日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

IDカード・福之記11

運転免許書、社員証、学生証、そしてマイナンバーカード・・。誰しもが自分の写真が写ったカードを持っているだろう。

犬の写真が入ったカードなど想像もしなかったが、それなら名前をもう少し丁寧に書けばよかった、と思うのだった。保護犬が家にやってきて四か月経った。まだ飼い主の事を信用していないのか、嫌がることがある。留守番、歯磨きだった。留守番はそれが分離不安だと知っても、そこまで吠えなくてもいいだろうに、と思う。帰宅を待ちわびすぎてドアに飛びつくのだからそれは彼の爪によりたくさんの傷が付いてしまった。もう死んでしまった先住犬は子犬から飼ったので乳歯から永久歯への生え変わり時期を共にした。生え変わる際に彼は家のあらゆる建具と家具に嚙みついていた。初代犬のつけた傷と、二代目保護犬のつける傷は性格は違うが彼らの生の証でもある。あながち迷惑だと否定も出来ないのだった。歯磨きだけは初代犬も嫌がった。二代目犬はまだ若い。力の限り拒否するのだった。しかし口腔ケアは人間も犬も大切だ。何とかしなければ、と思う。

大人しく留守番をすることがあれば、僕らは大きく頭をなでご褒美のフードを上げている。少しは効果があるのだろうか。自分は置いてけぼりではない、彼らはやがて戻ってくるのだ、と何処かで理解してきているようにも思えるがそれは期待に過ぎなかったと思う事もある。もう少し時間が必要だろう。

二代目をドッグランに連れて行ったことは無かった。初代犬は余りアクティブに外を走る事もなくドッグランの中では柵の周りを散歩をするだけだった。二代目は運動能力が優れていてペットサークルを楽々乗り越えて逃亡するのだからドッグランはさぞ向いているだろうと思った。受付でその公園ドッグランの会員証を作った。彼の写真を3.5x4.5センチにカットするのだからまるで人間並みだった。出来た会員証は可愛らしい。彼を正面から見るとなかなか男前だった。

ブリーダー施設から救い出されボランティアさんの家で二か月、我が家で四か月。彼の娑婆住まいは半年に過ぎない。そこでドッグランと言う自由を前にして彼は暫く動かなかった。動けなかったのかもしれない。過酷な過去を思い出したのかもしれなかったが幸いなことにそのブリーダー施設と言うものを自分は見たことが無い。

もう数匹入ってきた。つられてようやくドッグランの中を歩き回るのだった。他の犬に追いかけられていわゆる「ウサギジャンプ」をしていたのは嬉しかった。天気の悪い日で生憎三十分で切り上げた。帰りの車の中で彼はぐっすり寝てしまった。何が起きたのかも分からなかったのかもしれない。

飼い主は逃げないから信頼してね。必ず戻るから室内で吠えないで。あと、歯はどうか磨かせてくださいな。そう丸くなった彼に話しかけた。

手にした会員証は彼のIDカードに思えた。今度からは飼い主が首からぶら下げるようにということだった。少し緊張したように見える彼の端正な顔立ちを見ていて思う。彼を沢山触って自分も幸せホルモンの一つであるオキシトシンを出させてもらうから、と。オキシトシンはタオルや毛布などもふもふとした柔らかい物を触ると分泌されるというから、彼など最高の適任だろう。

IDカード大切にするから、また行こうな、振り向いたが彼は相変わらず丸くなったままだった。夢を見ているのだろう。

まるでどこかの社員証ではないか。そんなIDカードを彼も一人前に持つのだから飼い主としては嬉しい限りだった。

ドッグラン初体験。どうしたものかと困り顔。しかし仲間が入ってくるとようやく動き出した。控えめなウサギジャンプもあった。次はもっと跳ぶだろう。

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