日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

スイセンの小径 津森山

山を歩く気持ち。自分を目一杯勇気づけて登る山もあれば、しっかりとした計画も立てずに気楽に歩く山もあるだろう。前者には革靴に35から50リットルに近いザックが伴侶になるし後者はナイロン靴に25リットルでも持て余しそうだ。

山麓の風景をのんびり味わいながら歩く山は後者と言えた。それがつまらないというわけでもない。小さな山にも必ずを肝を冷やすルートもあれば迷いそうな道も多い。しかし農作業をしているご老人に道を聞いたり堰の門を開けて田に水を入れていく光景を見るのは心惹かれる。里と山が溶け込んだ低山は大きな山にはない魅力がある。

今日の千葉の山もそうだった。千葉の山は最高峰でも400m級。高い山には無縁な場所。この季節の楽しさはスイセンの花だった。スイセンでは全国でも名だたる出荷量という千葉県。東京湾に注ぐ内房の静かな沢沿いの空き地には冬から早春にかけてスイセンの花が咲き乱れる。スイセンロードと名付けられた小径を家内とゆっくり歩いたのは数年前だった。

佐久間ダムの裏手もスイセンが盛りだった。日向ぼっこをしていた公民館。その駐車場で車を停め靴紐を締めた。簡易舗装の道には柔らかな陽光が差し込み今が12月末であることを忘れさせた。目指す山は牛飼い農家の横手からすぐだった。チエンソーの音が聞こえてきておじいさんが古い杉を切り倒していた。そのすぐ先が津森山の山頂だった。

おじいさんの作業は山頂にも至り、過ぐる年の台風影響で荒れた立木を伐採していると言われた。チェンソーを一方向から進めると滑り降りるように立派な木が地面に落ちて、ドシンと山が揺れた。ここまで三十年かかったと言われた。木も荒れてしまい加え輸入材が主流でもう商品価値もないのだという。

山頂でザックをおろした。5,6年前に登った伊予ヶ岳と富山を北東から見ることになった。この二つの山は三浦半島の丘陵に立てばよく目立つ。2つの山の先は東京湾でもあり相模灘でもあった。富山の奥の薄い影は大島に違いなくその左手に尖った山は利島だろう、と、同行した友は言う。

展望に満足し山をおりた。道すがら往復できる人骨山にたちよる。入り口さえ見逃さなければわかりやすいルートで山頂直下には急坂に備えたローブがあった。

簡易舗装の農道に戻って気づくのだった。とても柔らかい匂いがすると。春の匂いだ。しかしもっと甘い。スイセンの花だった。匂いにつられて無人販売所にあった一束を買った。

スイセンの小径は早春の香りに満ちていた。なんとも伸びやかで柔らかい風景だった。

玄関先の水差しに山で買った一束をさした。花はまだ半分程度。そこだけがパアッと甘い匂いに満たされた。それは我が家にやってきた一足先早い春だった。

津森山山頂からは伊予が岳と富山が大きい。しかしその果てに館山の洲崎が、その奥には伊豆大島と利島の影が浮かんでいた。季節は冬でも、春の陽気がそこにはあった。

スイセン咲く里山は甘い香りに満ちていた。無人販売所で一束買って、自宅の玄関で房総の香りを漂わせている。

ルート図。アンドロイドスマホ・山旅ロガーでログ取得したもの

ルート紹介:千葉県鋸南町佐久間ダムの裏手から大崩集落へ。公民館の中止射場から歩き始める。簡易舗装の道が殆どで、牛舎のある農家のすぐ東側から山道に入り津森山へ。農家に戻り時計回りに簡易舗装路を歩き、看板を探して人骨山ヘはピストン行程。