日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

羽やすめ

次回のバンドのリハーサルに向けてベースギターの練習をしていた。新しい曲の音をようやく拾えた。まずは曲を流して全体像を掴みたい。リズム楽器はノリが大切で音源を流しながら体で拍子をとって弾いていた。曲の途中で止めると体の中のグルーブ感が止まってしまうのでそれは嫌だった。

窓の外を見ながら弾いていると数軒隣の地デジアンテナに目が行った。アマチュア無線をやっているので人様のアンテナは気になる。目が留まったのはそこに二羽の鳥が止まっていたからだった。練習を止めたくは無いが、僕は鳥をじっくりと観察しようと思った。

四月になったのにここ数日雨が続いていた。つられて気温も寒かった。今朝早くにそれはようやく止んだが路面はまだ黒かった。脆い薄日が差していた。二羽の鳥をまずは望遠レンズで捉えようと考えた。手持ちのレンズは300㎜だった。ファインダーを覗いてみたら鳥は手元には手繰り寄せられなかった。300ミリでは鳥を撮るには役不足なのかもしれない。次にビノキュラーを手にした。この双眼鏡を手にしたのはもう30年は昔であの頃とは視力が変わっていた。鏡筒のピントを回してようやく鳥を捉えた。ウロコ模様があるので土鳩ではないだろう。キジバトのつがいのようだった。

次の曲に取り掛かった。デキシー風な音作りでアコースティックベースの音は拾いづらい。簡単にやってくれればいいのに間奏は意外にコードが細かく変わる。お陰で訳がわからない。何か解があるはずだ。肝心の曲を口ずさめるまで聞きこまなくてはいけない。そして大まかにカバーする。小技は後回しだ。自分はまだ口ずさめるまでに聞いていない。脳に疲れを覚えたのでベースをスタンドに戻した。

目線を上げるともうつがいの鳥は居なかった。キジバトはヤマバトとも言われる。それはデデッツポーポーと啼く。夏の里山で聴くことが出来る。あのつがいもどこの森から飛んできたのだろう。アンテナの上でまあるくなっていたのは「羽休め」だったのだろう。薄日を羽毛に吸い取って暖かくなったのだろうか。彼らの飛翔を見ることが出来なかったのは残念だったが何処かの鎮守の森辺りへ去ったのか。そこでまた初夏になればあの素敵な鳴き声を聞かせる事だろう。

気まぐれな天気で薄日はまた隠れてしまった。暖まろうと僕も暖かい珈琲を淹れた。しばらくは楽曲の事も忘れて「指やすめ」だ。

つがいの鳥が教えてくれた。少しは休むが良いと。そう、自分もこれから急ぐ必要はない。十分でもニ十分でも、いいではないか。ようやく曲に取り掛かる気持ちが湧いてきたのだから。

キジバトのつがいだろう。雨に濡れ薄日の中で「羽休め」。気が付けばもう居なかった。

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