘のようなアクション映画を思い出すだろうし、あるいは渋いピーターグレイヴス演ずる…

図書の旅44 深い川 遠藤周作

● 図書の旅44 深い川 遠藤周作 講談社 1993年 遠藤周作は自分にとっては、北杜夫がどくとるマンボウであったように、狐狸庵先生であり軽妙洒脱なエッセイストだった。しかし北杜夫が繊細な感性を持った作家であったように遠藤周作もまたキリスト教徒として人…

図書の旅43 女のいない男たち

● 女のいない男たち 村上春樹 文芸春秋社 2014年 自分にとっては三冊目の村上春樹になる。図書館の棚には知らない作家ばかりとなったが足が止まる条件とはこんなところだろうか。知っている作家の場合。知らなくともその本の題名に目が留まった場合。もちろ…

図書の旅42 小澤征爾 覇者の法則

●小澤征爾 覇者の法則 中野雄 文芸春秋社2014年 世界のオザワ。クラシック音楽に興味が無い方でも知っているだろう。日本人指揮者は沢山居るが少なくとも欧州と米国では小澤征爾は人気知名度の点で別格だろう。西洋音楽とは無縁の遥か東の国からやってきてか…

図書の旅41 中国行きのスロウ・ボート 

・中国行きのスロウ・ボート 村上春樹著 中公文庫1986年 自分はハルキストではない。何故人気があるのかも知らなかった。会社の同じ日本人駐在員から貸していただき唯一読んだのは長編小説「半島を出よ」だった。当時は活字としての日本語に飢えていた。まぁ…

もう行くのか?

庭に木を植えてから俄然来客が増えた。鳥だった。ホトトギスもカッコウも数か月前までは毎朝うるさいほどに鳴いて、自分を覚醒に誘ってくれていた。が、何時しか聞かなくなってしまった。彼らが鳴く理由がパートナーへの求愛であるならばそんな繁殖の季節は…

かがやく道

音楽に気軽に接することが出来る、手軽に静かに本が手に取れる。そんな街に憧れている。それにはもちろん、東京や横浜が良いのだろう。世界屈指のオーケストラが、ソリストが来日するし音楽会など毎日どこかで行われている。ドームには大物バンドも来日する…

図書の旅40 マイ・ブラームス

●マイ・ブラームス 舟木元 文芸社2006年 この1600字の文章の題を考える時に僕にはこう浮かんだ。「美男子なのに得をしない」と。普通に考えるとハンサムは得をする。醜男は眉目秀麗な男子を見てため息をつくだろう。羨ましい、と。ではその得とは一体何だろ…

図書の旅39  約束の国への長い旅

●約束の国への長い旅 篠輝久著 リブリオ出版 1988年 一本のレールが続いていた。それは壁に向かっていた。壁にただ一つある門を抜けると広大な敷地だった。そこにはレンガで作ったマッチ箱のような建物がいくつも整然と並んでいる。その箱はすぐにも倒壊しそ…

図書の旅38 海と毒薬 遠藤周作

●海と毒薬 遠藤周作 角川文庫 昭和35年 コロナが世の中を変えてから発熱程度で気軽に通院する事が出来なくなった。発熱外来と言う予約制の診療科が出来た。病院に来る人の多くは発熱だろうから発熱外来とは何だろう、と思うのだった。昨年末に軽い誤嚥を起こ…

図書の旅37 マゼランの世界一周

●図書の旅37 マゼランの世界一周 シュテファン・ツヴァイク作 白木茂訳茜書房1975年 そこは確かに新宿・歌舞伎町にある居酒屋だった。マルコ・ポーロという店名だった。友と二人で歌舞伎町に来たのには目的があった。街の東側には当時はビニ本屋が多くあった…

図書の旅36 朝比奈隆 この響きの中に

●この響きの中に 朝比奈隆 実業之日本社 2000年 指揮者の書いた自伝を読んだのは二冊目だ。一冊目は小澤征爾による「ボクの音楽武者修行」だった。桐朋学園で斎藤秀雄氏に指導を受けて、スクーター一台ともに貨物船でフランスに渡りブザンソンのコンクールで…

高度一万メートルの友

旅行用のキャリーバックを手にしたのは久しぶりだった。かつては月に数度もゴロゴロとこれを玄関から転がしていた。機中泊を入れたとて五泊程度だろうか。これとビジネスバッグだけで出張していた。メンタルを病み閑職に移り海外出張は無くなった。もう不要…

