日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

フキ三昧

子供の頃、原っぱにたくさん咲いていた名も無い花を姉は無心に摘んでいた。それは小さな花束になり持ち帰ると母は「マーガレットね」と言うのだった。姉の嬉しそうな顔と花を摘む後ろ姿はよく覚えている。眼の前の路傍の草の前にしゃがんでプチプチと音を立てている妻の姿を見てそんなことを思い出した。

妻は目ざとくフキを見つける。流石にフキの芽はもう無くなり花も終わりかけている。大きすぎる花は天麩羅には不向きに思える。そこで今朝は芽や花ではなく茎を摘んだ。

すぐにそれは花束のようになった。茎を煮物にするのは美味しい。野生の茎はスーパーで見かけるような立派なものではなくその径は1センチに届かない。しかしそれでも十分にフキの香りがする。葉っぱは捨てるには惜しいほど大きい。葉は煮干しとともにゴマ油で炒めたら美味かろう、と頭に電灯が灯った。

日が落ちる頃自分はある作業に熱中していた。上手くいかないので苛立っていた。フキどうする?と言われたが不機嫌に答えた。「任せるよ」と。作業は目処がつきそうになかった。自分には珍しくまた明日と思ったのは腹が減ったからだった。部屋に戻ると今朝のフキの全てが食卓に載っておりぶっきらぼうだった自分を恥じた。

ふきの煮物と思っていたがそれはゴボウとシラタキと共に「きんぴらごぼう」になっていた。葉はなんと味噌とあえられていた。「ふき味噌」とは風流に思えた。

ふき味噌があるのならそれを舐めながら日本酒が進むだろう。しかし我が家には日本酒が置いてない。焼酎の紙パックがあった。ストレートでやろう。風邪をきっかけにして酒量を減らしてからはもう三ヶ月は経つ。お陰で悪玉コレステロールは正常値になった。ならば良しと今は週一二度飲むだけだ。この日は飲む予定では無かったが、ふき味噌にやられた。

フキのキンピラもふき味噌も美味しく食べた。自分は春の香りに満たされた。フキざんまいの夕餉をササッと作るのだから流石に妻は慣れたものだった。

姉が他界したのは早春だった。もう少しで蕗の季節だった。姉もそれを摘んでいたかは分からないがきっと逃したことを悔しがっていたかもしれない。フキの苦さは、人生の苦さかもしれないな、とふき味噌を舐めながら思う。美味しい春の香りをもっと味わってほしかったがそれは叶わない。季節が来ればそれをありがたく戴く事が自分たちにできる事だろう。

フキの葉をあく抜きして茹でて味噌とみりんであえたようだ。焼酎を飲みながら春を舐めるのは美味かった。

 

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