日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

創作・ひとりごと

いやぁ僕に気づいてくれたかい?こちらにおいでよ。すこしは涼しいでしょ。おひさまさえぎられるからね。

今日はずいぶんとにぎやかだなぁ、さっきからみどりいろの帽子をかぶった子供たちがたくさん来ているよ。ちかづいてきて僕にさわったりするんだね。おとなのひとが声をかけてね、何人で僕を取り囲めるかやっていたよ。自慢じゃないけど、僕はけっこう大きいでしょ。四人でできるかな?

僕はクヌギの樹だよ。もう何年生きているのかな。覚えていないな。気がついたらどんどん大きくなってね、今はこうやってみんなに木陰をつくってあげているんだよ。

ここは公園というところらしいな。最近はとてもながめがいいよ。僕がもっと背が低い頃はお寺さんのお隣の樹だったはずだよ。それは道元という偉いお坊様の教えで立ったお寺ということでりっぱな建物と広い敷地たった。だけどだんだんとまわりにおうちが増えてね、お父さんもお母さんも切り倒されてしまったよ。僕一人だけここにぽつんと残ってしまったんだ。

ずっと一人で大きくなりながら周りを見ていたんだ。二十年前にはそこにおおきな建物があってね、いつもおおぜいの人が来ていたよ。カンカンカンと鐘がなるとね、ワーッという声が聞こえてくるんだ。それはすごい歓声でなんだか地面が揺れるんだ。僕は背が低くてその中で何をやっているのかわからなかったよ。ただね、鐘のあとすぐにざわめきがあって、多くの紙切れが紙ふぶきのように舞っていた。それが時々僕の足元までひらひらと飛んできたよ。僕の足元でそんな紙切れはいずれは雨に溶けて地面に埋まってしまうんだけどね。

僕の前には荷車を引いたおじさんがたくさんいてなにやら売っていたね。建物からワーッと人が出てきて、おじさんなにか言っていたよ。「ビールと焼きそばね」。うれしそうな人もいれば「あー負けた」と肩を下げて歩く人も居たよ。なんの勝ち負けやっているのだか知らないけどさ。ときどき々僕の足下に来てズボンのチャックを下ろしてオシッコする人もいたけどあれはご勘弁だったねぇ。僕はきれいな水が欲しかったんだ。

いつの間にかそんな風景もみなくなったな。近くの駅から時々直通バスが来ていたんだけど、どうじに来なくなったな。どうしたんだろう。沢山の見たこともないような機械がやってきて建物を壊してしまったんだ。ずいぶんとさっぱりしたのさ。遠くがはじめて見えてね、むかし父さんが言っていた海と言うのはあれか、と思ったよ。おおきいね。きがついたら大きな橋もできて、たくさんの建物もできたよ。遠くのその海っていう広いところには多くの葉っぱが浮かんでいるんだよね。お船が見える、と子供が言っていたっけ。

ここが広場にかわってからいろいろな人が来るよ。ああ、競輪場がなくなってこんなりっぱな公園になったんだ。そんな風に言う人も多いな。こわしてしまったあの建物は競輪場っていうのか。人が少なくなってさみしいけど、すこし肩の力が抜けたな。

犬を連れてくる人も多いな。しばふで犬は綱を外されて楽しそうに走り回っているよ。飼い主さんはうれしそうに見ている。あんなふうに自由に走り回れたらきっと楽しいのだと思うよ。

ある日はポールを両手にして大股でおじさんが歩いてきた。ポールで歩いて運動しているようだけどおなかはでている。そしていきかったおじいさんおばあさんに話しかけていたよ。お話が好きなんだね。

「このあたり変わりましたね」とあいさつのようにおじさんは話しかけたよ。

「ああ、昔のバンクはそのままに残しているんですよ。このまるい舗装路ほそうろは昔のコースなんです。」そんなことを言うとおばあさんは「もう賭け事は卒業でしょ」とすこしこわい顔をしていたよ。おじさんは愛想笑いで歩いてったけど、おじいさんは懐かしそうにずっと見ていた。

