創作
一冊の本を読み終えることは、旅に似ているようにも思う。作者が書いた世界に没入して、いつか読み手も同化する。作者のプロット通り、読者も感情の山と谷を辿るから。 もしかしたら、彼も、本を書いたのかもしれない。言葉もないけれど、僕らに多くの風景を…
なぜ税金の税を使うのだろう。税という漢字は、あまりうれしくもない気がする。監査、取り立て……。印と税。何の印?税金を貰いますよ、という印か? しかし、こちらは悪いことはしていない。しっかりと源泉徴収されているのだから。 もう三十年前か、忘れた…
子供たちが旅に出た。どこで何をやっているのかも、分からない。 元気でいるか? 街には慣れたか? 友達できたか? 出版社から郵便。白い封筒。 僕の本の在庫数が書かれていた。印刷部数は分かるので、何冊売れたかは、普通は引き算。即回答。 しかし本は流…
その本屋は、まぁ、特徴的だ。森の中。ログハウス。珈琲の香り。ジャズ。そして書架。雑誌もない。あ、あるか。八ヶ岳デイズ。しかし漫画もない。ハウトゥー本もない。 ある本は……。自分を振り返って先を考えるような、生き方を探るような、そんな著作が多い…
これはもしかしたら、習慣ともいえるだろうし、生活習慣病かもしれない。あるいは、不感症。 誰もが最初は、純粋な動機なのかもしれない。が、いつか、それを忘れてしまう。 例えばラーメン屋。最初は本人も納得する醤油ラーメンを作っていたとする。いわゆ…
今は使わないだろう、こんな言葉。 クリスマスケーキになるよ、と。 今の世の中、結婚しないと売れ残りというのだろうか。そしてそれは25才なのだろうか? 確かにそんな時代もあったことだ。バブルの頃か。 今は違うと思う、むしろ自分でスキルを持ち、生か…
えーとね。串焼き盛り合わせ。塩とタレ、半分づつ チェッ。またそれか、何で。 ご丁寧に串を外して取り分ける。誰もに行き渡るように。丸々とした何か。炭のような何か。細いビニールチューブを押し束ねてつぶしたような何か。 まともなものは無いのかよ。 …
画面に大きく「松竹」の文字。♪「チャー・チャラララララ・チャッチャララー・ピロリーロ・ピロピロリィー」 いいねぇ、江戸川の土手は。最初のシーン。いつもここだけれど、砂利道も広くなったね。向こうは金町駅かな。土手を少年の自転車か。いいなぁ。 そ…
ショート・ショート。ブログのサイトを見ていると、書かれている方が多い。どれも面白い。ブラックジョークもあれば、天地をひっくり返すものもある。 僕は、星新一は『ボッコちゃん』しか読んだことがない。あまり内容は憶えていない。中学か高校かは忘れた…
イチロー。彼は子供のころからの犬好きだった。隣の家に柴犬がいた。あまり吠えずに、大人しかった。尖った鼻。黒い瞳。媚びないルックス。親指の拇印のような小判型の肛門。何から何まで可愛い。そんな憧れも、成長とともにどこかに消えた。さすがに、女の…
アキラは小学生のころから犬が好きだった。祖父の家にいたのだから。ハアハアという息遣い。黒くて丸い目。優しい顔。触っているだけで嬉しい。 しかしノラ猫も祖父の家にやってくる。どこからともなく。裏の川から遊びに来る沢蟹の歩く家は、彼らにとってい…
僕は知り合いとなった作家さんに二冊の本を渡したのだった。一冊は出版社から世に出たばかりのもの。もう一冊は校正もしないままとりあえず本の形にしたもの。読んでいただきたいな、と。 磯の香りのする街。松林が見えそうな路地に彼を訪問した。魚の美味い…
高原に住んでいるのだから、僕の身の回りには「森の」店ばかりだ。森のカフェ、森のベーカリー、森のイタリアン、森の病院。森の、森の。 流石に病院は清潔さ以外は独自性を出せないだろうが、他なら可能だった。行って気持ちのよい店というものがある。店主…
出会い。男女が出会う。何かが育ったり、育たなかったり。なにも出会いは人間同士でも、異性間でもない。僕はたくさんの素敵な音楽に出会ってきた。また、幾つかの心に残る本にも出合った。そうして今がある。 音楽との出会い。心に残る。ロックを聴いてカッ…
