日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

図書の旅

図書の旅39  約束の国への長い旅

●約束の国への長い旅 篠輝久著 リブリオ出版 1988年 一本のレールが続いていた。それは壁に向かっていた。壁にただ一つある門を抜けると広大な敷地だった。そこにはレンガで作ったマッチ箱のような建物がいくつも整然と並んでいる。その箱はすぐにも倒壊しそ…

図書の旅38 海と毒薬 遠藤周作

●海と毒薬 遠藤周作 角川文庫 昭和35年 コロナが世の中を変えてから発熱程度で気軽に通院する事が出来なくなった。発熱外来と言う予約制の診療科が出来た。病院に来る人の多くは発熱だろうから発熱外来とは何だろう、と思うのだった。昨年末に軽い誤嚥を起こ…

図書の旅37 マゼランの世界一周

●図書の旅37 マゼランの世界一周 シュテファン・ツヴァイク作 白木茂訳茜書房1975年 そこは確かに新宿・歌舞伎町にある居酒屋だった。マルコ・ポーロという店名だった。友と二人で歌舞伎町に来たのには目的があった。街の東側には当時はビニ本屋が多くあった…

図書の旅36 朝比奈隆 この響きの中に

●この響きの中に 朝比奈隆 実業之日本社 2000年 指揮者の書いた自伝を読んだのは二冊目だ。一冊目は小澤征爾による「ボクの音楽武者修行」だった。桐朋学園で斎藤秀雄氏に指導を受けて、スクーター一台ともに貨物船でフランスに渡りブザンソンのコンクールで…

高度一万メートルの友

旅行用のキャリーバックを手にしたのは久しぶりだった。かつては月に数度もゴロゴロとこれを玄関から転がしていた。機中泊を入れたとて五泊程度だろうか。これとビジネスバッグだけで出張していた。メンタルを病み閑職に移り海外出張は無くなった。もう不要…

図書の旅35 山とスキーとジャングルと 本多勝一

●山とスキーとジャングルと 本多勝一 山と渓谷社 1987年 本多勝一の単行本を初めてどこで目にしたのかを一生懸命思い出そうとしていた。しかし記憶は曖昧としている。確かあれは学生時代だった。僕は友人と二人で女友達の引っ越しを手伝ったのだったように思…

図書の旅34 ホテルカイザリン 近藤史恵

●ホテルカイザリン 近藤史恵 光文社 2023年 普段あまり本を読まない妻が「この本を読みたい」というのも珍しい事だった。図書館に申し込んだら数日で電話が掛かってきた。前回の閲覧が終わり返本されたという。奥付の履歴スタンプを見ると今年の十月に納品さ…

図書の旅33 金閣寺 三島由紀夫

●金閣寺 三島由紀夫 新潮社1990年 怖かった。書棚に近づけなかった。いつも見ないふりをして通り過ぎていた。それでいいのか、という声がしたが無視していた。これを読んだら自分も肉体改造にいそしみ、結社を作り、日本刀を片手に何処かに殴り込むのではな…

図書の旅32 泪壷 渡辺淳一

・涙壷 渡辺淳一 講談社 2001年 これが「あたるといいな」、そう思って手にした。やや急いでいたため冒頭数ページをパラパラめくって貸本カウンターへ向かった。 渡辺淳一を夢中で読んだ時期は高校か大学の頃だろう。それは彼のキャリアの中では初期の作品だ…

図書の旅31 荒地の家族 佐藤厚志

● 荒れ地の家族 佐藤厚志 新潮社2023年 会議が終わったころだった。ドスンと地面が揺れてしばらく続いた。周りから「おお!」と声がした。昭和30年代製の旧い鉄筋建築の中に居た自分は怖くて外に出てしまった。防災訓練がいきわたっている社員はみな大人しく…

世田谷区松原・北杜夫と宮脇俊三

一年だけ東京都民だった。それは二十三区ではなく世田谷区の西隣、狛江市だった。大学に通うためだった。小田急線を使い下北沢で井の頭線に乗り渋谷に出るか、代々木上原で千代田線に乗りかえて表参道に出るかだった。小田急線は世田谷区を東西に切るように…

図書の旅30 昭和八年渋谷駅 宮脇俊三

●昭和八年渋谷駅 宮脇俊三 PHP研究所1995年 そこは「エーデルワイス」というレストランだった。僕は叔母と二人だった。大田区の叔母の家に泊まりに行った翌日にその街へ行っのだろう。母と違い気さくで明るい叔母を僕はとても好きだった。直ぐそばの児童館で…

図書の旅29 作って遊べ工作図鑑 かざまりんぺい えびなみつる

● 作って遊べ工作図鑑 かざまりんぺい えびなみつる 誠文堂新光社 2004年 幼心の自分に影響を与えた出版社といえば三社だろうか。怪人二十面相シリーズのポプラ社。そして、誠文堂新光社と科学教材社。児童書のポプラ社は別として、後者二社は間違えなく自分…

図書の旅28 ぐりとぐら(なかがわりえこ)

●ぐりとぐら 中川李枝子昨、大村百合子絵 福音館書店 1963年 手にした施設の蔵書の絵本は第170刷、2007年とあった。初版は自分の生年の版だったのか。重版を重ねているのだろう。幼い頃自分も母に読んでもらった記憶があるし、妻が子どもたちに読み聞かせて…

無くなった鉄格子

子供の頃近所に精神科の病院があった。鉄筋コンクリート3階建てほどの大きな病棟だった。病室の窓には鉄格子があった。その前を通るのは幼心にも怖かった。鉄格子から「出してくれー」とが腕が伸びて柵を壊すように思えた。実際に腕は出て奇声を発する方も居…

