日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

雪とみかん・湯河原城山

みかん畑の中をゆっくり登っていく。きつい勾配だが簡易舗装の道は細く長くうねるように続いている。みかん農家の玄関先のトレーの中に袋詰みかんが重なっていた。一袋100円。この道を歩くハイカー目当てなのか、市場に出さなくて良いのかともいらぬ心配をするが「我が家の実りをどうぞ皆さん楽しんでください」、そんな思いなのだろうか。

ワイワイと話しながら歩く今日の四人は会社仲間。自分ともう一方はすでに退職している。その彼は仕事での元上司で今はそんな垣根のない気楽な付き合いをさせてもらっている。残りの2名の女性陣は在職中。在職当時に仕事の付き合いの濃淡はあれどお互いにもう皆何十年も知っている間柄だった。彼女達と山を歩くのは初めてだったが、一人は山好き、もう一人はスポーツ全般を実践されているという事で天候以外の心配はなかった。

登るに連れて振り返ると銀色に輝く海が広がった。長くのびる真鶴の半島。その周りは相模湾。そして初島と大島が視界に重なった。

「みかん畑がきれい!」
「海が大きい!随分と登ったんだ!」

パーティの中に女性が加わるとにわかに山は華やぐもの。昨日までの低気圧も今日ばかりは明るい笑顔と笑い声の前に、これはたまらない、とばかり尻尾をまげて西から北へ飛んで逃げたのだろう。

「ねぇ、雪を踏む音って、どう形容しますか? 僕はコキュコキュかな。」
「キュッキュッと言いますよね。」・・彼女たち二人ともスキーは現役で、新雪を踏み慣れている的確な形容詞だった。

そんな話をしたのも海抜400メートルあたりから雪が出てきたからだった。昨晩の前線が暖かい地に残していった残滓だった。

一踏みで消えてしまうような淡雪でも山歩きを豊かにさせてくれる。まだらの雪が残る山頂でレジャーシートを敷いてそれぞれが持ってきた食料とテルモスの温かい飲み物で、いぶし銀のような相模湾を見ていると、全く時の経過を忘れるのだった。

下山は往路を少し戻り、異なるルートを取った。高度を下げると再びミカン畑となった。デコポンもあった。見ていると口の中に酸味が広がる。

他愛もない話を四人でしながらゆっくりと駅に戻った。日帰り温泉施設の無料送迎バスを待つのももどかしかった。小一時間後には山と湯の余韻を感じながらビールが何本も空になることだろう。

ガツガツ・じっくり登る山。そんな時も確かにあった。がっぷり四つに向き合う山は素晴らしい。しかし、長く知りあっている人々と気楽に過ごすこんな山があっても良いだろう。自分は最近、もっぱら同行の仲間と話し、彼・彼女たちの話から何かヒントを貰う、そんな時間が好きで仕方がない。皆さんが長年積み重ねてきた人生で得たものを申し訳ないけどちょっこり頂戴するわけだ。そこには必ずこれからを生きるヒントがある。ありがたく活用させていただく。それで良いと思っている。

雪とみかん。白に橙。アンバランスだがそもそも人生が山あり谷あり、先も読めないのだからどんな組み合わせがあっても良い。一見不似合いな組み合わせも、それは人生の妙。一袋百円の美味しそうなみかんの袋を買わなかったことを後悔したが、また、何時か行けばいいだけの話だ。

 

●湯河原城山(563m・神奈川県足柄下郡湯河原町)2023年1月28日歩く

JR東海道線湯河原駅から北へ向かい東海道線を小さなトンネルで抜けると真っすぐに一本道。かなり急な勾配の簡易舗装道が上部へ向かう。山頂は小広いカヤトの原。下山は西側の林道を歩いた。舗装道歩きが長いが終始迷う箇所はなく軽いハイキングのルートとしては好ルート。山麓の住民のお話では猿が跋扈しているという事で、なにかとご苦労をされている様子だった。

湯河原駅の裏手から急な簡易舗装の道が続いた。青ぞれに揺れる橙色は見事なミカンの果樹園。もうそこには冬は見られなかった。

海抜400mあたりから昨夜の置き土産が一面に広がった。雪は山に薄化粧を施してくれる。キュッキュッと踏みしめながら山頂を目指した。

真鶴の半島が相模湾に伸びている。わずかに残った雪と銀色の海。春の前に冬は降参だろう。

今回のルート図。行程の8割は簡易舗装道。凍結もあり要注意だった。