少しの工作をしようと思い立った。図画工作は好きだったけれど、あまり得意ではなかった。。男子なら技術家庭という授業がある。女子は、その頃は家庭科だったか。しかしジェンダーレスの今、その区分けに意味があるのかは分からない。少なくとも、僕の時代…
それは宅急便で予告なく届いた。 あ、来たか。とうとう。本来ならば、万歳だろう。いや僕はバンザイは唱えたくない。。バンザイ突撃を思い出すのだ。圧倒的な火力を前にバンザイと言って捨て身で飛び散っていった昭和の日本人たちが浮かぶから。僕にはそれは…
滝が落ちる。僧が両手を合わせて打たれている。白衣は濡れて透け、その下半身の「たふさぎ」のシルエットも浮かぶ。やはりここは、きりりと締めた「たふさぎ」が美しい。しかし落ちる水は、冷たかろう。痛かろう。 彼は何を払う?邪気か。僧でも煩悩があるの…
久しぶりの新宿東口。まずヘッドフォンを買いにいこう。多くのテナントが入るビル。言いようによっては雑居ビルだが、あまりに明るい照明、あまりに多くの人。最上階の100円ショップに駆け込んだ。うっかり持ってくるのを忘れてしまい、電車の中はある種の「…
「ここは何処という設定ですか?」 「はい、もちろん場所はあるのですが、それを明らかにはしません。それは読者さんで考えてもらえればよいから。人によってそれぞれの場所があればよいと思うので。」 「成るほど。」 「では、これは『よい』、それとも『良…
樹林帯を抜け出すと灌木帯だ。随分と手を焼かせてくれた。崩れやすい尾根道を注意して進む。足場の目安を立て露岩に手をかけて体を上げた。それ以上高い場所はここにはなかった。朝から曇っていたが薄くなった空気の狭間がゆっくりと解けた。いったん緩むと…
白一色の無機質な壁、重く響く画像診断機の音。雪が降り続くとすべての風景は白に閉ざされる。美しいものも汚れたものも覆われて、区別がつかなくなる。白とは不思議な色だ、と滉一は思った。 自分の病で来たのではないにも関わらず、白い部屋は何故か心を落…
「きちんと読んで頂きありがとうございました。コメントが沁みました。この作品はある実在の川を軸に過ぎた時間を積み重ねるような思いで書いたのです。」 そう言いながら途中で感極まって泣いてしまった。自分の書いたものを初対面の方々にしっかり読んでい…
生まれた時から服なんか着たことは無かったよ。生まれたての記憶はないけどママが僕をたくさん舐めてくれたよ。それで目が覚めたのかもしれないんだ。 ボクは生まれてからすぐにママと離れてしまって、何故だろう、檻の中にずっといたんだ。時々お爺さんがや…
いやぁ僕に気づいてくれたかい?こちらにおいでよ。すこしは涼しいでしょ。おひさまさえぎられるからね。 今日はずいぶんとにぎやかだなぁ、さっきからみどりいろの帽子をかぶった子供たちがたくさん来ているよ。ちかづいてきて僕にさわったりするんだね。お…
山から下りる道は楽しいものだ。だんだんと人里の香りがしてくる。シイタケ栽培地のような薄暗く湿った地から乾いた畑に下り着くこともある。古びた神社の裏手に出る事もある。小さな泉が湧く谷戸の最奥に下り着くこともある。農道の片隅に道祖神やお地蔵様…
一日がノートの一枚のページだとすれば、過ぎし日々はそれを綴じたものといえる。それを本と言うならば、その本は聖書や広辞苑のように分厚いだろう。 一人息子は栃木県の地方銀行に就職していた。賢一の住む横浜からは近くはない。なぜ栃木なのか賢一には分…
室内が明るいのは好い事だな、と俊介はいつも思っている。 さまざまな症状と、我が子を思いやる気持ちがさして大きくない部屋を満たしている。そこは苦しみと心配、そして慈愛が交錯している部屋とも言えた。部屋が白く塗られて明るい事が救いだった。それで…
この花は余り気持ちが良いかたちではないな。そんな事を遠藤康太は考えていた。ギアをPに入れてサイドブレーキを強く引っ張ったのは停車地が坂の途中だったからだ。車に同乗したトレーニングウェアの女性が後扉をスライドさせ軽やかに出て行った。左側に一段…