日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

大安売りの魯肉飯

やくたびれて電車を降りた。山の帰りだった。

今日の山はけっこう絞られたな、傍目で見ても誰もがそう思うであろう程疲れ切って改札を出た。駅前には時々特設コーナーのワゴンが出る。そんな中の「台湾式弁当」と書かれたワゴンにスーッと吸い込まれてしまったのは日ごろから台湾に興味を持っていたからだろう。

古き日本の風景が残る国、と言われる台湾だが自分は出張でも旅行でも行った事はない。毎日半導体の載った家電製品のお世話になっているのだから台湾はとても身近なはずだ。数年前に旅行に行った娘は「日本と風景が変わらなかった」と話していたがどうなのだろう。それも知らない。ただ、概ね親日的だという話は良く聞く。そういえば数か月前に家内と散策した下北沢の街でスイーツの写真を楽しそうに撮っていた若い女性組に自分達の写真を撮ってもらった。それをきっかけに話が弾み彼女たちは台湾から来て日本に住んでいることを知った。日本の生活はとても快適で楽しいという話に心は和らいだ。街を歩けば台湾小皿料理という看板を掲げた料理店も多くなった。いっときのブームは去ったかもしれないが自分の街にもタピオカジュース店があったほどだ。政治的にいつも微妙な距離感を持たざるを得ないのだろうが、首都圏で生活していると台湾の身近さを実感するだろう。

ワゴンに近づいていくと夕方も更けていたこともありあまり品は残っていなかった。しかし魅力的な容器があり、しばし見入った。それは魯肉飯(ルーロー飯)のお弁当だった。何処で食べたのだろう。現地に行ったことはないのだから日本だろうか。いや、アメリカで食べたのかもしれない。あまり記憶が無かった。敷きつめたご飯の上に煮た肉と青菜、高菜、トウモロコシ、茹で玉子などが乗っている。

これは鳥肉?ときくと、ブタヲニタモノ と答えがあった。あ、なるほど、豚の角煮か。八角の風味だろうな。疲労回復には豚肉。いかにも山の後には向いていそうだ。

美味しそうだねなどと独り言を言っていると先方もしびれを切らしたようだ。

500エンヒクヨ。と言ったらしいが500円になるの?と聞き返してしまった。そう聞こえたのだから仕方がない。

500エンヒクカラ700エンデス。と言われた。迷っていたら更に続いた。イイヨ、フタツデ1200エンネ。モッテッテ。ハンガクヨ。

確かに一つ1200円の札が二つで1200円になってしまった。勝負ありだった。まるで寅さんの啖呵売りのようだが、これが台湾流なのだろうか。別に彼女も悔しそうな顔をしているわけでもなく、むしろ在庫がはけて嬉しそうだった。

帰宅して妻の帰りを待ってから電子レンジで温めた。八角の香りはやはり強いが自分は苦手ではない。一口食べて何故かアンモンキョウあたりのシンガポールの屋台街を思い出した。八角の香りは自分にとってはシンガポールの匂いなのかもしれない。しかしその匂いにつつまれ目をつぶればいくつもの風景が頭に浮かんだ。ホテルの窓から見た広場で皆が太極拳をする中国の朝の光景。文鳥が引くおみくじや小さな紙の熱気急に願い事を書いて空に放つという「天燈上げ」。後者などは画像や映像でしか見たことのない当地の風景だが、既知未知の光景が浮かんだのだ。

会社員時代に持っていたパスポートは失効してしまったが、いつか行ってみたいと思う。長時間のフライトはもう苦痛だ。どちらも散々乗ったので今更特に欧米に行きたいとは思わない。妻も、もういいかな、と言う。しかしレトロな風景、人の温かさ、そして美味しい食べ物がある。そんな日本から一番近い島国には行ってみたいと思う。

大安売りの魯肉飯は少しだけ自分の好奇心を刺激してくれた。すべては幻想かもしれないが、そんな憧れを持てることが嬉しい。

ルーロー飯。八角の良い香りに行った事のない国への憧れが湧く。



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