あれれ分からない。広大な駐車場を十五分は歩いた。
地方都市の若者に取り最大の楽しみの一つはショッピングモールだと聞いたことがある。デートに買い物にと。そんなモールは郊外にあることが多い。駅から直通バスが出ていることも多い。そこは広い敷地に航空母艦のように横たわっていた。ちょっとした要塞のようにも思えた。シネマコンプレックスがあり、流行りのテナントがあり全国展開をする多くのレストランやカフェ、スイーツ、パン屋が連なる。僕は首都圏の駅前にあるショッピングモールを思い出した。それと全く変わらなかった。アパレルに関心のない自分はこの店のテナントがどんな位置づけなのかは分からない。しかし楽器屋もあり家電量販店もある。これでアウトドアショップが入っていればいうことなしだが、そこそこに楽しめた。
平日の昼間なので流石に高校生は居なかった。引っ越す前の地でのインフラの解約をやり残していた。携帯電話キャリアの光ケーブルを使いネットもテレビも電話も使っていた。それを閉めるために来店した。ネットで音声ガイド通りに気長に進めばうまくいくのかもしれないが、身に覚えもない暗証番号を入れろなどイライラが募った。
来店予約が一番と思い、たらいまわしにされる電話の自動応答に耐えてから初めて人の声が聞こえ、予約をした。もうこの手のやり方にはついていけない。自分は老いを感じた。
用事を終え、楽器屋に行った。欲しいものは無いのだが何か疲れていた。楽器屋でギターを見ていると心が休まるのだ。中古品の棚に乾電池で動作するアンプを内蔵したベースギターがあった。興味がありみていると若い男性客が五弦ベースの試奏を始めた。ややたどたどしい、いや控えめな音出しだった。しかしスラップの音も運指も良かった。何故か対抗心が湧き、自分もその興味を持ったベースを試奏させてもらった。電池で動くアクティブタイプのベースは流石にメリハリのある音が出た。ボロが出るのでスラップなどせずにブルースを弾いた。誰でも弾けるスリーコードだ。派手に叩いて引っ張る隣の彼と自分とではスタイルが違う、いや、上手ければどんな曲にも適応できるはずだ。自分にはそれが無いのでそう言わざるを得ない。若い人には敵わないな、と思い自分を恥じた。楽器自体はとても気に入った。そして安価だった。しかしそれを買ってどうなるのだろう。すでに一人で扱いきれないだけベースギターが家に在る。「クレジットで」若い彼はどうもその安くはない五弦ベースの購入をすぐに決めたようだ。自分はどうしようかと揺れたままだ。
楽器屋にはそれでも少しだけリラックスがあった。最後がいけなかった。軍艦の様なビルを出ると駐車場が広すぎて自分の車のありかが分からなかった。普通は通路番号があるのだが覚えていなかった。盆地のこの街はフェーン現象が起きる。五月なのに三十一度あった。その中をウロウロすると朦朧とするのだった。
とうとう来たか、と思った。すでに気が短くなっていた。新しい物への適応も出来なくなっている。迷うと決められない。そして数時間前の記憶が無くなっている。熱中症一歩手前だった。次は何が来るのかと暗澹たる気持ちだった。
