日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

メビウスの輪

不審なメールを妻が受け取った。契約している電力会社を名乗っていた。曰く、先月分の電気代が未払いで停止しますと。かなり一方的な文面だった。電気代は口座自動引き落としにしていたが使用量に無関心になってしまっていたので数か月前に支払い方法を振り込みに変えた。請求書はがきを送ってもらいその場でスマホをかざすのは楽だった。払い残しなどあるわけもない。これはフィッシングの類だろうと察した。

そこで電力会社カスタマーセンターに電話した。父の死後彼が契約していたクレジットカード、インフラ、口座、証券すべて停止ないし名義変更する必要があった。この半年で一体何回そんな電話をしたのかも分からない。何処に電話してもまずは自動応答だ。この会話を録音する?いちいち言わなくて勝手にしてくれ、といつも苛立つ。この後にオペレーターが出てくる例は皆無で、次に様々な選択肢が伝えられる。プッシュして先へ進む。行きつ戻りつ、ようやくオペレーターにつながる。

がこの会社は更に曲者だった。延々と回されて最後にはこの電話では扱えないので次の番号に電話するように誘導された。そこに電話すると最後に誘導されたのはチャットサイトだった。

ここまでは自動音声が相手だった。チャットサイトでは同じ質問がループされた。今度はAIが相手だった。頭にきて電話を切った。自分は血が通って心臓が鼓動する人間と話がしたいのだった。話せば過去の支払い分など直ぐにわかるだろう。なぜそうしないのか、この電力会社に素直に腹が立った。

この会社の本社は何処なのだろう。東京は大手町辺りなのだろうか。そこの受付嬢にクレームを申し立て総務でも広報でも良いので文句を言いたくなった。いや、その前に未払いの事実を知りたかった。

放り投げたスマホ。妻は偉かった。イライラしながらもAIと対話を続けようやくオペレーターを呼ぶところにこぎつけたようだ。AIの逃げ場がなくなるまで実直に対話を続けたのだろう。頭が下がった。オペレーター氏は直ぐに調べ未払い金は無い事、そしてメールは当社の物だが中身は当方の確認ミスだった、と謝ったという。ジャンクメールではないことにほっとしたがやかんが沸騰するほど頭に来ていた。

メビウスの輪を思い出しだ。一センチほどの幅で十センチほどの紐を作る。一捻して糊付けする。するとその面を辿っても無限に軌跡は回るだけとなる。出口がない。それは無限ループだった。誰もが一度は作っただろう。

仮に僕が電話の相手だったらここに至るまでにかかった所要時間一時間半。時給1500円として2250円を定額小為替で送れ、と文句を言っただろう。更にらちが明かなかったらきっと日本刀を携えてこの電力会社の本社へ乗り込み、威力業務妨害でお縄だっただろう。

しかし思う。スマホが無いと何もできない。高齢化社会でこのAI化。血の通った人間と話が出来ない仕組みづくり。何故なのだろう。業績不振、人減らし、自動化導入・・。コンビニやスーパーでのレジの支払いも人の媒介画面は限りなく減ってきた。支払いに困り果てている高齢者を必ず見かける。しかしまだそこには人がいる。仮に自分がもっと老いぼれていて言われる意味が分からない、あるいはわかっても対応できないのであればどうなるのだろう。

父が逝去し彼の遺産を整理していた。彼は僅かながら株を持っていたが多くはこの電力会社の株だった。そして証券会社の運用レポートによるとこの会社の株だけが大負けしていた。つまり父はこの会社に投資して大損をしていた。そのことをどうこう言わないが、ざまあみろと思った。嗜好品や食料の販売ではない。インフラ費用なのだ。自社の為だけの省力化。それは電気代に還元されているのか?こんなことではますますここの株価は下がるだろう。消費者に寄り添えない会社は消えていく。しかしインフラ会社なので無くなることはないだろう。それが残念だ。

電力自由化が言われたが自分はその際にここを選んでいた。直ぐに解約して乗りかえよう、真面目に検討している。客に寄り添わぬ会社、メビウスの輪はご勘弁。さっさと縁を切りたい。

今の世の中、辿れど辿れど答えに行きつかない。陰と陽がいつも入れ替わりいつか来た道をまた歩く。一体どこへ行くのだろう。