日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

壊れた屋根

雨上がりの翌日は良く晴れていた。玄関のチャイムが鳴った。作業服を着たような若いお兄さんがそこに居た。

「余計なお世話かもしれないですが・・・」そう少しもじもじするのだった。彼は続けた。「ご主人の家の屋根、カサギが外れていますよ」と。数軒隣の建築現場で足場作業をしていたから気が付いた、そんな話だった。

カサギとは何ですかと問うと屋根の一番上にのっている金属の材だという。その片側が捲れているというのだった。このままでは雨漏りしますよ、と続ける。上がって修理しましょうかとでもいうのかと思った。

彼は耳にブルートゥースイヤホンを付けたままだった。自分はまずそれが何処を指すのか理解しようと思った。質問をした。「それではカサギとは棟木の上に載せる奴ですね。あの、ガリバリウム鋼板、いやスレートですよね。あれに被せるように」と。

彼の旗色は悪くなった。ご主人詳しいですねと驚いた。「修理ならこの家を建てた工務店に頼みますから」。と言うと踵を返し急ぎ足で去って行った。

僕は途中まで深刻に受け止めていたが、どこかで?マークがついていた。脚立を持ち出してベランダから屋根を見た。確かに屋根のてっぺん、三角形の部分には金属の傘がかぶっているが、それはきちんと釘で打たれていた。確かに波打っているが外れてはいない。アルミか薄い鉄の鋼板なのだ。角度は120から30度だろうか。さように折り曲げられて釘で固定されている鋼板が捲れるとしたら誰かが屋根に上り引っ張りはがさなければないだろう。隣の家も同様な具合だった。写真を撮った。

二軒隣に家が建築中だった。あの現場の人だろうかと訪ねてみた。棟梁さんが出てきて話をした。「そんな若者はここにはいませんよ。傘木などそうそう剥がれません。良くある話ですよ。自分の隣家にもそんな若者が来ましたよ。剥がれていると。しかしそれは自分が施工したのだからありえないよ、というと帰りましたよ。」

彼は続けた。自分たち工事の人間は現場の近くで何か見つけて報告するにしても、まずは現場監督経由ですよ。大工独りで行くことなど無いのです。と。剥がれているのなら昨夜の雨でもう雨漏りしているはずです。と。彼の眼には怒りがあった。全くどうしようもない大工風情がいるものだと。

家内にその話をした。スマホで「屋根・カサギ」と入れると続いて「詐欺」とサジェストされた。そんな話だった。自宅の臨家にはご健康なお爺さんが一人住まいをしている。古い一軒家に住んでいる。時々「屋根瓦が剥がれています」と玄関ごしに声をかける人がいた。僕はいつも彼が去ってから、相手にしないでくださいな。するなしっかりとした工務店を。紹介しますよ。と話していた。それなのになぜ自分は妖しく揺れてしまった。

21歳の頃、自分は「消防署の「ほう」から来た」という男から消火器を買った。二本で七万円だった。同居していた社会人の姉は涙を流して悔しがった。まさにそれに引っかかりそうだった。

自分は何故最初に真面目に聴いたのかと言えばこの家をいつか売ろうと思っているからだった。資産価値を傷つけたくはない。屋根が剥がれたら大ごとだと早鐘が鳴った。しかし相手はそんな自分の内部事情は知らないわけで、たまたまタイミングが悪い具合に合致したのだろう。

数日間雨が続いている。雨漏りのあの字もない。当たり前だ。剥がれていないのだから。人生トラップばかりなのだ。引っかかる訳がないと思っていてもこちらの気持ちの状態では深刻に受け止めてしまう。冷静になればすぐにわかるはずだった。壊れた屋根ならば雨水が漏れる。わかりやすい。そうでない巧妙なものも多いだろう。これから高齢者になっていく。なにかにつけ狙われてなけなしのお金を取られるだろう。そうならないようにするには何が必要なのだろうか。正直に生きて来ただけでは不十分そうだ。

 

詐欺だろう。手が込んで自分にはすぐには解らない。消火器はホームセンターで買うが、今度は何が来るのだろう。

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