日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

憂いもなく

新年を迎えて早くも一月が経とうとしている。月日の経過の速さと年齢を重ねる事にはある種の相関関係があると思っている。それは直線で表現できるものではなくそこに何らかの偏向が働く。十歳の時、二十歳の時、五十歳、そして今。感じる一日の速さは高齢になるほど加速度的に早くなる。全くここへきて一日がこれほど短いものか、勘弁してほしいと感じている。

この一月が特に短く思えたのには正月に痛ましい天災や事故が続いたからだろう。罹災された方には早く正常に戻って欲しいが、これでお正月気分は消え飛んだ。何か物足りないなと思っていたのは毎年楽しみにしているお約束を逃したからだった。

正月元旦。GMTプラス一時間はウィーンの地。その正午前から始まるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるニューイヤーコンサート。時差の関係で日本では元旦夜七時から放映されるが、今年はそれが流れた。どのお正月番組もニュース速報に変わっていた。

ウィーン・フィルの本拠地である黄金のホール、ムジークフェラインザールは花に飾られる。このホールの造り上げる音は芳醇でウィーン・フィルは毎年そこで極上のワルツとポルカを演奏する。指揮者は毎年変わる。1939年から始まった演奏会で1987年から毎年指揮者が変わるようになったとはWEBに載っている。自分は一体いつから聴き始めたのだろうか。シュトラウス一家の作ったワルツやポルカは軽い舞踏音楽。バッハのような厳格さもブラームスのようなロマンティックさも、ブルックナーのような巨大な宇宙観とも無縁だろう、そんな考えを持って聴く事もなかった。しかしその素晴らしさを知ったのはやはりウィーンでの演奏会だった。ウィーン交響楽団イースターにあのムジークフェラインザールで開いた演奏会「Fruhling in Wien(ウィーンの春)」。憧れのコンサートホールでの春の訪れを祝うその演奏会はやはりワルツとポルカに満ち溢れそこには気取らぬ歓びがあった。

それからウィーン・フィルニューイヤーコンサートを聞き始めたように思う。CDはたちどころに増えた。演奏会では多くのお約束がある。「美しき青きドナウ」ではイントロの数小節だけ演奏し演奏を止める。拍手がわく。指揮者は観客席に振り向いて新年の挨拶をする。楽団員もともに唱える。新年おめでとうと。「ラデツキー行進曲」では客席に振り向いて手拍子を求める。手拍子不要な個所は指揮者が静かにと指示をする。だれもがこのお約束を楽しみにしている。しかし手拍子を入れる・入れないをある程度客席に任せる指揮者もいればそこをしっかりと厳格に指図する指揮者もいる。このあたりも見ていて楽しい。絶対に外せないのはこの二曲だが、頻繁に演奏される曲は他にもいくつもある。ワルツでは「南国のバラ」「ウィーンの森の物語」「皇帝円舞曲」「春の声」あたりか。ポルカでは「アンネンポルカ」「ピチカートポルカ」「トリッチトラッチポルカ」など。また喜歌劇「こうもり」序曲も定番だ。一方で毎年の演奏会なのに必ず半分以上は知らない曲が出てくる。呆れるほど多くの曲がある。シュトラウスファミリーの旺盛な創作力には舌を巻く。彼ら以外の曲もある。曲目は団員が挙げて指揮者が選ぶ。また指揮者が持ってくることもあるらしい。

集めたCDはやはり自分がクラシック音楽に再び熱中していた頃の巨匠、脂の乗り切っていた指揮者が多い。カラヤン(1987)、マゼール(1980-83)、クライバー(1989)(1992)、アバド(1991)、ムーティ(2000)、小澤征爾(2002)だ。カルロス・クライバーに至っては89年版のDVDもある。彼の華麗な指揮姿に惹かれている。

直径12センチのプラ円盤に過ぎない。しかし一旦それを再生機にかけるととたんに頭の中にはドナウ川が流れ、シュテファン大聖堂が聳え立ち、シェーンブルン宮殿が広がる。魔法としか言いようがない。どのワルツもポルカも気負わず聞け楽しい。

好きなポルカの中に「Ohone Sorgen!(憂いもなく)」というものがある。二分弱の小曲。シュトラウスファミリーの弟・ヨーゼフの作品。何が楽しい?それは演奏中に楽団員が全員で声をあわせながら「アッハッハッハ」と笑うから。新年に憂いもなく笑いとばす、そんな素朴な喜びが躍る管弦楽に乗って流れる。楽しくないわけがない。

見逃した2024年のニューイヤーコンサート。不注意で再放送をも見逃してしまった。しかし再々放送があった。今夜の深夜放送だ。録画は逃さない。今年は現役指揮者では自分が最も好きな一人、クリスティアンティーレマンが指揮をする。彼が率いるウィーン・フィルをパリで体験した。ベートーヴェンの第九だった。実にしっかりとして一分の隙も無く力強かった。その痙直なほどの堅牢さを軽妙なワルツとポルカにどう反映するのだろう。また何とブルックナーの曲も初登場するという。気宇壮大な交響曲と真摯な宗教曲以外にどんな作品があるのだろう?いずれも楽しみで仕方ない。久しぶりに彼のCDとDVDを買うだろう。

すべては明日朝のお楽しみ。これでようやく一年が始まる。今年こそ「憂いもない」一年としたい。しかしその経過はとても速いだろう。仕方ない、来年も「憂いもなく」楽しめばよい。

リアルタイムでテレビで初めて見たのは2002年の小澤征爾だったか。そこから遡りCDを集めその以降は買っていなかった。徐々に新しい世代の指揮者も出てきたからか。しかし毎年楽しませてくる。2024年度版は買うだろう。

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