日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

隣家の夕餉

家の隣がレストランで、毎日良い匂いが漂っていたとしたら幸せだろうか。

レストラン・食堂の隣に住むならどんな店が良いか。寿司屋からは匂いは来そうにない。天麩羅屋もとんかつ屋も良いがそのうちにこちらが揚がってしまいそうだ。カレー屋はかなり怪しく胃を攻める。ラーメン店は出汁の香りに加えて麺を茹でる匂いをあわせこれも柔らかく自分を懐柔する。洋食屋、これはドミグラスソースなどで攻めてくる。すぐに降伏する。さて、中華。この場合は匂いというより実体験に繋がりすぐに汗が出てくる。カラコンカラコンという玉杓子と中華鍋のぶつかり合う音が聞こえたなら日常生活の維持は困難になりそうだ。

我が家の向かいの家から夕食時にはかなり胃袋を刺激する匂いがしてくる。日本人なのだから当地とは違いやはり冷たいビールに直結する匂いだ。独特のスパイス。八角の匂いはあまりしないが豆板醬、甜麺醤、豆鼓醤の香りがすることも多い。オイスターソースっぽくもあり、加えニョクマムなのかナンプラーなのか、とにかく魚醤っぽくもある。

通りを挟んだ向かいの家の奥様は中国の方だった。引っ越してこられたときに挨拶に見えたが、奥様の日本語は達者だった。しかし時折実家や友人と話しているのだろうか、中国語が開けた窓から聞こえてくる。有気音に四声が加わるのだから必然的に音量が大きくなるように思える。別に喧嘩をして大声で話しているのではないだろう。ああ中国だな、そんなことを感じるひとときだった。

彼女の作る料理の匂いが自分の胃を刺激することは事実だった。一体どんな料理を作っているのだをろう。特別なのであろう調味料は何処で入手するのだをろう。中国と言っても北京あたりの北部なのか、上海なのか、四川なのか広東なのか、さらに南部なのか。いずれも味は異なるが、窓から漂う匂いだけでは判別もとてもつかない。

彼女にしてみれば日本人がカレーや肉じゃが、焼き魚などの家庭料理を作っているだけなのだろう。それでこの香りとは全く奥が深い。

かつてドイツに住んでいたときに魚を焼く時の匂いには気を使った。幸いに日本人の多い住宅ではあったがやはりドイツの町並みにはおよそ異質な匂いであったと思う。街ゆくドイツ人は、はてどんな人が住んでいるのか、いや、これはヤパーニッシュだな、と思っただろう。匂いから住んでいる人・人種まで想像できるのだから奥深い。

今日の夕餉だろう、向かいの家から相変わらずの良い匂いがしてきた。海老でも炒めているのか少しだけしょっぱい香りで、それは南シナ海の風景を思い出させた。

隣家には本格中華の家庭料理。良い香りが漂う点では幸せだが、唯一の残念な点はそれが食堂ではなく一般家庭であるということだった。

さて僕も今夜はレトルトに入った素のお世話にでもなりホイコーローあたりを作るとするか。身に染み付いた彼女の料理にはとても及ぶまい。匂いだけの隣家の夕食はいつもとても魅力的だ。

向かいの家から漂う夕餉の匂い。大陸の味を思わせる匂いに何時もやられてしまう。これを手近に味わうならば中華街辺りに行かなくてはいけない。

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