日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

名刺とは何だろう

会社員になって初めて手にするものの一つが名詞だろう。出来上がったそれを手にするとああこれで僕も一人前だ、と嬉しく同時に気恥しかった。名刺は人事異動そして役職が変われば都度新しくなる。会社員時代の名刺は数枚づつ保管している。早期退職してすぐに転職かなった人材派遣コンサル会社の名刺もある。これなど研修中に病に倒れ自主都合退職となったので一枚も使っていない。今の職場は非常勤で名刺はない。名刺は自分の社会・経済的属性の歴史だった。

日本人の名前は海外の人にとって覚えずらい。「アメリカ人と仕事をするんだからファーストネームは馴染めるようにした方が良いよ」とは自らをジョニーと名乗る米国駐在歴の長い上司の話だった。色々考えた。自分はユキオという名前だ。Yで始まる西洋人名は浮かばなかった。そこで憧れのロックギタリストから拝借した。Keith(キース)だった。言うまでもない、結成60年以上現役の英国のロックバンド、ザ・ローリングストーンズ。そのリズムギタリストの名前を拝借だ。おなじ「キ」がつく事からそうさせてもらった。もちろん、キース・リチャーズの許しなど得ようもない。

初めて米国人や英国人を相手に、Hell I'm Keith.というのは気恥しかったがじきに慣れた。そのうち仕事相手から「Hi Keith!」などと呼ばれると「ハイハイ」と答えてしまう始末だった。そんなKeithも付き合う相手がドイツ人やフランス人に代わってからは、あまり通じなかった。ドイツは日本に近くサーネームで、またフランスはVousをTuで呼ぶようになるとファーストネームで呼び合うようだった。そんな中にいきなりキースと名乗ってもこいつはアメリカかぶれかとでも思われただけだろう。そんなこともあり前々職の最後の名刺の裏面からはKeithは消えている。西欧が相手でもお国によって対応が違うと知った。

名前に加えて会社名・所属部門名・役職・所在地・電話番号・メルアドが名詞に記される。あとはメーカーならISO取得番号、今はSDGSロゴ辺りも書かれているのかもしれない。

名刺が不要な生活も三年目になった。しかし近く50年振り近くの中学の同窓会があり懐かしいメンツに会う事になる。そこで簡単なカードに自分のラインQRコードでも印刷しようと思い名詞シートを買った。

テンプレートづくりで、はて困った。名前の前に付ける属性が無かったのだ。無職だから仕方がない。強いて上げるとして、ブロガー、トレッキング愛好者、サイクリスト、ベーシスト、アマチュア無線技士・・・。いずれも中途半端なものでとても名詞に値しなかった。60年生きてきて、自分が得たアイデンティティなどは、全くないのだった。

自遊人」は?と頭に浮かんだが止めた。煩悩だらけでそこまで油が抜けてはいない。結局、愛犬のイラスト、氏名、ブログURL、Eメールアドレス、電話番号だけをラベルメーカーのサイトの一番シンプルなテンプレートに記した。ブログとLINEについてはアクセスを考えQRコードも併記した。

自分は自分でしかない。社会・経済的属性は永遠なものでもない。肩書も意味が無い。相手によっても表記を変える必要がある。しかし自分だけは変わらない。自らのもっぱらの活動はブログにある。あとは連絡先が明瞭ならば、それがネームカードとしての必要十分条件だろうと考えた。名刺とは自分の名前と連絡先を示すだけの物。それで、いいではないか。と思うようにした。

これからも自分の創造活動の範囲は広がっていく、いやそうしたい。するとこの後に少し違う名刺を又作ることになるかもしれない。それもいい。がこれが社会・経済的属性を失ってから初めて自分を示すカードの第一号になった。もうすでに捨ててしまった名詞入れが必要になる。社会人の頃それは革製だった。しかしもうそんな鎧兜も必要ない。それはとても、気が楽だと思うのだ。

これが第一号の名刺になった。何を記するかは迷った。結局何の肩書も意味が無いと知った。

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