日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

春うらら、野点の山

久々に揃った三人だった。自分にとっては二人とも二十数年程度の知り合いだが、彼らは三十年来の山仲間だ。出来上がっている山仲間の関係に7,8年遅れで自分が参加したというのが正しい言い方だろう。お二人とも山の大先輩であり、またそれぞれが日々をしっかり楽しまれている人生の大先輩でもあった。

高原に住む友人を地元の友人と訪ねた。なによりも高原は今が桜の最盛期なのだ。山っ気の濃い三人なのだからただの桜見物では済むはずもない。地元の県が編集し頒布しているハイキングコース誌は大人気で在庫も薄いという。まずはそれを友人の住む駅で仕入れた。誌面の内容はネットにも公開されているので、友人はそこから桜見物と両立できる駅の近くの小さなコースを予め選んでいてくれた。

余りに簡易なルートなので友も自分もデイパックだった。しかし高原の友人は30リットルクラスのザックを背負っていた。

小さな峠で車を停めて一途な登山道に分け入った。まさに鉄砲登りだ。ロープがある。下りではこれにすがる必要がありそうだ。緩急が少し続くとピンク色のツツジが何本か見事だった。山は標高800メートルクラスの小さな独立峰だった。

山頂に展望台がありその一階部分は小屋になっていた。アルミの窓と扉の立て付けもしっかりしていて季節問わずの避難小屋だった。ここに泊って一晩天体観測は楽しいだろうな、と言われながら友はザックからガスバーナーとコッヘルと取り出した。そしてバームクーヘンを出してきた。彼が背負っていた30リットルのザックはあたかもドラえもんポケットのようだった。

野点しよう」

ドリップコーヒーのパックを取り出してバーナーに火をつけた。病に倒れ治療に時間を費やしたこの数年間はテント泊の山もご無沙汰している。雪の山にしても日帰りの山は時間に追われて暖かいものはテルモスにお任せだ。ゆっくりとお湯を沸かしコーヒーを淹れる友はとても楽しそうだった。コンビニのスイーツだよ、と言って分けて頂いたバームクーヘンと淹れたての珈琲は実際とても美味しかった。

友は山頂から一眼レフにつけた望遠レンズで下界を見ていた。「自分の家は何処だろう、見えないなぁ」と言われる。そしてカメラを下ろして三人で周囲の山々を検分し始めた。右手から反時計回りに、順に富士山、大菩薩、金峰山瑞牆山、八ケ岳、霧ケ峰、甲斐駒、鳳凰。8峰の日本百名山を見渡すことができる一大展望台だった。北岳だけが見えないのは南アルプスに近づきすぎているせいだった。しかし自分にとっても富士以外はその山頂を鮮やかに思い出せる山々だ。山にはうるさい仲間たちだからそんな百名山の同定だけでは気が済まなかった。山に関心が無い方にはただの高まりに過ぎない小さな峰もたちどころに言い当てていく。まるで山のグーグルストリートビューだった。それが可能なほど、この山はまこと、素晴らしい展望台だった。

南側の眼下には桜並木が続いていることが望見できた。これからそこまで降りて桜見物というのが今日の予定だ。桜は満喫した。都会の公園や桜並木などをありがたがって人並みの中を進むのが馬鹿らしく思えるほどに、人も少なく手付かずな桜だった。

桜の花と残雪の甲斐駒が重なりあう。これほどのんびりとした山もない。病気に罹患する前のようなガツガツした登山欲はもう自分には無かった。それ以前に体がそれを許してくれない。だからこそこんなに気楽でリラックスできる山が、とても嬉しい。

風が吹いて並木道には桜の花が舞っていた。とてもゆっくり落ちるのだから舞うごとに光が躍るのだった。春うらら、野点の山か。いいぞ、いいぞ。秋にも冬にも来てやろう。

 

山梨県北杜市 中山(海抜887メートル)中山峠から往復、峠の路肩に数台分駐車スペースあり。峠から展望台までは急登が続く。

眞原の里から少し離れて見る甲斐駒は春に彩られて嬉しそうだった。

もう少しで花は散り、雪も解ける。そしてすぐに紅葉になり、雪が来る。甲斐駒はいつも毅然と立ち四季の移ろいを眺めている。

山頂への道は鮮やかなピンクのツツジが彩を添えていた

八ケ岳とその広大な裾野を眼下にして、友はゆっくりと望遠レンズを覗いていた。ご自宅はレンズ越しにみつかるのだろうか?(展望台から)

中山の山頂には展望台があった。その一階は避難小屋になっている。三角点の立つ山頂はここから数百メートル東になる。

今回の歩行ルート。峠からは急坂でひと汗かくと山頂だ。この坂を避けるべく東側からのアクセスも良いと思った。道は良く踏まれている。多少の伐採も最近やられたようだ。

コースガイド:https://yamanashi-hiking100.jp/course/detail/77

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