先日銭湯に行った。スーパー銭湯は高くていかないが銭湯なら手近だ。週に一度は行こうと地元の数軒を順に回っている。ラジウム温泉、ジェット風呂、秋田玉川温泉の北投石を使った風呂、電気風呂。日替わり薬湯。サウナは追加二百円だが五百円で十分楽しめる。週に一度の贅沢日として夫婦ともに楽しみにしている。先日は一番規模の大きな店だった。入浴券を番台に渡していつも通りに左手の入口に進んだ。
スタスタと更衣室に入りロッカーを探した。すると眼の前の痩せた方はずいぶんと長い髪だった。ああ、長髪の人だなと。とそこにやや豊かな乳房があった。ギヤーともヒャーともつかぬ悲鳴で過ちに気づいた。女風呂の更衣室に入ってしまったのだ。慌てて戻った。妻は妻で右手の通路に進み暖簾の色に気づき戻ってきたと言う。
番台の真ん前で「何だよ俺たち!」と言いあったが笑えない。思わず番台に勘違いだと釈明した。カウンタの彼女は気づいていたようで「一言言えばよかったです」と謝った。勘弁してくれよ、と思った。男女の浴室が奇数日と偶数日で日替わりで入れ替わっているということだった。するとこれまでずっと偶然にも偶数日ばかりで行っていたのか。安全なシェルターは男風呂だった。釈明を十分してから慌てて右手に駆け込んだ。そこは治外法権だった。
妻によると更衣室では「何あの人、大声だしちゃった」と話していたという。とても「あれは私の夫です。いつもの習慣で間違えたようです」とも言えずに知らぬの態を通したという。そりゃそうだろう。火中の栗を拾う必要もないのだから。手前にいたのは四十歳代の方だったらしい。更に奥には若い娘さんもいらしたそうだ。僕の頭の記憶領域には手前の女性だけが残っている。もし若く勢いのある彼女たちが叫びながら全力で追いかけてきたら立ちどころに僕は警察に突き出されただろう。
更に警察が自宅調査でもしたら宜しくない。PCの閲覧履歴などとても自慢できない。しかし僕は言いたい。世の男でそんな隠し事をしない人は居るのか?と。
そんなことは開き直りだった。ともかくも何もなくて良かった。二人とも過ちに気づかなった。習慣とは恐ろしいのだった。危うく性犯罪者になるところだった。
そんな話を職場でした。殆どが自分と同年代の女性職員なのだ。「まあ大変だったわね。若い人もいたのかしら?いたの?あらそれは残念だわ。ゆっくり見ればよかったのに」
流石にご老人相手のデイサービス介護職員だった。肝っ玉が違うのだった。そういう問題ではないのだが、と頭をポリポリ掻きながらも確かに惜しいことをしたと思ってしまう自分もまた情けなかった。
指差喚呼は安全対策の基本だ。まさか銭湯で必要とも思わなかったが放って置くとまた起きるだろう。我が身の安全のためには自戒と自衛。
しかしとんだ贅沢日だった。