日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

2025-01-01から1年間の記事一覧

鈴の唄

私の通勤路は川の土手だ。右手に汚れた川、左手には住宅地が続く。川はもう五十年来、変わらない。相変わらず臭い。しかし、中流にできたサッカー競技場の地下に巨大な調整池を造ったことで、辺りを悩ませていた洪水もなくなった。そんなこともあり、土手の…

ある集い

人が五人集まればうまい具合にひとかたまりになる、そんな経験則を持っている。多様性という意味だ。何が何でもこうしたいと主張する人、周りの成り行きを見てうまく折衷案を作ろうとする人。ストレートではないが密かに自分のやりたい方向に持っていこうと…

生き急ぎ

水着を履いたのはひと月ぶりだった。 とある人と会合してからもう二十日近く経ってしまった。その方はマスクをされてはいたが、翌日インフルエンザと判定されたという。 と同時に、自分も咳が出始め、喉の痛みもあった。翌日には熱も出た。医者に行ったが、…

色の競争心

勝負ごとにこだわるのが好きではなかった。勝っても負けても、自分には関係がないと思っていた。子どもの頃は、巨人が勝つと嬉しかった。それは王や長嶋が活躍すると格好よかった――それだけのことだ。 歳を重ねてからは、そんなことにいちいちエネルギーを費…

朱の玉

入院していた癌の病室は六階の西向きの部屋だった。その隣はデイルームという休憩室でそこには公衆電話や自販機、雑誌などが置いてあった。白いシーツに寝具、白く明るい壁。清潔にも関わらずなぜ病室は陰惨なのだろう。主のいなくなったベッドから漂う寂寥…

祖父の誓い

なあ、お前さ、よくクハだのモハだのサハだのと言ってるけどさ、それはなに?モハは嫌なんだろ。 カーリーヘアの友人がそう聞いてくる。流行りのファッション誌を彼は手にしている。クハは運転台付き、モハはモーター付き、サハは何も付いていない奴。モハは…

白き直方体

鍋物に入っていないと不機嫌になるもの。夏の日はそれに枝豆があればビールが進むもの。そして時に豆板醤や豚肉、ネギとともに炒められるて人々に汗を掻かせるもの。茹でられても、そのままでも、炒められても美味しい。味の七変化だ。 友人の話をしよう。大…

9000キロ彼方から

今日はここからか。さまざまな場所に座ってきたものだ。ある時は最前列のやや下手側、ある時は中段列の中央。そしてある時は舞台裏の座席から。さらに舞台袖の二階席から。 舞台裏の席は、最高だった。あの時、コンサート・マスターとアイコンタクトをしなが…

摂氏二百度のぬくもり

太陽って、暖かいよね。いったい何でできているのだろう。なぜ燃えるのかな。どのくらいの温度があるのだろう。そんな疑問は、子どもなら誰もが一度は抱くはずだ。 「太陽は太陽系の中心にあり、水素とヘリウムでできた高温のガスの塊で、その表面温度は約六…

黒いまなこ

ここ数日、咳が止まらない。コロナでもインフルエンザでもなかった。普通の風邪だ。咳をするたびに右の肺の下あたりが差し込むように痛む。悪いことに、寒気もまたぶり返してきた。 寒気は急にやって来る。ガタガタと震えだす。トイレもそこそこにベッドに倒…

テレキャスターの星空

三か月前から通い始めたギター教室だ。思えば、ギターという楽器には、ずっとどこかで惹かれてきた気がする。 自分にとって最初のギターは、中学一年のとき、友人がジャカジャカ鳴らしていたアコースティックギターだった。けれども、そのときは特に熱中しな…

 風に吹かれる袋

「ゴミ、落とされましたよ。」 そこは土手道だった。夕暮れに向かう、いや、昼下がりの気だるさがまだわずかに残る午後だった。川沿いのアパートからは、エアコンの室外機の唸りがのんびりと響いてくる。そんな音を背に、私はゆっくりと歩いていた。 土手の…

ハクションの向こう側

何故だか分からないが僕はくしゃみが大きい。職場で思わずくしゃみをすると誰もが振り向く。やってしまった、と、机の上にティッシュの箱を置くようになった。、 家では何も気を使わずにくしゃみをする。ハクション、ハクション、チクシヨウ、ハクション、ク…

冷たい湿度

寒いと乾燥するものだ。テレビの天気予報では「乾燥に注意。火事に気をつけましょう」と話される。ウイルスが風に乗ってくるのか、街行く人のマスク越しの顔も赤い。熱があるのだろうか。 ここ数日、ずっと風邪気味だった。もともと喘息を持っているのだから…

他山の石 - クマの国から

世の中の話題は、いったいどこから湧いてくるのだろう。季節の話、政治、スポーツ――特に大谷選手の活躍は、日本中を明るくしてくれる。報じる側にとっても格好の題材だろう。 だが、世の中を賑わせているのはそればかりではない。芸能人の性加害や被害、米騒…

右肩上がりの幻

いつも、右肩上がりでなければならない。急坂はありえない。緩やかな斜度を装う。そんな折れ線の下に、もう一本の線が伸びていく。二つの線は、まるでシンクロしているように見える。どちらも下がることは許されない。 だが、どこまでも上り続けることなど、…

お父さん、もう出た?

