日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

公演中止

自分はまだ十歳で当時は姉の聴くアイドル歌謡曲を聞いていた1973年。熱狂的に初来日を心待ちにしていたファンは失意のどん底だったろう。ライブは公演中止となった。メンバーが過去の麻薬歴を問われ入国禁止となった。それはストーンズザ・ローリング・ストーンズ)の初来日公演だった。結成60年、オリジナルメンバーは80歳代を迎え二名だけとなったが今なお転がり続ける英国のロックバンド。1973年と言えば彼らのキャリアの中で最も脂の乗り切っていた時期だ。来日したら大変だったろうと思う。公演中止になるとチケットは払い戻しになるが、彼らのライブに関しては払い戻さずに券を記念に手元に残しているという話も良く聞く。古びた公演チケットの写真をネットで見る事も多い。

自分が彼らに触れたのは高校一年か二年生、1978年ごろか。ねちっこいヴォーカル、彫刻刀で音を削るようなリズムギター、流麗なリードギターのアンサンブル、勝手に体が腰が動いていしまう独特なグルーブ。あれからずっと夢中だ。1990年の彼らの初来日はプレイガイドに電話しまくった。チケットは取れたが来日中止にならぬかと心配だった。麻薬に関してはメンバー誰もが脛に傷を持っているだろうから。しかし彼らの公演を望むファンの熱気が高まった。日本政府も来日を阻害することなくライブは実現した。チケットは幻にならなかった。以来、日本や海外で彼らのライブは十回以上見る事が出来た。アリーナショーになってしまい70年代のサウンドはなかったが彼らが演奏するだけでその時のロックンロールになる。何度も聞いた定番は新鮮だった。

WEBを見ていて公演中止の報に触れた。NHK交響楽団定期演奏会だった。クラシック音楽の演奏会では指揮者やソリストが代演になることはよくある。プログラムも変わってしまう。ヘルベルト・ブロムシュテットを指揮に迎えたブルックナー交響曲第五番の演奏会だった。チケットを買おうとしていたらいつしか安い席が無くなった。ブロムシュテットの指揮姿を見るのも最後だな、高くとも買うか、と思っていた。老マエストロは96歳なのだ。やはり来日は難しかったのか残念な公演中止だった。代演は立たなかった。

生まれて初めてウィーン・フィルの演奏を聞いたのはジュゼッペ・シノーポリの指揮だった。カルロス・クライバーが指揮に来ると言うのでこれまた電話攻撃でとったチケットだった。天才肌だが気まぐれ、そんな形容詞がつくカリスマ指揮者を楽しみにしたが案の定取りやめ。が代役のシノーポリも素晴らしかった。演目は自分の記憶ではシューベルトの八番とブルックナーの七番だった。好きな曲なので楽しめた。その二人も今はもう居ない。クライバーは引退後に、シノーポリはオペラの上演中に指揮台で倒れ、それぞれ逝った。彼らの録音は今も大切だ。

小山実稚恵さんの演奏会を聞きに行った。しかしチケットを忘れるというチョンボをして遅刻して前半をホール外で聞くという屈辱だった。自分が悪いのだが楽しみにしていたシューベルトは聞き損じとても悔しかった。

隣町で音楽演奏会があった。アマチュアピアニストによる無料演奏会だった。シューベルト即興曲D90を全4曲、それにシューマンアラベスクドビュッシーのベルガマスク組曲といった好きなナンバーが並んでいた。会場までいくとスタッフが居た。演者の体調が悪く演奏会は中止との事だった。コロナが再び流行っていた時期だったので仕方なかった。楽しみにしていたがこれも残念だった。

遅刻は論外。公演中止は残念だが、音楽を表現する以上どうしても無理なことがあるだろう。表現者ならばベストなコンディションで臨みたい。ライブや演奏会は、表現したい人間とそれを聞きたい人間が奇跡のように邂逅する。それに巡り合えるだけでも素晴らしい。老マエストロを心待ちにしていた日本のファンは多いだろうが彼もまた多くの録音を残している。自分もかつて彼の棒でブラームスを聞いた。記憶の中でゆっくり思えばよいだろう。CDを買うのもありだろう。

公演中止でもくさることなく自分を幸せにさせよう。そんな方法は頭を切り替えるのならばすぐ傍にあると気づいた。

一カ月後の小山実稚恵さんのピアノ演奏会チケット。ブラームスシューマンの夕べ。前回シューベルトを聞き損じている。今度こそ忘れずに持っていき一期一会を楽しもう。

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