日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

駅そばシリーズ(10) 三島駅 爽亭

転勤で新幹線通勤をしていた静岡県三島駅。記憶もやや曖昧だがこの駅には4軒、いやもしかしたら5軒の立ち食いそば店があった。

新幹線ホーム。東海道線ホーム、南口改札横、そしてこの駅を始発とする伊豆箱根鉄道駿豆線の開札内。これでは4軒だが、東海道線のホームが上り用と下り用の2つあり、上りホームにはあったが、下りホームの記憶が曖昧だ。あっても不思議ではないが、下りホームの行き先は静岡や浜松で、利用者の多くは通学の高校生。そうと思うと無かったかもしれない。いずれにせよ一駅で4軒の立ち食いそば店とは品川駅とも変わらない。さすがに伊豆を控える観光地だ。

新幹線ホームと東海道線ホームの立ち食いそば屋は「桃中軒」という沼津の弁当屋さんが経営していた。駅弁屋が駅構内立ち食いそば屋を営む事はありがちだ。浮かぶだけでも中央線小淵沢駅。沿線の駅弁の有名どころといえば同駅の「元気甲斐」だが、駅の北側でこのお弁当を作る丸政さんも同駅に絶品の立ち食いソバ屋を出している。

桃中軒の駅弁は「幕の内弁当」だろうか。経木の箱に入った箱庭のような世界だ。紐をほどき蓋を外すとその裏側にはしっかりそこにご飯粒がつく。それを割りばしですくうのは愉しい。しかも「わさび漬け」パックが添えられているのも静岡らしく嬉しい。東京から三島への出張、半休した自宅から会社への午後出社へはそれぞれ品川駅か新横浜駅での「崎陽軒シウマイ弁当」。そして三島から東京への出張では三島駅での「桃中軒・幕の内弁当」。相場はそう決まっていた。いずれの弁当も「紐をほどく経木箱・蓋の裏に着くご飯粒」が共通項だ。

今回の訪問は、駅の南口、改札を出た売店の真横。「爽亭」。桃中軒ではない。この店は比較的新しく、駅の改修と共に出来たと記憶している。7,8年前だろうか。それ以前は南口では伊豆箱根鉄道改札内の一軒に頼っていた。ここは名物「椎茸そば」があり絶品だった。しかしもう数年前に閉じてしまった。代わりに駅南口で食べる時は「爽亭」。ここソバ・ウドンに加えて珍しく「きしめん」がメニューにありよく食べた。

会社を辞めて2年、三島勤務を終えて3年。久しぶりの訪問だ。

カウンターの女性一人での、ワンオペだった。三島の人間に悪い人がいるはずはない。話しかけなくてはいけない。

「ずっと三島で働いて、新幹線で通ってたんですよ。ここはよく立ち寄りました。懐かしいです」
「おかえりなさい、三島へようこそ」
「伊豆箱根のそばやは閉店したままなんですね」
「そうなんです、あの「椎茸そば」は美味しかったですねぇ」
「ここも負けてませんよ…」

そんな会話で、これから出てくるきしめんの素晴らしい味は担保されたようなものだった。会話も嬉しくて、別途かき揚げのトッピング迄追加してしまった。

お揚げにネギ。そのうえにひとつかみ乗った鰹節は、踊りまくる。ずるずると食べながら、お店の方との会話も踊るものだ。駿河の方言も耳に優しい。きしめんは三年前と全く変わっていなかった。

駅前でランドナーを組み上げた。そう、今日は、これから西へ向けての自転車旅行。だから満腹にしても大丈夫。変わらぬ味、変わらぬ街。組み上げた自転車を数センチ持ち上げてボンボンと落とす。異音なはい。前後ブレーキも大丈夫だ。後ろ髪ひかれる懐かしい駅舎を背にして、ペダルを踏んだ。

嬉しい味。きしめん。お店の方との話も弾み、かき揚げを追加してしまった!

駅南口は数年前に改修されて、その際にできた店だった。名物・三島コロッケもメニューに載っている。狭い通路で立って食べるという、慌ただしさによって味は倍増する。美味しい立ち食いそばやの法則(立って食べる。慌ただしい、せわしない、作り手の所作が見られる、おばちゃんの愛想が良い)をしっかり押さえている。

三島駅南口もいつしか綺麗になった。東京のベーカリーも出店しているのだ。腹ごなしは済んだ。ランドナーも好調だ。走り出そう。