日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

手抜きも悪くない

週に一度は楽をしよう。そう決めてからしばらく経つ。楽をする、とはリラックスするという事で、簡単に言うと近場の銭湯に行く事だ。夏場はシャワーばかり。自宅の風呂とて体洗いに1分、湯船に2分。合計3分もかからずに出てくるのだからまったくカラスの行水なのだ。しかし近場の銭湯に行くと15分くらいかけてゆっくりと入浴する。すると体は随分と癒される。銭湯と言っても温泉や炭酸泉もある。

そんな週一度の贅沢をすると、体は伸びきってしまいとても夕食など作る気がしなくなるのだった。あらためてスーパーで食材を買ってレジに並ぶ気もしない。まぁ今日は良いか、と家内と話をしてお弁当屋に行く事も多い。10分も待っていると出来上がるのだから、気楽だ。いくつかお気に入りの弁当店もある。チェーン店もあれば、家族経営の店もある。えてして高カロリーなのでせめてもの罪滅ぼしと半ライスにする。どのくらい効果があるかは分からない。

さて今日の店は久しぶりだった。カロリーの低そうなものを探すがこの店のエリアは港湾労働者が多いのか、なかなか濃いメニューが並ぶ。なんとか見つけて頼んだ。待っていると「あれ?」と思うのだった。店内のスピーカーが流しているのは、アイズレー・ブラザーズだった。♪Work To Do か!ファンキーでイカしたナンバーだな。タンバリンとカウベルが粘っこいビートを作っている。マニア向けの曲ともいえるがR&Bの世界では有名なナンバーだ。自分達のアマチュアソウルバンドでも演奏したことがある。そして気づいた。60代半ばを越えたと思える白髪の店主が自然にうねるようにビートを腰で拾っているのだった。気づくのに少し時間がかかったのは、自分もリズムに乗って体を動かしていたからだった。二人が鏡をあわせたように踊るのならお互いは気づかない。彼は踊りながらアジフライを揚げている。焦げる直前でひょいとすくいあげて油を切っていた。その時踊る僕と目が合った。ニヤリ、と彼が笑った。

次の曲が流れた時、これはFMラジオでもなく有線放送でもないな、と気づいたのだった。間違えなく聴き馴れたロニー・ウッドのリックだった。軽くオーバードライブしたゼマティスの音だった。粘っこく枯れたヴォーカルはロッド・スチュワートだった。♪Angel か!ジミ・ヘンドリックスの曲を粋にカバーしている、フェイセズの素敵なトラックだった。

会計を終えて話し込んでしまった。やはり店主は1970年代の音楽マニアだった。アイズレーブラザーズもフェイセズも彼の手持ちの音源だという。それらを大量に放り込んで店内で流しているという。「まるで弁当屋ではないでしょ!好きな音楽を聴いて楽しく仕事しなくちゃね。」少し欠けた前歯をだして彼はそう笑うのだった。彼は更に続けた。1975年までの音楽ばかりですよ、と。そう、ブラックミュージックが、ロックが本当に輝いていたのはこの頃までですね、と。意気投合してしまった。

こんなお弁当屋なら毎日来たい。僕の知らないナンバーも彼は沢山知っている事だろう。もっと長居したかったが折角のお弁当が冷めそうだった。

弁当屋の仕事は仕入れから下味付け、米炊き。暑い季節は食中毒も気になる。日替わりランチも作らなくてはいけない。フードロスは避けたい。なかなかに大変な仕事だと思うが、彼は音楽に乗り楽しそうだった。色々な過ごし方があるな。音楽が横にあれば、確かに自分も踊ってしまう。不条理なことも苦しいこともある。良い事なんてそうそう来ない。夕食をしっかり作ろうと思っている身には「お弁当屋」さんは「手抜き」に位置してしまう。手抜きは罪悪感につながる。しかし今日ばかりは手抜きが正解だったようだ。なにせ素敵な音楽に触れ、楽しそうにお弁当を作るオヤジさんに出会えたのだから。悪い事は吹き飛んでいく。

肩の力を抜いて生きていく。そんな年齢になったのだと思う。もう、良いでしょう。

今も輝くFacesの5枚の録音。6年間の活動を経て1975年に解散したが、ロックがそして彼らの背景にあったブラックミュージックが最も輝いていた時代の音楽だった。お弁当屋さんのご主人にとってはリアルタイムの音楽だったのかもしれない。

https://www.youtube.com/watch?v=ovunpwsJXNc

https://www.youtube.com/watch?v=9uwWOpC1tGM

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