日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

神保彰・ワンマンオーケストラ

おもいっきりフュージョン世代。といっても本場アメリカではなく日本のモノ。いまではJ-FUSIONという呼び名だそうだ。アメリカのFUSIONは友人の影響で聴いたウェザーリポート。リー・リトナーラリー・カールトン、アルディメオラ、チック・コリアあたりは触りだけだった。

高校生の頃にポップな高中正義で入ったせいか、カシオペアが80年代の自分にはピンときた。ギターバンドが好きだったのでスクエアはほとんど聞かなかった。よりジャズっぽいアプローチの渡辺香津美に触れたのは、半年ほど後だった。いずれにもはまった。カシオペアと言えば売れ出した頃の、JIMSAKUに分かれる前の四人がベストメンバーだと思う。タイトなリズムにキャッチーなメロディ。音も過剰なアレンジもなくシンプルに近かった。なによりも4人ともに超のつくテクニシャンだった。「不動の面子」とはあの事を言うと思う。

彼らのライブ体験は一度のみ。19歳か20歳か忘れたが、駒澤大学での学園祭だった。体育館に見に行き「アサヤケ」に「ドミノ・ライン」に燃えた。開演前のトイレでは、憧れの桜井哲夫さんと隣同士だった。

「今日は楽しみです。自分も下手くそなベーシストですから」
「ベース、楽しいでしょ。頑張ってくださいね」

握手をしてもらって、夢み心地だった。

そんな桜井氏と鉄壁のリズムセクションを組んでいたのが神保彰。聴いていて痺れるドラマーは、神保氏とジョン・ボーナムか。もちろんバーナード・パーディも、リッチー・ヘイワードもたまらない。キース・ムーンはどうした?ミッチ・ミッチェルは? あ、ビル・ブルフォードも。いや神髄はチャーリー・ワッツでしょう…。日本人忘れるなよ。林立夫だろう、ポンタだろう・・。彼らにまつわる自分の想いを書き出すと、長くなるし、稿の趣旨を外してしまう。

神保氏は桜井氏とともにカシオペアを脱退してからはヴォーカルを入れたJIMSAKUに軸足を移し、熱帯JAZZ楽団でも素晴らしいドラムをたたいていた。ゲストプレイヤーとして出戻りしたカシオペア3RDからは、つい先日脱退してしまった。オルガンを取り入れた3RDも素敵でライブを見たいとは思っていたが残念だった。

そんな神保氏が20年近く取り組んでいるのが「ワンマンオーケストラ」。ドラムにMIDI音源をトリガーでリンクさせる。スネアの上に設置したパッドでプログラムを切り替えながら、ドラムスに加えてギターやホーン、ベースなどの全楽器音を一人でドラムから叩き出す、というもの。初めてネットかテレビで見た時は空いた口が塞がらなかった。

自分の住む街のコンサートホールに、そのワンマンオーケストラがやってきた。気合を入れて最前列チケットが買えた。

会場前には皆さん興味深くセットを見ている。神保彰、とシグネチャーの入ったバスドラ。タムにもスネアにも名前が刻印されている。どうみても普通のアコースティックドラムだが、電子ドラムも組み合わされていた。セットはすべてYAMAHA。シンバル類はジルジャンだった。ここからあの世界がどうやって醸し出されるのか、想像もつかない。

一曲目はミッションインポシブル。バスドラが大迫力で、オーケストレーションも編曲も素晴らしかった。そしてラテンメドレーは、マンボNo5、テキーラ、エルクンバンチェロと、誰もがノレる曲が続く。氏が好きだという映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムスからもスターウォーズなど誰もが知る曲。ベートーヴェン交響曲5番と9番も有名どころをメドレーで。

ようやく待っていた。カシオペアをやってくれた。まずはスクエアのTruth。F1大好きだった。そしてようやく、ASAYAKE。みんなノリノリ。ペンライトは出るは大変だった。なによりも奏者の神保氏がとても嬉しそうだった。

アンコールはEW&F。セプテンバーにゲタウェイをつないでくれた。皆さんこのあたりが「ジャストの世代」。オジサンオバサン、ノリノリだ。自分もね。

曲の合間に紹介や、ワンマンオーケストラシステムの解説もわかりやすく、楽しく、やってくれた。ワンマンオーケストラをやろうと思ったのは、「若い頃の友人の結婚式でドラム演奏を頼まれたものの、ドラムだけではウルサイだけで、皆さん楽しんでもらえなかった。だからドラムで音楽を奏でよう、と決めた」、そんなエピソードを語ってくれた。そういえばカシオペアのライブでは自称「司会屋」の向谷実がMCだったが、その後の彼らの映像に触れると四人ともトークが上手い事はよくわかった。その通りの楽しいトークだった。

「今は世代やジャンルによって聞く音楽が分断化されている。FUSIONは「融合」。そんなフュージョン出身の自分は、自分がいいと思った音楽はジャンルを問わずに自分の演奏会に取り入れて融合し、音楽の持つ素晴らしさを人に伝えたい」と最後に語られた。

自分より四つ年上だけとは思えない、溌溂さとエネルギーに溢れた神保氏。前人未踏とも思えるワンマンオーケストラを鍛錬し、早朝に目覚めて一杯のコーヒーをゆっくり入れて、作曲するという。ジャンルレスの素敵な音楽を世界に届けるという想いを持ち、瘦身の音楽家が朝早くから作曲するという姿は、いかにも魅力的に思えた。人間、いつまでも努力、そう語られたように思う。

満足の演奏会だった。出来ればあの「不動の四人」で円熟の音を、また、聞きたいと思うのだった。

ステージに置かれたのはドラムセットとPAのみ。YAMAHAシグネチャーモデルですが一見は普通。電子ドラムと組み合わせており、パッドが楽曲のスイッチを兼ねます。アコースティックドラムにもセンサーを仕込んで、叩き方で異なる音を出している、そんな話でした。

ジャンルレスに素晴らしい音楽を届けたい。そんな思いのこもった演奏会でした。流石です。しかし次回はやはり「不動の四人」で聴きたいもの。