日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

今夜はおでんで

今夜は寒いから今日はスンドゥブを作るんですよ

そんなメッセージが友から届いた。韓国料理は好きだけれど詳しくはない。チゲ鍋との違いもよく分からないけれどなんだか美味しそうに思えた。

ウチはおでんで。昨夜の残りに好きな具を足して少し増やします。好きな具とは大根とちくわぶ。あ、でも「ちくわぶ」って知らないかな。関東の食べ物だからね。

そう返した。

学生時代の風景を思い出していた。友のアパートはきっと仕切りはベニア板一枚だろうか、隣の部屋の音が筒抜けだった。漫画家志望の後輩がいて、なかなか美形の彼の部屋にはいつも女子高生が居た。半ば同棲に近かった。

いつもあの悩ましい声が聞こえるのだろうからか、仲間の一人は怒り、辟易していた。おでんパーティをやろうよと提案するとすぐに賛成だった。隣の部屋の声が聞こえないほどガヤガヤやろう、そうなった。

具材はみんなが持ち寄る、そんな感じだったろうか。部屋の主の実家は料理店で味覚に秀でているだろうと、彼に鍋奉行をお願いした。さまざまな具材が持ち込まれたと思う。誰の発案かわからぬが赤いウインナーソーセージがおでんの中に大量に入った。参加していた面子の出身地は、部屋の主は福島、自分は広島、そして山口に愛知に神奈川だった。誰もが二十歳前だ。どこの味だろう。それぞれがまだ実家の母の味を明瞭に覚えていたのだろう。

さまざまな具材が交じり合いなんとも不思議な味だったかもしれない。僕はきっと具材としては「ちくわぶ」を強く主張したのだろう。あれほど楽しく美味しいおでんはその後経験したこともない。

ちくわぶは誰からも支持されなかったかもしれない。小麦粉をちくわの形状に練り上げたものは単なる炭水化物にすぎない。しかしうどん文化で育った香川県人の自分には同じ材料で出来たちくわぶはとても美味しく思えた。

ちくわぶってなにかねぇ?多分、竹輪を指す、どこかの方言なんじゃろう…いや、きりたんぽみたいなもんかねぇ…っ。」

そりゃそうだ。あんな「へなげな」食べ物は広島には決して売ってないだろうから。しかしきっと海鮮出汁に辛さが加っているだろう鍋にはきっとちくわぶは合うかもしれない。

さまざまな地方の文化と実家の味が混じり合ったあの鍋は本当に美味しかった。今となってはその中身も思い出せないが。

ちくわぶ、買ってみてね、そう友にメールした。果たして彼女は買うだろうか、いや、売っているだろうか?

レシピは教えて頂いた。白菜キムチ、絹ごし豆腐、アサリ、豚バラ、シイタケ、玉子、わけぎ・・・。味付けはコチュジャンに味噌と醤油か。豆腐は木綿に変更し、好みで赤唐辛子は何本か入れるけれど、あとは出来そうだ。今度は僕がスンドゥブを作る番だ。火にかけてぐつぐつと。良い出汁がでるだろう。そうだ、密かにちくわぶも入れてみよう。

とても美味しく作れるような気がする。