日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

アジサイの坂

アジサイの花がお二人には似合うだろうな、そう考えて今回の山のルートを考えたのだった。昨年はその地を出身地とする友人と家内とでアジサイを見に行った。とても見事だったのでまた見たいと思っていた。

今回の山歩き。ヒデさんは会社時代の元上司。ミエコさんとサクラさんは元会社の同僚だった。会社を離れて時のたつ自分はそんな彼らと何の利害関係もなく時々山をご一緒させて頂いている。二人の女性陣は現役なので、時々聞ける範囲で会社の出来事を聞いている。誰それが今はこんな役職よ。えーほんと?といった具合だ。そんな会話に今は全く無責任に向かい合えるから楽しいものだった。

登山口の茶店がまだ空いていなくてそこで買おうと思っていた玉子焼きとお団子には会えなかった。アジサイの咲き乱れる階段は果てしなく続いて、早くも脚があがらなくなる始末だった。一応はコース設定役で案内役なのだからこれではいけない、と登り切った。神社の境内からは栃木の平野が眼下に広がり遠くに筑波山がスックと立っていた。

ヒデさんは最近山登りに目覚めたということで会に属して良く登られている。下山後の反省会の為の山の会です、と言われるがそれはご謙遜だろう。実際に達者に登られるのだ。ミエコさんとサクラさんはともにスポーツウーマンだから涼しい顔で、こちらは焦るのだった。

この稜線を歩くのは25年振りだろう。娘二人と妻とで登った。次女はよちよちで、時折自分が肩車したのだった。そんな風に登ったのだから気楽な登山だったはずだが、低い山とは言えアップダウンも長くそれなりに絞られたのだ。アジサイの花は登りはじめのみで、そこから先は花はなかった。ただ杉やヒノキの植林帯と言うよりはくぬぎなどの広葉樹林だったのが幸いしてか、尾根道には涼やかな風が流れていた。下界30度の予報が海抜400m級の稜線でも別世界だった。視界が開けるとそこはパラグライダーの離陸場だった。荷揚げ用の小さなモノラックがあった。さあっと羽が広がり人が舞い上がった。人間は何でもできるのだな、と空を舞う人を見て思うのだった。

4時間程度の小さなハイキングだった。山を下りると、たまらなく暑かった。いったん電車で大きな鉄道の駅まで出てそこからコミュニティバス日帰り温泉に向かった。渡良瀬川の支流がゆったりと流れる風景を見ての露天風呂には山の疲れも日常の疲れも飛んでいく。その川が「思川(おもいがわ)」という優しさに富んだ名前であることが、ひどく自分を幸せにしてくれた。

ミエコさんとサクラさんもさっぱりとしたようだった。あと三人はひたすらビールの話題をするのだった。駅前に出て予め調べてあったお店はビールのジョッキの値段が高い、と四人そろって総否決だった。駅前ロータリーを挟んだ店でザックを下ろした。待ちくたびれた乾杯は何度も続いた。ミエコさんとサクラさんの二人は長い付き合いのようでお互いの家を泊りで行き来している関係の様だった。若い年齢の友人同士ではなく成熟した関係に思え、それが今日のアジサイ坂の花の様に美しく微笑ましいものに思えた。ヒデさんはまた現役時代の様に豊富な人脈を広げて、何か新しい事をやろうとしている、そんなエネルギーはいつも自分に力とヒントをくれる。そして四人とも家には犬がいる。愛犬の情報交換も又楽しい話題だった。

へべれけ手前で、誰かが言うのだった。「ここは新橋ではないんだよ。まだ栃木だからね。電車も少ないし家が遠いよ」と。慌てて会計して四人でホームに駆け込んだ。居並んでこうべを垂れて電車に揺られた。初夏の香りに包まれてアジサイの坂をヒーヒー歩く夢を見て、目が覚めた。ミエコさんが降りる一つ前の駅だった。梅雨の晴れ間をしっかりとらえた。素敵な人たちとの会心の山歩きだった。

 

アジサイ咲く道。急な階段を上った。紫色の空気は初夏の香りだった。

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