指名をする、される事。そんな職業は何だろう。女性ならヘアカットだろうか。お気に入りの美容師さんにやはりお願いしたいところだろう。男性が指名するというと何だろう。個人経営の床屋さんは親父さんの腕を味わいにその店に行く、ある意味指名している。男女を問わぬがゴルフのレッスンプロもあるだろう。
お客様に気に入られて次回もと指名されるとは、やはりその仕事のやり方・お客様への接し方が気に入られている訳で、美容師さんなら美容師さん冥利に、床屋は床屋冥利に、レッスンプロならやはりレッスンプロ冥利につきると言えるだろう。お客様は彼らのプロフェッショナリズムに惹かれているのだ。
先日地元の福祉を担う自分の勤務先に一本の電話が掛かってきた。声と言葉遣いから自分と同じくらいの年齢の男性だと想像する。お尋ねしますが、で始まる電話は、Aさんというケアマネージャーさんはそちらの職員さんでしたっけ?まだ在籍しているのでしょうか?という質問だった。勤務歴の長い職員に代わってもらうと、Aは職員であったがもう定年退職したのです。七、八年近く前ですよ。そう答えていた。それだけでは済まないようで電話は長引いていた。電話を受けた職員は、そうでしたか、そう言って頂いてありがとうございます、と答えて電話を切ったのだった。
聞けば電話の主のご両親は両親ともこのAさんと言うケアマネージャーのお世話になった事。居宅での対応でスタートし、時間の経過とともにデイサービス、デイケアとステップを踏む様に対応内容が代わっていき、やがて老人施設へと。その一連の流れの中で、いかにAさんが親身に接しアレンジしてくれたか、今はともに鬼籍に入った両親に代わりそのお礼を述べたかったこと。そして、そのAさんに今度は脳梗塞から戻ってきた自分の奥様のケアマネージャーをやってもらえぬか?そんな話だったそうだ。
その男性の奥様とすれば自分と数歳しかかわらないのだろう、その年齢で介護保険のお世話になるのか。介護認定は済んだのだろうか?何も知らなければやり方もわからない。男性夫妻の昨今の大変さが、男性の物静かな言い方の裏に在る辛さが目に浮かぶ。そんな中にかつて老い行く両親への対応で真摯に寄り添って対応してくれたケアマネージャーが男性の頭の中に浮かんだわけだ。それは闇夜の中に灯る行燈の明かりを探しあてたかのように細くとも確実な明かりだったのだろう。明かりを頼りにこの施設にたどり着いたが、Aさんは退職していた。
仕事をする限り、やはり仕事ぶりに感謝され、お礼を言われ、再び指名される事、それが最も嬉しい話なのだろうと思う。誇らしくともあろう。男性の再指名は叶わなかったようだが、また次のAさんが、信頼できる人が出て寄り添ってくれることは間違いない。みんな誇りと使命感を持って仕事をされているのだから。