日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

営業職

営業という単語は分ったようでわからない。広辞苑によると「営利を目的として事業を営む事、またその営み」とまずは書かれている。新入社員研修を終え「海外営業部配属」と聞いた時に困った、外国人は怖い、英語は喋れない、人見知りだ。そんな自分が営業などできるのかと。しかし改めて広辞苑を考えるなら営業とは事業を営む事やその営みとある。大義になるが営業職というとわかりやすそうだ。いずれにせよ自分などその一部を担うだけという事だろう。

モノを売る相手も企業が相手なのか消費者が相手なのかによって仕事の内容は変わるだろう。自分は欧米の情報機器メーカーに対して自社の製品をOEMで扱ってもらうための販売部門の営業職だった。担当商品の窓口となりそこへ新規・後継機の売り込みをかけた。面白い事に自分がいた会社は欧米アに散らばる現地法人を管理する部門もこれまた営業部と呼ばれていた。実際に顧客に会い製品を取り扱ってもらう交渉をするわけでもなく、現地法人の経営状況をとりまとめ本社に報告し結果をフィードバックするという仕事だった。

営利を目的として事業を営む事が営業ならば、確かにこんなモノを売らない部門も又営業部なのかもしれない。自分はモノを海外の企業に売る仕事から現地法人経営管理をする仕事に異動したが、心の中では「これは管理部だな。彼らは皆実際に顧客にモノを売ったことがあるのだろうか」といつも疑問だった。必要とされるスキルはモノを売るためのマーケティングなり交渉術ではなく、経理や財務の知識だった。勝手違いに戸惑ったが、それも全く新しい仕事と捉えればやがて慣れた。

長女はプラント工事会社の営業職に配属された。企業相手の営業職という事だから自分と同じ道を歩んでいるのだと思った。次女はインフラを扱う会社での管理部門に配属された。こちらは数字を扱うという事で、これまた自分の会社生活後半の仕事内容に共通するものがありそうだった。彼女達とは時々仕事の話をするが何にいきずまっているのか何となく悩みの共有が出来る。

女性が社会の第一線に立つことは当たり前となった。上司が女性というケースもある。三十五年間務めた自分の最初の会社はやはり女性管理職は少ない。一方で再就職した人材派遣会社は女性が管理職の多くを占めていた。

今回の我が家の引っ越しに際し、引っ越し業者に関しては合い見積もりを取った。良く聞く大手の二社が手を挙げた。業界ナンバーワンのA社からは男性の、フォロワーのB社からは女性の営業がやってきた。二人の営業職は実際の最終顧客を相手にすると言う点で、自分がやってきた企業相手の営業よりもはるかに最前線に立っていた。ともに自社の看板を背負っていた。A社の営業は自信満々でB社とのベンチマークした資料を手に自社の優位性を訴求した。B社の営業は謙虚に、丁寧な仕事をします、と訴えた。見積もりは両社ともほぼ変わらなかった。

フォローの連絡が来たのはB社だった。実は十年前の引っ越しではB社を使い家財の一部が紛失してしまった。苦い経験もありA社にしようと内心思っていたのだ。A社の見積もりには不明点があり電話連絡をしたが担当不在で折り返し連絡を頼んだが、来なかった。そんな時にB社のフォローだった。フォローのタイミングも良かったが、妻と話していた。B社の営業職、彼女は一生懸命でまるでウチの娘たちを見ているようね、と。

確かにそうだろう。娘たちはかたや企業を相手に、かたや出てくる数字を相手に。彼ら二人ともそれぞれ最前線で懸命なのだろうと。

情にほだされたわけでもない。B社にお願いすることにした。結局A社からは何の連絡も来なかった。どんなものなのかと首をひねる。上司からのフォローや報告は無いのだろうか。

引越しは無事終わった。今度こそ紛失物もなかった。撤収時に彼らはアンケートはがきを自分達に渡した。大満足の欄に印をつけて投函した。