日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

イヌリンピック・福之記9

子供のころから運動音痴だった。小学生なら誰しもが夢中になったのは草野球だった。空き地があればどこでもできた。だれもが王・長嶋になりたがった。自分は柴田が好きだった。王と長嶋は輝きすぎていたが柴田・高田・末次辺りは地味にかっこよかった。しかし実際に草野球では三振王だった。また相手に球を投げられないのだから仕方が無かった。投げたボールは構えたグローブとは30度以上離れた方向へ飛んで行った。

徒競走も見事に遅かった。加えて小学校三年あたりから加わった漢字二文字が拍車をかけた。肥満。インスタントラーメンの味に魅了され学校から帰ってくるとまずそれをつくって食べていた。するとほどなく半ズボンがきつくなった。当時の子供は多くはやせっぽちだった。着る服はだんだんと不格好になった。劣等感の多い小学生の出来上がりだった。

中学へ進みますます自分が情けなく思えた。入学した中学校には卒業生からも恐れられている有名な体育の鬼教師が居た。鬼かどうかは知らないが彼は組体操に実に熱心で、切れのある体操を集団で行う事に全精力を注いでいた。そんなクラスの足を引っ張るのは決まっていた。先生はニコチン中毒の為か黄ばんだ目でジロリとにらむ。身動きが出来なかった。高校でも拍車がかかった。陸上競技でのハードル競争など曲芸師の技だった。球技は言うまでもなかった。クラストップスリーあたりの可愛い女子といつも一緒に帰るサッカー部やバスケ部の男子を見て何を感じたのだろう。高校生で諦念を知るとは今思えば寂しい話だった。

キーボードに向かいつまらないブログに頭をひねっていると膝元に伸びあがって前脚を掛ける奴がいる。犬だった。我が家にとって二匹目のシーズー犬。初代は十二歳で癌のため鬼籍に入った。二代目は里親募集で縁があった五歳の保護犬だった。シーズーは飼いなれていたので二匹目も容易に思えた。中国で生まれたこの犬種は代々宮廷の貴人の足元に丸まっているための愛玩犬だった。実際初代犬は大人しかった。

彼は子犬から飼っていたこともあったのかいつかしか留守番も大人しくこなしていた。五歳の二代目もそんなもんだろうと思っていたら期待は見事に裏切られた。囲っておいた柵を彼は見事に押し倒して家の中をかき回していた。建具はどんどん破壊されていく。たまらないのでペットケージを買った。高さは60センチ程度だろう。

病院へ行った。彼を連れていくわけにはいかない。ケージに入れて扉を閉めた。帰宅するとケージは空で彼は勝ち誇ったかのように上の階に居た。あのケージを飛び越えるとはにわかに信じられなかった。検証せねばならぬ。またケージに入れた。すると即座に前脚を柵にかけ一気に飛び上がり外に出ていた。

ひざ元で丸まって眠るだけの愛玩犬のはずだった。しかし飼い主に反し彼は信じられない運動神経の持ち主だった。何かの反動があるとしか思えない。

犬にオリンピックがあったらおもしろいな、そんなつまらない空想が浮かんだ。そうそう、イヌリンピック。我が家の犬は百メートル障害にエントリーし、小型犬部門で金メダル。そう思うのは痛快だった。しかし運動選手は少なからず体を壊すことが多い。投手は肘。陸上選手は膝だろうか。犬の股関節脱臼や膝のけがも多いと聞く。我が家はそれを恐れ先住犬の時代にタイル式のカーペットを敷いた。それにしてもだ、貴方は余りハードにやらないでくれ。

余りにアピールが激しいので椅子の上に載せた。すると彼は狭いスペースで直ぐに眠りに落ちた。ハッスルしすぎだな。そう声をかけた。犬も寝言を言う。言葉にはならぬが唸る。彼には今見えているのだろう。イヌリンピックの会場でハードルを次々越したその先のゴールテープが。あと一飛びでテープを切る。

今夜は彼の寝言が聞えそうだな。良い一夜になるな。そう思いPCの電源を落とした。

イヌリンピック百メートル障害競走で優勝する。そんな夢を彼は見ているのだろう。建具を壊して呑気なもんだと思うが不思議と僕も嬉しいのだった。

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