日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

図書の旅12・CWニコルの黒姫日記(CWニコル)

・CWニコルの黒姫日記(CWニコル著。武内和代訳、講談社1989年)

自分が山を始めるきっかけとは何だったろう。はじめにアウトドアに憧れた。もともとバイクが好きで学生時代に250ccのバイクに乗り始め、これを駆り北海道などツーリングした。その後、友が持っていたのだろうか、BE-PALという雑誌を手に取った。今でも時折手にする雑誌だ。アウトドア感覚に満ちた誌面に惹かれた。写真も多く見ているだけで楽しくとりわけ多くのライターさんの連載やハイキング、登山、バイクツーリング、サイクリング、マウテンバイク、カヌーなどの外遊びの紹介に胸がときめいた。すぐに水遊び系以外は手を出した。いくつかの魅力的なアウトドアマンを同誌を通じて知った。CWニコル氏もそんな中の一人だった。彼がウェールズの出身で黒姫山の麓に住み、日本国籍を持っていることを知ったのは少し後だったかもしれない。

ニコル氏は幾つかのテレビコマーシャルにも出ていた。環境保護などのメッセージを自らが開いた黒姫の森の中から発信していた。山の男、野生の男。大きな体にヒゲを蓄えた魅力的な顔はニッカウイスキーの髭のオジサンそのものに見えた。

数年前に逝去されたと聞いたときは彼のことをほとんど知らないのも関わらず寂しさを感じた。そんなニコル氏と図書館で目があった。彼は本の表紙にいた。森の中で愛犬のアイリッシュセッターと共に写った本だった。

早速借りた。山歩きをしている中で自分が感じていたことが書かれていた。自然破壊に対しての日本人の無関心さだった。また自分は決して使わない嫌な言葉である「外人(ガイジン)」の感じた当時の日本に対する視線も語られていた。この本が出版された1989年、まだ日本には外国人は少なかった。ネットで情報のボーダーレスが可能となった今と比べると日本はまだまだ環境保護や国際感覚という点においては鎖国状態に近かったかもしれない。

ありのままの自然の大切をわすれ、開発という名のもとに行われる山林や野生動物への迫害への怒り。自然についてニコル氏のもとに勉強しに来た学生に黒姫の何が美しいと問うと、「緑だから」と答える。自然林の伐採が進み人工林だらけの森もまた緑には違いない。緑は自然と同義語ではない、という怒り。

クマが里に出てくるようになったのは森林行政の結果。広葉樹の天然林を片っ端から伐採し針葉樹の人工林に仕立てたから生態系が壊れたから。そんな事にも気づくことなく里に出てきた熊を害獣として射殺する。この国の人はツキノワグマが絶滅しかかっていることに関心が無いのだろか?縦割り行政の弊害でもある自部門最適主義で自然保護行政全体をコントロールすることもない事への呆れ。

目線を動物や身の回りの世界に移しながら、自らが愛した日本の森とそこにある豊かな生態系が破壊されていくことに警鐘を鳴らしている、そんなことを黒姫山の森の生活と絡めまとめられた書だった。日本で生まれ育った日本人より、帰化した日本人のニコル氏が日本の自然に深く考えられていたという事には考えさせられたのだった。

森でクマにばったり遭遇したらどうするか?これ迄自分も二度遭った。奥秩父縦走路と戸隠(ニコル氏の住んだ黒姫近郊)の登山道だった。どちらも先方は悠然と森の中へ去って行った。心臓はバクバクしたが、思えば彼らのテリトリを荒らしているのは自分なのだから当たり前だろう。ニコル氏なら、お前無事だったか、と抱擁でもしたかもしれない。しかしいつかまた自分もクマに遭えるとしたら、生態系が奪われて里に下りざるをえなかったのか、森が再生し子育てでもしているのか。後者であると、願いたい。

本書は1989年刊行。丁度自分もアウトドアに熱中し始めて数年経った頃だ。当時の自分は外で遊ぶことがただ楽しく自然破壊などの懸念は念頭にもなかった。誌面に載っていたニコル氏の主張も流していたのかもしれない。後悔している。

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