日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

夜間情動不安症

どれがいいのかね、うちの子は6キロ未満だからね。新生児用ではキツそうだし、Sサイズは大きいね・・・。そんな話をホームセンターのオムツコーナーでしていた。傍目には祖父祖母が孫用のオムツを選んでいるのか、と思われたかもしれない。人間用は通気性が良いし、割安なのよ。そう妻は言う。確かに自分がガン病棟に入院中に履いていたオムツは非常に快適だった。

激しい痙攣が続き脳疾患と診断され入院していた我が家の犬もようやく病前の日常を取り戻してきたように見える。餌をあげる際のルーチン、「マテ」「フセ」も再びやるようになった。散歩も少しづつ歩くようになった。そこでトイレもするように戻ったが、散歩以外は基本オムツにしている。一日2、3回、重くなったオムツを交換する。オムツの性能は優れていて、小便ならば半日はそのままでも漏れる事はない。自分達の育児を思い出した。オムツが濡れたと不快で泣くこともないだけ、犬は楽かもしれなかった。

帰宅した時は足元も覚束なく、よろけて何処かにぶつけたせいで右目の眼球に傷がついた。それも抗生物質点眼を続け傷口はふさがってきた。目の傷に関しては手術の必要性すら言及していた医師も「粘り勝ちだね」と言ってくださった。内服中のステロイドはわからないが少なくとも抗痙攣剤は一生続けるだろう。それは自分と同様だ。抗痙攣剤の副作用は自分が一番よく知っている。倦怠感、虚脱感、浮遊感、眩暈。自分も彼も、それを永遠の友にしなくてはいけない。

病から戻ってきた11歳の彼。玄関のチャイムには反応しなくなった。しかし大人しくなったわけではない。夜中になると小さく吠えるようになった。ケージを開放すると暗い部屋をぐるぐる回っている。もともとは自分達の布団で共に寝ていたのだが粗相もありケージにしたのだった。隣家に迷惑がかかるのが心苦しい。吠える理由はこれまでなら餌か排泄だった。今回、排泄はオムツだから、と餌を与えると静かになる。しかしものの10分でまた吠えだす。

獣医に相談した。「夜間情動不安症ですよ。老いた犬には多いです。餌は上げないでくださいね。成功体験になりますから」そう言ってチラシを渡してくれた。

・人間と同様に歳を取ると認識能力が減ること。大脳の老齢性変化。
・刺激に対しての過剰な反応、睡眠覚醒サイクルの変化、視聴覚能力の劣化など。
・特に多いケースは分離不安症。飼い主と離れているという不安。部屋が暗くなった時、夜間に一人ぼっち、人の・飼い主の気配が感じられずに不安が高まる。
・診断としては血液や尿検査など内科的所見で原因等を探っていく。また情動不安のコントロールには精神安定剤や睡眠誘発剤を使用することも可能。抗不安薬抗うつ剤も有効なケースもあるが、データは人間に対する処方結果から推測されたものになり、薬剤使用前の検査が肝要になる。
そんな記載だった。

「鎮静剤を与える事も可能ですが、習慣性もあるし出来れば避けたいですね。」そう獣医は言ってくださった。夜泣きなら抱っこしたり同じ布団で寝るのは?との問いにはお勧めしますという事だった。これまで通りに戻るという事だった。

適応障害の罹患を通じて自分は抗不安薬抗うつ剤精神安定剤、その総てを経験していた。またガン病棟では夜間には睡眠導入薬を摂っていた。それらの効きかたと効果は自分でも推測がついた。自分も医師の意見には賛成だった。

早速その夜からケージは止めて妻は同じ布団に犬を入れた。それから夜泣きは減っていき、数日たつと静かな夜が戻ってきた。おむつの交換はあるものの基本的には手にかからない病前の状態に戻った。

夜が寂しい。それも独りは嫌だ、飼い主さんが居ないから寂しい。そんな事で吠えるとはなんと愛おしい事だろう。夜間情動不安症はとりあえずは終わっただろうか。「粘り勝ちだね」。今度は自分たちが言う番だった。

ペット用おむつはあと数枚残っている。人間用を買ったら尻尾の部分に穴をあけるだけで使える。結局どのサイズが良いのか分からずに、まずは大パックではなくコンビニ辺りで手に入るであろう数枚セットでも買って試してみよう、という話になった。

我が家には小さな赤ん坊が居る。30年前の経験がまたやって来ただけの話だ。年老いた赤ん坊はいつも自分達の生活に潤いをくれる。そんな彼には快適なオムツを履いてもらい不安な夜には寄り添おう、と思う。今度は病ではなく加齢で自分がオムツを履くようになっても、オムツを履いた彼が同伴していたら何と嬉しい事だろう、そんな風に考えた。

我が家に居る小さな赤ん坊。夜泣きは止んだ。オムツはずっと外れないだろう。歳とっているからな。いつか僕と共に履けばいいね。

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