日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

不安定な均衡・台湾的風景

台湾旅行で自分たちが選んだのは空港からホテルまでガイドさんが随伴してくれるものだった。昔なら迷いなく航空券だけを買いあとは自力だった。それが旅行だった。アメリカやヨーロッパでよく見る風景・・揃いのバッチを胸に観光バスから降りてきて旗を持ったガイドの後ろを歩く日本人の団体。彼らは空港で初めて出会い、決められたレストランで決められた料理を食べる。・・何が楽しいのかわからなかった。しかし今回は違った。退職旅行券を会社からもらったが旅行代理店の商品にのみ有効だった。旅行代理店には航空券だけの商品は無かった。最もフリープランに近いものを選んだらガイドさんの送迎がついた。

ガイドさんは達者な日本語を話した。お勧めの観光スポットやお土産の説明があった。行くならここへ連絡を、買うならこのお店が良いですと丁寧に言ってくれたがそれは彼女に幾ばくかのマージンが出るからだろう。彼女も遠慮がちだった。さらにアドバイスがあった。残念ながら善人ばかりではない事、人の集まる九份や十分、それに夜市はスリも多い。気をつけるように、そう申し訳なさそうに言うのだった。

尻ポケットに入れた財布を落としたのは脳外科治療から退院した直後だった。ボオーッとしていたのだろうか。そこでそれ以来財布にチェーンを付けてズボンないしはカバンに紐づけている。見栄えは悪いが仕方ない。しかし自分はジッパーを締める事に弱い。社会の窓は開けっぱなし。デイパックのチャックも開けっ放し。何故なのか時々起こしてしまう。旅の中で親切な地元の方にバックバックのジッパーが開いている指摘された。中身は無事だった。感謝だった。

三日後にガイドさんと再会した。短い滞在でしたね、楽しまれましたか?そう聞かれた。日本語が意外に通じる事、英語も通じる事。親切な皆さん。言葉が本土や香港に比べて余り騒がしくない事、安全でわかりやすい地下鉄、長閑な郊外の風景。思ったままを話した。

送迎バスには運転手と自分達夫婦しかいなかった。彼女は話すのだった。タイワンノヒトハミナニホンスキデス。ダレモガホンドヲイヤガッテイマス。チカクセンソウガオコル、ミンナソンナフウニオモッテマス。ダカラダレモガセンキョニカンシンヲモッテイマス。トウヒョウリツハタカイデス。ニホンハドウデスカ?

日本好きは嬉しいが、政治については答えに窮した。投票率の低さを彼女は知っているのかもしれない。又こうも言っていた。自分達の言葉は台湾語であり本土の言葉ではない、だから大声ではなく穏やかなのだと。更に日本人はパッと見てすぐにわかる。何故なら緊張感が無いから。とも言われていた。確かにいつも有事を意識している。そして成人男子には徴兵がある。徴兵前後で男子は大きく変わるという。韓流スターの徴兵も話題になるがこの小さな島国も同じだった。北緯三十八度には鉄条網があり狭い台湾海峡には様々な潜水艦が行きかっている。半島にも東シナ海にも緊張がある。思えばひどく不安定な均衡に自分達の国は隣接している。それをほとんど意識していない自分に改めて気づいた。

オトウトガモウスグチョウヘィデス。トテモイヤガッテイマス。とも話していた。しかし彼女は徴兵は国土を愛する心を増やし良い事だと思うとも話をしていた。

最期に余った台湾元を日本円に戻すか使い切る為にある両替商を兼ねた土産物店へバスは立ち寄った。今度は彼女のお勧めに従った。パイナップルケーキとネギの塩味クラッカー、タケノコの煎餅だった。余っていた僅かな台湾元は数枚のコインを残して使い切ることが出来た。

彼女ともう少し話をしたかった。しかし空港はすぐそばだった。チェックインカウンターで見届けて、短く手を上げて彼女は歩き去った。わずか三日間の滞在だったが多くを知った。自分達はもう少し国を愛する必要があるのだろうか。忠君愛国という時代でもないが、あまりにも世情や政治に無関心に生きている自分達がすこし恥ずかしく思えた。

日本、朝鮮半島、台湾、中国。自分は世情をどれほど知っているのか、政治に関心はあるのか。45年前の地図帳を開いて、考えさせられた。

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