日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

海岸から登る山 - 岩戸山・熱海市

海岸からそのまま登山し始める山。ありそうで浮かばない。小田原と熱海の間にあった。湯河原駅から歩き相模湾の国道に登山口がある。しばらくはみかん農園の簡易舗装の道。そして舗装が途切れるととんでもない藪になった。舗装路の上部に居た農夫さんが言っていた。「最近この道通る人いないからね、どうなってるかなぁ」と。

案の定だった。地形図でルートファインディングするのはスマホの地図ソフトのお陰で容易になった。現在地が地形図の上にプロットされるのだから。しかし実際に伸び放題の藪を前にするとミスコースではないと知っても飛び込むには勇気が必要だった。数年来の台風の災禍も片付いておらずにそこに夏草が茂っていた。低山なのでと半袖で来たことを悔いた。藪で腕はこすれ虫に刺される。困るのは蜘蛛の巣で下山用のトレッキングポールを取り出してこれで露払いをして歩いた。秋から冬にかけて歩けばどうということもないのだろう。汗を書くことは覚悟の上でゴアのレインウェアの上を羽織った。腕に絡む夏草と蜘蛛の糸は避けられたが、汗がそれを帳消しにした。

夏の低山だから、こんなもんだよな。覚悟の上だ。そう言いながら足任せに登った

標高差730メートルも長いだけで傾斜がゆるいので休み無しで3時間、登りきった。教科書的には正しくない登り方だろうが水分と塩分をしっかり取れば体任せで行ける、そうふんだ。意外な事に樹林の中は暑くなく汗もそうはかかなかった。

山頂は小さな切り開きでカヤトの向こうに青く光る相模湾が見えた。この風景は伊豆東海岸の山の特権だった。湯河原に下山して温泉に入った。

行き先は違えど一体これまでこうしていくつの山に登ってきたのだろう。好きなことをこうして続けられてくれたのは何も言わずに送り出してくれる妻のおかげだ。しかもこれは夏山のトレーニングの山歩きという位置づけだった。それは本番があるということだ。

申し訳ないなという思いで最近は下山してお土産を飼うことが増えた。しかし今日は電車の時間も迫っていた。缶ビールだけ買ってホームに上がった。結局自分のことばかりだった。自分にとっての山歩きとは当たり前のことを少し回りくどくして自らが気づく機会を与えてくれるものだ。それは自分にはとても大切な時間だ。地元の駅についたら少し気の利いたスイーツでも買おうか。

ともあれ海岸から海抜734メートルの山頂まで登ったことに妙な満足を覚えたのだった。

駅から海岸に出て時計回りに歩いた。登りの途中までは農道だがそこから車道との出合までが猛烈な藪道だった。登る季節を選ぶべきだろう。しかし海抜0mから山頂まで登ったことに不思議な充実感があった。小さな山も、素晴らしい。