相変わらず温泉は気持ち良い。まずはサウナで十分間、汗を流す。そして水風呂へ。そこから露天へと、コースは決まっている。温泉施設は市内にいくつもあるが、贔屓にしているのはそのうち二、三か所だ。サウナが熱い、水風呂が広い、露天が気持ち良い——いろ…

憧れの響き

仕事で初めてウィーンに行った時は、夢見心地だった。旧市街を馬車が走る。石畳を歩いていくと視界が広がり、そこに大きな大聖堂が現れる。ザッハトルテで有名な菓子屋はそのあたりだ。そんな中世の風景の中で名物のウインナコーヒーにケーキも良いが、そこ…

私の部門で

スーパーマーケットは昔から好きだ。食べるものを買うのだから嫌いなわけが無い。今日は何を作ろうか、そう考えながら歩く。はじめからメニューを決めていることもあれば、店内を歩きながら決めることもある。特売品には弱いのだ。 寒い数日だった。今日は鍋…

還暦男たちの冒険

その集いは何だろう。鉄、正確に言えばクロムモリブデン鋼、で出来たホリゾンタルフレームの自転車。その古臭いが美しいフォルムを愛する仲間たちの集いだった。更に言えばメンツは誰もが元は会社の先輩達、それにその友人だ。うち一人は香港から帰化してい…

神の国の子供たち

ニッカズボンにニッカポッカ。そんな古風なサイクリング姿の初老の男が、華やかに美しい家族の写真を撮っているのだった。何だろう、カメラを戻した男は顔をぬぐっている。 なぜかわからぬが、手が震えた。震えはカメラを持つ手が揺れるからだった。 「お撮…

アキレウスの戦車

あれ、サツキは二本植えたはずだ。一本はどうしたのかなぁ。 高原に冷たい空気が落ちてきた。まるで投網のような寒気団だった。漁師は網を投げて、しばらくしてから裾を引っ張る。カサゴにスズキがたくさん入っている。船に上げると網が小さく跳ねまわり、陽…

チェックメイト・キングツー

子供の頃、飛行機や戦車の絵をノートに描きながら、戦争映画に夢中になった。ヴィック・モローという俳優をご存知だろうか。撮影中の事故で命を落とした彼の姿は、子供心に鮮烈に残った。モローの当たり役、テレビドラマ「コンバット」で演じたサンダース軍…

美味しいと唸る店

グルメレポートは今のテレビ番組でも欠かせないだろう。グルメも情報番組としての放送か、作り手の人生へ焦点を当てたものか、いろいろなアプローチがあるようだ。そこに旅行や、街歩きなどの要素を絡めた番組も多いように思う。旅先で出会ったおいしいグル…

夜の雲

週に一、二度、都会に通っている。特急列車で一時間十五分、関東平野の西端の駅に着く。そこから横浜の港へ向かう通勤電車に乗り換えて職場に着く。通勤電車の風景は今も昔も変わっていない。変わったと言えば誰もがスマホを見ているだけで、相変わらずぎゅ…

電脳王国の誘惑

あれは中国の深センだったか。いくつもの雑踏の裏通りに、怪しげな電子部品を売る店が軒を連ねていた。どの店の看板にも、こんな四文字がネオンで光っている。「電脳市場」と。 漢字の国だ。西洋人がその習得にもっとも悩む漢字。語源は物の形からきた象形文…

今夜はおでんで

今夜は寒いから今日はスンドゥブを作るんですよ そんなメッセージが友から届いた。韓国料理は好きだけれど詳しくはない。チゲ鍋との違いもよく分からないけれどなんだか美味しそうに思えた。 ウチはおでんで。昨夜の残りに好きな具を足して少し増やします。…

早く作りたい

自分の聴く音楽はクラシック、ソウル、ロックになる。後者二つは1978年あたりまでの音と決まっている。いずれも生の人間が楽器を演奏しグルーブを作り出している。しかしその頃を境にシンセサイザーが出現し音を飾り立てて空間を埋め尽くし音楽は厚化粧…

花を落とす日

お友達の奥様が見えた。ご夫妻と知り合ったのはもう三十年も昔だろうか。その頃は都会に住んでいらしたが高原に移住されたのはもう十五年も前だろう。 以来登山やサイクリングの帰り道に立ち寄っていたらいつか自分も還暦の年からその高原に住むようになった…

霧と言う言葉は何故か好きだ。すべてをミルク色に染めてしまう。良いことも悪いことも霧の中に隠れるのだ。今朝起きると窓の光が白かった。居間のカーテンを開けると乳白色だった。手を伸ばせが粒子をつかめそうだがそうもいかない。霧の正体はもちろん水分…