本当にやるのか - 日々これ好日

小学生のころからいったい幾つ作ったのかわからないモノ。プラモデルだ。

25歳ころまでは作っていたと思う。丹念に塗装もして棚に置いておいた。しかしいつの間にか部屋から捨てられていた。間もなく結婚して家から出て行くだろうと、母親が勝手に捨てたのだった。これについては今も全く信じられない。勝手に捨てるのは、ありえない。

それからずっと遠ざかっていた。ひとつは、接着剤・溶剤・塗料の匂い。この匂いと煙草の匂いだけは体質的に厳しくなっていた。どれも嗅いだとたんに即座に気管が収縮するのを体感できる。喘息の兆候だ。気管支拡張剤を吸わない限り辛い。そしてまた、ゆっくりと作る時間もなかった。

小学生のころから凝りもなく作っていたのは、ミリタリーモノばかり。タミヤの1/35。そしてハセガワの1/72。わかる人にはこの縮尺だけで充分だ。前者は戦車、戦闘車両。後者は飛行機。時代は第二次世界大戦ものばかり。タミヤ・ハセガワ・アオシマ・フジミ。静岡4社による1/700シリーズはあまり手を出さなかった。これも知る人は、艦船。ウォーターラインシリーズ、と言えるだろう。

何故だろう、航空機への憧れが消えない。ジェット旅客機には散々お世話になったが、自分の興味はひたすらプロペラ機。1940年代の飛行機だけ。数か月前に、中島航空機の工場（つまりスバルの工場）を見たせいだろうか。建物の外観だけで、ああ、名戦闘機を沢山作った会社だ、と心が動いた。プロペラを高速回転させて気流を作る。なんとも原始的だ。そこに惹かれるのだろうか。

思ったよりも安かったので、加えてそのサイトのポイントが沢山あったこともあり、ふと、ネットでポチってしまったのだ。好きな戦闘機を2機ほど。

日本海軍機　川西・「紫電改」
日本陸軍機　中島・2式戦闘機「鍾馗」

どちらもインターセプター。局地戦闘機・迎撃戦闘機というのも面白い。万能な格闘戦闘機だった海軍のゼロ戦や陸軍の1式戦闘機・隼よりも、迎撃という目的に特化し、重武装と格闘性を実現させた紫電改、高速一撃離脱という手段に最適化された鍾馗、それを実現するそれぞれの機体設計が、心を打つ。軍港・呉を守った紫電改、帝都防空でB29に肉薄攻撃を行った鍾馗。言葉が出ない。

さて、プラモデルはもう35年ぶりに近い。老眼鏡の自分にスケールモデルが作れるのだろうか。航空機の1/72キットならば部品点数も多くなく、電子工作よりは気が楽だ。しかし、塗装。上手くいくのだろうか。35年前は殆どお目にかかれなかったエア・ブラシが今はスケールモデルの塗装には欠かせそうになかった。

早速ネットで下調べをしたうえで近所のプラモデル屋に行き、昨今のプラモデル塗りのいろはを聞いてきた。エアブラシガンとコンプレッサー。結構な出費になる。サーフェイサーで下地作り。こんなことも昔はやっていなかった。エアブラシもノズル径0.2、0.3、0.5㎜と色々ある。迷彩塗装とべた塗装に対応できるのは0.3mノズルと言う事だった。マスキングテープも各種ある。デカールを柔らかくする塗り物もあるという。ウェザリング専用のパウダー材迄あるという。驚いた。

さて、プラモデルはネットのポイントで入手したもの。2箱で1600円もしない。一方でエアブラシ・コンプレッサーとなっていくと、一万円札は飛んでいき、そのメンテの溶剤やたちどころに増えていく塗料の瓶が、ただでさえ雑然としている自分の部屋を埋め尽くすのがよく見える。

楽しいに違いない事はよくわかる。また、凝りに凝ってしまう事も良くわかる。しかし手を出すのか、本当にやるのか。・・・。塗料による喘息にはどう対応しようか。今更出来上がった飛行機プラモを片手にブーンブーンと唸って宙返りさせたり錐もみさせたりすることは流石に無いだろうが、それに近い事はするだろう。いや、したくてたまらない。右手に海軍機、左手に陸軍機なのだ。痛快の極みここにあり。

待て待て、それより先にやることがあるだろう。鉄道模型はどうする？ 9㎜フレキシブルレール買わないとだめでしょ。1/80で夢の高原軽便鉄でしょ。　手作りオーディオは？自作の真空管アンプとＪＢＬでバッハを聴くんでしょ？　どれも時間に自由が出来たらやるのでしょ。そこにプラモ？　諦めるのなら今だ。

そう言いながら、さっきからエアブラシ・コンプレッサーをひたすらネットで検索している自分がいる。何とかならないものか。時間よ止まれ。「何事も小さく始めよう」が貴方の信条ではなかったのか。この歳になっても自分を律することは、むずかしい。