日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

上州三峰山

関越自動車道を北に向かう。ゲレンデスキーに熱中していた頃は毎冬の話だった。しかしテレマークスキーでのバックカントリーの楽しさを知ってからはスキー場は無縁になった。いつか関越道は登山やスキー登山のための道路だった。

高崎より北に向かうならその行先は尾瀬上越国境、越後の山になる。赤城山皇海山武尊山日光白根山至仏山苗場山巻機山、越後駒ケ岳、谷川岳、平ケ岳と錚々たる日本百名山が目の前に聳える。またスキーに滑り止めのシールを張り踵の上がる装備で登山をする。そんな山スキーのルートも多い。その多くは容易な山ではない。ハンドルを握り北へ向かうといつも気になる山があった。それは高崎の北、沼田市にある。小さなとんがり帽子の山と、その背後に大きなテーブルの様な山だった。前者は戸神山といい765mの低山だ。関越道からは標高差300メートルもない。しかし端正な円錐は目立つ。その背後は三峰山1123mだ。奥に谷川岳が控えているので標高的には周囲に埋もれている。南北に平べったい山姿はテーブルマウンテンと呼ばれるのも頷けた。確かにそれは巨人の食卓のようだった。

戸神山はある年の春に付近の山にスキーで登山した帰りに立ちった。山頂から南に関東平野が見えた。ついでの山にしては充分だった。しかし三峰山は残していた。この山の為にだけ遠征する気も湧かなかった。また春から秋までは蛭が出るという話も嫌だった。気になる山の地形図を見ては行程の辛さを想像する。三峰山は細かいアップダウンがあるが一度稜線に上がればさほどつらそうに思えなかった。

春の声を聴く季節だが雪が減っただろうか。この稜線をスキーで歩いて山頂を目指せぬか、という好奇心が湧いた。ウロコ加工のテレマークスキーにシールをもって車を出した。友人もシールを付けたスキー板を車に乗せた。

期待した雪だが登山口の神社駐車場には雪なかった。無雪を想定して登山靴も持ってきていた。そちらの出番を決めた。が三百メートルも登ると残雪があった。稜線に上がると雪が続いた。淡雪だったが標高を上げるにつれてそれは深くなった。登山靴は時としてズボズボと雪にはまった。こんな時にスキー板があれば楽なのにな、と装備の選択を誤ったことを後悔した。

積雪は70センチ程度か、助かったことは自分達より先行している踏み跡があった事だった。トレースの有無は雪山で消費する体力に大きな差が出る。ありがたく先人の足跡をたどった。

雪面の楽しさの一つには動物の足跡がある。ウサギが多い。タヌキとキツネもみかける。イノシシの足跡を雪面に見たのは初めてだった。この季節に食べ物はあるのだろうか。鉢合わせにならずによかったと思う。気づけば先行者の足跡に鉄の歯の跡が加わった。軽アイゼンを付けたのだろう。自分達は持ってこなかったが残雪も深くなりスパッツをを付けた。ブナの林が心地よいが雪面から顔を出す枝が煩い。注意深くトレースを進めた。足を止めると物音が無かった。雪がそれを吸い込むのだろう、ただ静謐だった。

二人連れが下りてきた。トレースのお礼を言った。長いですねと互いに嘆息が漏れた。三峰と言う以上はやはり三つのピークがある。地形図にそれは読み取れた。数十メートルのアップダウンが三カ所続いた。これだろう。最高峰は稜線最北端の1122m峰。キックで雪壁にステップを作り山頂に立った。北面が開け懐かしき正面の谷川岳が神々しかった。遭難の山、魔の山と呼ばれるのも頷けた。

スキーでこの山頂まで来るのは難しかっただろう。が途中までは如何にも歩くスキー向きの快適なルートだった。板を置いてきたのは残念だったが、雪の感触と憧れのピークで待っていたのは満足感だった。

往路を戻った。呆れるほど長いルートでしばし休止が必要だった。倒木に腰掛けテルモスの珈琲を飲むと、静けさに自分は森の一部になったように思えた。宿題をなし終えた事が嬉しかった。

山麓から見てもやはりそれはテーブルだった。急登で稜線に出る。雪に覆われたそれは呆れるほどに長かった。

左上:稜線はスキー向きな場所もあったが狭くなってくるとツボ足が良かった。凍結が無いと考えアイゼンは持ってこなかったが、ワカンがあれば良かったかもしれない。右上:呆れるほど長い稜線だった。林間に山頂を見た時、あと一時間はかかるな、と口に出た。左下:イノシシの足跡は初めてだった。こちらは自由の利かない雪の中、どうぞ出ないでくれと願った。右下:山頂からは谷川岳が孤高の姿だった。

関越道から見る左にとんがり帽子の戸神山、右奥に机の様な上州三峰山。この道を通ううちに両峰は憧れとなった。

コースタイム:駐車地点(海抜699m・・河内神社駐車場海抜770mを目指したが倒木の為にこれ以上進めず。帰路には倒木は片付いていた)9:52 - 山頂12:30/13:00 - 駐車地点15:30 2024年3月17日

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