日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

秋の贈り物 ツィマーマン、ヘルツァーのブラームス

秋の夜長はウィスキーをロックで片手に、チビチビとやりながら好きな音楽を楽しむ。そこに薪ストーブでもありぱちりと火がはぜればより素晴らしい立役者だが、生憎自分の住む地は数日来の寒さも戻り、Tシャツ一枚でも過ごせる夕べとなった。薪ストーブなどのスローで贅沢なものもない。

まあそんなリラックスした風景は絵に描いたようで出来すぎだ。しかしふとしたきっかけで入手したCDがそれに近い空気感を自分に持ってきてくれた。

好きな曲は自分の思う一番の指揮者とオーケストラで聴きたい。そんなフィルタを掛けていると、まぁ外れはないが、期せずした「大当たり」にも遭遇しない。

秋の夕べに聞くブラームスは心に染みる。ずっしりと腹に落ちるのは4曲の交響曲と2曲のピアノ協奏曲だろう。どれも重厚さと憂愁に満ち溢れ、これとウィスキーがあれば秋の夜は何もいらないという気がしてくる。実は一年中そうなのだが。

ピアノの持つ豪華で繊細な響きが好きでピアノ協奏曲は好きな分野だ。しかしブラームスのこの2曲にシューマンの1曲あわせた3曲が自分は一番だと挙げる。モーツアルトの27曲も素晴らしいが秋の夕暮れ向きではない。

ピアノ協奏曲1番2番を並べたら、より規模が大きくシンフォニックな2番がやはり聴きごたえがある。1番の様なヴィルトゥォーゾ的で強靭なピアニズムは出てこないが、むしろいぶし銀のように冴えるピアノがたまらない。ベームバックハウスウィーンフィルという古典的とも言える名盤を初めに聞いて、それが長くオンリーワンだった。しかしセル・ゼルキンクリーブランド管弦楽団アバドポリーニウィーンフィル、と様々な演奏に触れて、この曲の様々な面に触れた。

ふとしたきっかけで最近買ったCDがピアノにクリスティアン・ツィマーマン、指揮はレナード・バーンスタイン、演奏はウィーンフィルというものだった。ドイツ音楽はドイツ系指揮者で聴かなくてはいけない、という変なこだわりがありなかなかバーンスタインの演奏には手が出なかった。しかし、ネットで見ることのできるウィーンフィルを振った彼のシューマンのシンフォニーなどは実に若々しく活気に満ち素晴らしい。何かとんでもない勘違いをしていたのか、と後悔するほどだった。

このCDを手に入れたきっかけは独奏のチェリストだった。ピアノ協奏曲とは言うがその第3楽章はチェロが夢のようなソロをずっと紡ぐ。ここに関してはチェロ協奏曲ともいえる。チェロのソロも大切な曲だった。

ウィーン・フィルニューイヤーコンサートなどで実際に映像を目にする機会が多い。過去のアーカイブ映像もネットでは沢山見られる。70年代から90年代頃までのウィーンフィルの映像で必ず目にするチェリストが居る。山羊のような顎ひげをたくわえ、気持ちよさそうにチェロを演奏している。彼は誰だろうという好奇心がずっとあった。コンサートマスターはゲルハルト・ヘッツェルかライナー・キュッヒルのどちらかの映像が多い。しかしチェロとなるとこの髭おじさんだった。いくらファンでも楽団員の名前はコンマス以外は覚えていない。

色々調べて彼がウォルフガング・ヘルツァーと言う名前と知った。今回このCDを入手したのはソロ・チェリストとして彼の名前がクレジットされていたからだった。もちろんバーンスタインの熱気の塊のような指揮にも、ツィマーマンの透明で硬質なピアノにも惹かれていたが、髭おじさんのソロをじっくり聴きたかったのだった。

チェロのヘルツァー氏は1940年生まれと書かれているので、もう引退されただろう。もしかしたら自分が初めて見たウィーンフィルの演奏会(1992年、指揮はジュゼッペ・シノーポリ)でのチェリストだったのかもしれない。しかし髭を左右に振り、低温を豊かに紡ぐ彼の数多の映像は今でも楽しめる。

どの楽章も、これまで聞き馴れてきた演奏とはやはり違っていた。燃えるオーケストラと、技巧的にはとても難しいと言われる曲を固く時に柔らかく煌びやかに弾くピアノも素晴らしい。夢を見るようなチェロには涙が出た。あの髭のオジサンがたっぷりと音を歌わせている。ウィスキーは気づけば二杯目となった。

今夜は、あと一杯といくか。水割りなどにせず、ストレートで行きたいものだ。これは全く秋の日の素晴らしい贈り物だ。熱気あふれる豊かなオケと透明なピアノそして憧れていた独奏チェロが、流れているのだから。

ベームバックハウス、セル・ゼルキンバーンスタイン・ツィマーマン。この三枚はいずれも素晴らしい。しかし「髭おじさん」が弾いているチェロは長い憧れ。すると右下に一票だろうか。

追記
・映像 1985年、このCDと同時に録画されたと思われる映像。指揮:レナード・バーンスタイン、ピアノ:クリスティアン・ツィマーマン、チェロ:ウォルフガング・ヘルツァー、演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (コンマスはライナー・キッヘル) https://www.youtube.com/watch?v=y4YqWXmF9Dg&t=1770s 
・ヘルツァー氏について https://www.discogs.com/ja/artist/919543-Wolfgang-Herzer