ポールのおじさんはときどきくるよ。ひとりごとがおおくてね、ああもう二十年早かったら子供たちをここにつれてきたのにな、と言っていた。おじさんのこどもはどうしたの?と聞きたいけど僕は喋れないからもどかしかったな。おじさんは頭をふってまたポールを手にして歩き出したよ。寂しいのかな。二十年なんてついきのうのように思えるけど、おじさんにもそんなむかしの時間があったんだね。

お母さんと男の子が来たんだ。お母さんはなんだか疲れていてね、走り回る男の子をおさえられないんだよ。男の子はどうしたものか、僕によじ登ろうとしてね。僕もね、手がかり足がかりが上にあるから少し背中をかがめたかったんだけど木にはできないね。男の子は僕の肌のふしくれだったところにじょうずに足をかけて登ってきたよ。あぶないからやめなさい、とお母さんが声をかけたときね、手がすべったんだろうな。男の子は落ちてしまったよ。お母さんはキャーッと言って男の子をゆさぶっていたけどうごかない。僕はどうしようもないから見ているだけだった。すぐにたくさんの人が寄ってきてまもなくサイレンの音が聞こえたんだ。赤くピカピカ光る車がやってきたよ。「ああ、明日は会社休まなくちゃ」とお母さんは口にしていたよ。体を起こした男の子とお母さんはそれに乗ってどこかへ行ってしまった。

それからしばらくしてね、ヘルメットに作業服の人がなんにんかやってきてね、僕の周りをじろじろと見ているんだよ。紐みたいなもので僕の周りを図ったり。「クレーンが必要だね」とか言っている。おいおい、いったい何をするんだよ。それから何回かやってきては僕の周りに立札を立て赤いテープをはっていたよ。なんだろうね。

なぜかぱたりとヘルメットの人は来なくなってしまった。そのかわりに工事の人がきて僕の周りに囲いを建てて外からは入れなくしてしまったよ。なんだかわからないけど、犬を連れたおじさんとおばさんがやってきたよ。お話し好きなあのポールのおじさんもやってきてね。なんだか話している。

「このクヌギの木を切ることへの反対署名した甲斐がありましたね。囲いが出来てひとあんしんですね。いのちびろいです。木から落ちたって自分たちはさんざんそうやって育ったからね」「そうそう今はすぐにせきにんとか言うから」

それからは何もない。ただかぜのたよりで、僕の向かいがわに大きなまんしょんが建つという話を聞いたよ。とおもったらまた大きな機械がたくさん入ってきた。いつも見ていた海とそこに浮かぶ木の葉っぱも見えなくなるのはさみしいな。でもそのまんしょんにはきっと多くの子供が住むんだよね。すると今以上に多くの人たちでにぎわうのかな。時々足元でお弁当を食べる親子連れもいるし、なんだかそれは嬉しいな。

僕は何もできなくてただここに立っているだけだよ。ただぼくの葉っぱは春から秋はずっとしげっているからいつでも雨宿りや日陰を求めて来てほしいな。秋は僕は黄色く化粧するよ。これも綺麗だから見においで。冬は骨だけになっちゃうけど、それが好いと言ってくれる人もいるよ。

ずっとここにいるけど、今作っているまんしょんもきっと何十年後にはなくなってしまうかもしれないね。でもそのあとにはまた何かできるね。どうやら僕はとても長生きをしているようだよ。あのポールのおじさんだってきっといつか来なくなるんだろうね。何処に行くのだろうね。

まわりの人たちがあわただしいとおもったらみんな「来週から台風だって」と言っているよ。僕の葉っぱもたくさん落ちるし小さな腕も折れてしまうかもね。いつかそうやって僕自身も折れて倒れるのかもね。でもね、それは土が喜ぶんだよね。生きている世界ってゆっくり変わる。でも土が喜ぶのなら無駄はないという事だね。

つまらない話を聞いてくれて、ありがとうね。

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