日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

図書の旅29 作って遊べ工作図鑑 かざまりんぺい えびなみつる

● 作って遊べ工作図鑑 かざまりんぺい えびなみつる 誠文堂新光社 2004年

幼心の自分に影響を与えた出版社といえば三社だろうか。怪人二十面相シリーズのポプラ社。そして、誠文堂新光社と科学教材社。児童書のポプラ社は別として、後者二社は間違えなく自分に科学的な興味つまりは工作や電子工作を教えてくれた。今自分がアマチュア無線家であり電子工作好きなのもこの二社の刊行物の影響だった。

初歩のラジオ誠文堂新光社刊)、模型とラジオ(科学教材社刊)、それぞれ「ショラ(初ラ)」「モラ(模ラ)」。前者は小学生の自分には難しく内容も理解できなかったがラジオの回路図に興味を覚えた。後者は電子工作に加えて模型も紹介していた。自分は特にモラが好きだった。モラで紹介されるキットは東京は神田の同店でも販売されており小学校5年生の頃に買いに行った。

何を買ったのだろう。ゲルマラジオやお風呂の水位検知ブザー辺りだろう。就職してから勤めたビルは神田錦町にありその裏手には未だこの二社があった。ともに神田錦町の会社だった。昼休みに科学教材社の店内を覗いてみた。小学生の頃と変わらず店内には電子キットや模型飛行機、鉄道模型などが雑然とおいてあった。子供がそのままおじさんになったような店員さんがいた。

子育ての会も開かれる現在の自分の職場には子供向けの童話や絵本などの蔵書がある。その中に「作って遊ぼう工作図鑑」という本があった。どうもそれっぽい匂いがした。手に取り開くとますます匂う。やはり発行元は誠文堂新光社だった。元気だったのか!と思わずを旧友の肩を抱いた気持ちだった。

本は身の回りの品を工夫して使い遊び道具にする、そんな記事に溢れていた。作り方がイラスト入りで楽しく書かれていた。コマ、ペットボトルの船、ゴム動力の飛行機・・・そして使う工具の説明もあった。ラジオペンチ、ニッパー。そしてナイフは懐かしき「肥後守」がイラスト入りで紹介されていたが何故か「オピネル」のナイフも紹介しているのは作者の好みかもしれない。野原に空き缶の一つでも転がっていれば子供は何ででも遊んでしまう。遊びの天才だ。器用な子がいると何かを作って遊びはより楽しくなる。まさにこの本を開くと誰でも「器用な子」になれそうな気がした。

科学への興味は大切だと思う。乾電池に豆電球をつなぐだけで明かりが灯る。何故だろうと思う。今度はモーターをつなぐと回る。陽極陰極を入れ替えるとモータは逆回転する。不思議で仕方ない。コイルと電流、磁界の関係だが、そこに魅かれると次のステップが待っている。創造力はこうして萌芽するのだろう。がそれ以上の探求心は自分には湧かず高校生の頃から理科全般は苦手な分野になってしまった。しかし何かを作るという事は好きで、ハンダごてを握りつまらないものを沢山作ってきた。

手製のオーディオアンプとスピーカーで音楽を聴いている。アンプはトランジスタだがノイズもなくフォルテからピアニッシモまで綺麗に聞こえる。細かい半田付けがありルーペが必要だった。スピーカーは予め出来た箱にスピーカーをねじ止めして端子を配線しただけだ。小さなフルレンジスピーカーだが良く鳴る。今は音楽を大きな音で聴く事もなく自分の耳には充分すぎる。40年前に秋葉原にて初任給で買ったサンスイのアンプにオンキョーのスピーカーを凌駕すると思っている。いずれも一万円程度のキットだが自分で作ったモノを使うというわくわく感は素晴らしい。

ゲーム世代の今の子供たちを否定するつもりもない。それが友と触れ合う手段ならば仕方ない。それを通じて社会性を見出すのならば大切だろう。しかし知って欲しいと思う。何かを作ることの楽しさを。予め人の手で作られたもので遊ぶのとは本質的に違う楽しさがあるという事を。そんな手ほどきは、この本のように探せば色々ある。きっかけさえつかめば後は自分で探すものだ。

子供に夢を与えるモノづくりの本。誰だって作りたくなる。そうして好奇心が育つもの。

デジタルオーディオアンプ。出来たてで通電した。今はケースに収めて素敵なハイファイサウンドを聞かせてくれる。チープなオーディオセットでも自分で作ったものならば楽しめる。