図書の旅35 山とスキーとジャングルと 本多勝一

●山とスキーとジャングルと 本多勝一 山と渓谷社 1987年 本多勝一の単行本を初めてどこで目にしたのかを一生懸命思い出そうとしていた。しかし記憶は曖昧としている。確かあれは学生時代だった。僕は友人と二人で女友達の引っ越しを手伝ったのだったように思…

図書の旅34 ホテルカイザリン 近藤史恵

●ホテルカイザリン 近藤史恵 光文社 2023年 普段あまり本を読まない妻が「この本を読みたい」というのも珍しい事だった。図書館に申し込んだら数日で電話が掛かってきた。前回の閲覧が終わり返本されたという。奥付の履歴スタンプを見ると今年の十月に納品さ…

図書の旅33 金閣寺 三島由紀夫

●金閣寺 三島由紀夫 新潮社1990年 怖かった。書棚に近づけなかった。いつも見ないふりをして通り過ぎていた。それでいいのか、という声がしたが無視していた。これを読んだら自分も肉体改造にいそしみ、結社を作り、日本刀を片手に何処かに殴り込むのではな…

図書の旅32 泪壷 渡辺淳一

・涙壷 渡辺淳一 講談社 2001年 これが「あたるといいな」、そう思って手にした。やや急いでいたため冒頭数ページをパラパラめくって貸本カウンターへ向かった。 渡辺淳一を夢中で読んだ時期は高校か大学の頃だろう。それは彼のキャリアの中では初期の作品だ…

図書の旅31 荒地の家族 佐藤厚志

● 荒れ地の家族 佐藤厚志 新潮社2023年 会議が終わったころだった。ドスンと地面が揺れてしばらく続いた。周りから「おお!」と声がした。昭和30年代製の旧い鉄筋建築の中に居た自分は怖くて外に出てしまった。防災訓練がいきわたっている社員はみな大人しく…

世田谷区松原・北杜夫と宮脇俊三

一年だけ東京都民だった。それは二十三区ではなく世田谷区の西隣、狛江市だった。大学に通うためだった。小田急線を使い下北沢で井の頭線に乗り渋谷に出るか、代々木上原で千代田線に乗りかえて表参道に出るかだった。小田急線は世田谷区を東西に切るように…

図書の旅30 昭和八年渋谷駅 宮脇俊三

●昭和八年渋谷駅 宮脇俊三 PHP研究所1995年 そこは「エーデルワイス」というレストランだった。僕は叔母と二人だった。大田区の叔母の家に泊まりに行った翌日にその街へ行っのだろう。母と違い気さくで明るい叔母を僕はとても好きだった。直ぐそばの児童館で…

図書の旅29 作って遊べ工作図鑑 かざまりんぺい えびなみつる

● 作って遊べ工作図鑑 かざまりんぺい えびなみつる 誠文堂新光社 2004年 幼心の自分に影響を与えた出版社といえば三社だろうか。怪人二十面相シリーズのポプラ社。そして、誠文堂新光社と科学教材社。児童書のポプラ社は別として、後者二社は間違えなく自分…

図書の旅28 ぐりとぐら(なかがわりえこ)

●ぐりとぐら 中川李枝子昨、大村百合子絵 福音館書店 1963年 手にした施設の蔵書の絵本は第170刷、2007年とあった。初版は自分の生年の版だったのか。重版を重ねているのだろう。幼い頃自分も母に読んでもらった記憶があるし、妻が子どもたちに読み聞かせて…

無くなった鉄格子

子供の頃近所に精神科の病院があった。鉄筋コンクリート3階建てほどの大きな病棟だった。病室の窓には鉄格子があった。その前を通るのは幼心にも怖かった。鉄格子から「出してくれー」とが腕が伸びて柵を壊すように思えた。実際に腕は出て奇声を発する方も居…

図書の旅25 日本百名山を楽しく登る (岩崎元郎)

・日本百名山を楽しく登る 岩崎元郎 山と渓谷社1999年 山の作家・深田久弥氏が著した「日本百名山」が主に中高年ハイカーの目標として人気になったのは何時頃からだろう。30年以上前に自分が山の世界に入ったころは違っていた。しかしその数年後にはブームに…

図書の旅24 へこきよめご(虹野智治)

・へこきよめご 虹野智治 ひかりの国(株)2004年 職場の蔵書。読んでいて思わず吹き出してしまった絵本。題名がなまっているように思えたので何となく東北の話ではないかと想像した。しかし子供に夢を与える本に一番向いていないのは地名などをつまびらかに…