デビィへのワルツと書いてしまうとピンと来ない。スタンダードともいえるジャズピアノトリオの大傑作、ワルツ・フォー・デビーのことだ。
自分はジャズにはのめり込まなかったが流石にこの曲は知っている。いや、大好きで限りなく聞いた。演奏の途中に入る観客の笑い声までも心に刻まれている。リリカルで繊細なナンバーだ。ジャズ好きな学生時代の友人から教わったビル・エヴァンス。彼の名作だろう。
この曲が彼の姪っ子であるデビィちゃんに向けて書かれた曲とは今日始めて知った。それは、今日聞いたコンサートのMCさんによる解説だった。
久しぶりに吹奏楽団の演奏会に出かけた。吹奏楽が大好きな友人の誘いで、彼とはしばしば様々な吹奏楽演奏会に聴きに行っている。どこの楽団の演奏会でもその多くは二部構成で、一部は吹奏楽向けの専門的で複雑な、あるいは定番のナンバー、第二部はポップスやアニメソングなど、誰もに親しみのある曲をやるようだ。
今日は地元神奈川県警の音楽隊だった。警察音楽隊を聞くのは久しぶりだった。第一部も素晴らしかったが第二部はやはり知っているナンバーが多く楽しめた。ワルツ・フォー・デビーは、そこで演奏された。非常に繊細なタッチで知的に弾くビル・エヴァンスのピアノと、飛翔するかのようにボトムを奏でるスコット・ラファロのベース、強弱の素晴らしいポール・モチアンのドラムス。そんな奇跡のトリオのミニマムなインタープレイを大人数の吹奏楽団でどんなふうに演奏するのか、プログラムを手にしたときから楽しみだった。
例の、リリシズムの極みとも言えるイントロはフルートが受け持っていた。メインに入ってからはピアノのパートはトランペットだった。途中展開部は両者が対話するようにそして金管・木管・パーカッションも加わり熱っぽく進めていくのだった。見事に盛り上がり静かに終わった。
これ以外のナンバーもどれも素晴らしかった。サウウンド・オブ・ミュージックからの「My favorite thigns」は熱帯JAZZ楽団のアレンジで演奏された。警察音楽隊の警察における位置づけを自分はよく知らない。そんな事よりも、卓越した演奏技術と楽団員が音楽を愛しているという事を感じる。またスタッフ一同、MCをされた方も、会場の席案内やモギリをされていた方も全てが県警の方だった。女性は婦警さんだ。そのせいもあるのか、全員姿勢も正しく声も凛としていた。また楽団員の制服も襟章が入ったもので、きりりとしていた。
今日は日曜日でもない。そしてここはヴィレッジ・ヴァンガードでもない。しかしいっとき六十年以上昔へタイムスリップした。音楽の歓びがそこにあった。