図書の旅25 日本百名山を楽しく登る (岩崎元郎)

・日本百名山を楽しく登る 岩崎元郎 山と渓谷社1999年 山の作家・深田久弥氏が著した「日本百名山」が主に中高年ハイカーの目標として人気になったのは何時頃からだろう。30年以上前に自分が山の世界に入ったころは違っていた。しかしその数年後にはブームに…

図書の旅24 へこきよめご(虹野智治)

・へこきよめご 虹野智治 ひかりの国(株)2004年 職場の蔵書。読んでいて思わず吹き出してしまった絵本。題名がなまっているように思えたので何となく東北の話ではないかと想像した。しかし子供に夢を与える本に一番向いていないのは地名などをつまびらかに…

図書の旅23 カラヤン幻論 裄野 條

・カラヤン幻論 裄野 條(ゆきのじょう) アルファベータ 2013年 自分が初めて自ら欲しくて手にレコード。小学校1,2年の頃だ。それは資生堂のテレビコマーシャルで流れていた壮大で優美な曲だった。どうしてもそれが欲しくてレコード店に行った。その店でうろ…

図書の旅22 おいしいらーめんのおはなし ( 岡田ゆたか)

・おいしいらーめんのおはなし 岡田ゆたか ひかりのくに(株) 2004年 絵本を引き続き手に取っている。「おいしいらーめんのおはなし」と来たか。ファンとしては黙ってはおられまい。「麺巡礼」「麺修行」と称して悦に入って、好きなラーメンの為には車で数時…

図書の旅 21 つくしんぼ (矢部美智代) 

・つくしんぼ 矢部美智代 ひかりのくに(株) 2005年 絵本を読んでみた。大人向けの小説よりも読み切るのが早いし、色々考える事がある。そもそも絵本は子供向けの書だ、と誰が決めたのだろう。大人が純な気持ちと繊細さをもって書いて描いたのだから、大人が…

図書の旅20 辻が花 くれない(立原正秋)

・辻が花 くれない (立原正秋・1998年・メディア総合研究所) 2か月前に立原正秋の短編集1巻を借りた。渚通りというタイトルだった。この短編集は第2巻・辻が花、第3巻・くれない がある。学生の頃から好きな作家だったのでもちろん二冊続けて借りてしまっ…

図書の旅19 今日もお疲れ様(群ようこ)

・パンとスープとネコ日和 今日もお疲れ様(群ようこ・角川春樹事務所・2020年) 妻がサブスク動画サイトで見ていたドラマがこれだった。ちらりと横目で見たらすぐに画面に引き込まれた。テレビのドラマや映画などは観るのに時間がかかるので自分はまず見な…

図書の旅18 蛍川(宮本輝)

・蛍川(宮本輝・筑摩書房・1978年) 宮本輝の小説を読んだことはなかった。思春期の頃に触れていたら、もしかしたら少し違う自分になっていたかもしれない、そんな事を考えた。 手にした本は宮本輝のデビュー作にして太宰治賞を得た「泥の河」、それにその…

図書の旅17 銀河鉄道の夜

・銀河鉄道の夜(宮沢賢治・福武書店・1987年) 岩手県の山は数えるしか登ったことが無い。岩手山、早池峰山、八幡平、そしてこれは三県にまたがるが栗駒山。その程度だ。まだまだ登りたい山が岩手に沢山ある。奥羽山脈は南北に長く、その一派。とりわけ盛岡…

図書の旅16 香川県の民話

・香川県の民話 (日本児童文学者協会・偕成社・1985年) 自分の出身地は香川県。育ちの多くは神奈川県になるが、出身は?と聞かれると胸を張って香川と答える。小さな県だが地理学的には東讃、中讃、西讃に分かれるようだ。東から高松。坂出・丸亀・善通寺…

図書の旅15・素晴らしい人体(山本健人)

・素晴らしい人体(山本健人著・ダイアモンド社・2022年) 普通に生活しているなら手足や臓器の役割を改めて感じる事もないだろう。当たり前に考え、動いているのだから。しかしそのバランスが崩れる。「病気」になると色々な事が見えてくるのだな。それがこ…

図書の旅14・二十三階の夜(曽野綾子)

二十三階の夜 (曽野綾子著 1999年 河出書房) 曽野綾子の小説やエッセイにはほとんど触れたことはなかった。高校生の頃に読んだのは「太郎物語」だった。曽野氏の息子・太郎氏がモデルなのだろうか。名古屋の大学に入学、始まった太郎の一人住まい生活とそ…

知りたい気持ち・ルカ福音書

近所の地区センターの図書室に通うようになり数か月たった。蔵書は少ないが、全く飽きない。絵本、少年向け科学図書、古今東西の著、最新刊。図書室ではゆっくり新聞を広がるご老人も居ればノートを広げ課題に取り組む中高生もいる。彼らを見ながら本の棚に…

図書の旅13・渚通り(立原正秋)

・渚通り(立原正秋著 1998年 メディア総合研究所) 文学作品には作者自身の生き様や、こうありたいという理想、価値観、自身が問題と捉えていることとそれに対する考え、などが前面に出てくるのだろうか。私小説ならそれが比較的わかりやすく出てくるのだろ…

図書の旅12・CWニコルの黒姫日記(CWニコル)

・CWニコルの黒姫日記(CWニコル著。武内和代訳、講談社1989年) 自分が山を始めるきっかけとは何だったろう。はじめにアウトドアに憧れた。もともとバイクが好きで学生時代に250ccのバイクに乗り始め、これを駆り北海道などツーリングした。その後、友が持…