日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

自分のもの

我が家から半径ニキロ以内には私立高校が三つ、県立高校と市立高校がそれぞれ一つある。朝夕にバス通りに出ればいつも高校生が乗り降りしている。ギターを背中に抱えている学生が多い。十年前には目立たなかったのに。しかも何故か女子学生ばかりだ。バンド活動はニキビヅラの男子のものではいつしかなくなっているようだ。僕は彼らを見ると、よ、楽しいだろう、頑張れよ!と、声には出さないが応援している。ギターを背負うと頭から一つ飛び出る。バスを待つ彼らの中でそれは目立つ。

週末になると今度は自分がギターを背負う番だ。ベースはギターよりも長い。ヘッド部分がニ十センチは飛び出る。縦長なので時々何処かにぶつけてしまう。またケースを入れると重さは五キロある。日帰り登山では七、八キロのザックを、テント山行なら十二、三キロのザックを背負って何時間も歩くが余り気を使わない。これが楽器だとそうは行かない。ソフトケースの中身は繊細なのだから。

そんなこともありバンドのリハーサルではスタジオで楽器を借りることが多かった。前回のステージでは自分には必要性があり五弦ベースを使った。五弦は流石にスタジオではマイナーで借りれずに冷や冷やして自分の楽器を背負っていた。高さも心配だが登山ザックより軽いのに何故か肩にくいこむ。肩は疲れ腰も痛くなるのだから情けない話だった。

バンドの次のステージでは音を歪ませることなく素朴なサウンドを目指そうと言う話になった。先日のリハはその初音出しだった。この音ならもう五弦の出番ではない。五弦ベースはネックの中ほどで仕事が出来るのでとても弾きやすいがブルースやルーツミュージックには如何にも似合わない。下手くそなのに見てくれにこだわってしまうのだ。

久しぶりにスタジオでベースを借りた。手ぶらでスタジオに行けるのだからありがたい話だった。借りれたのは自分の好きなプレベではなくジャズベだった。予約時にフェンダーかアトリエZがあるが、と言われ後者を希望した。アトリエZは国産プロユースのハイブランド、故・青木智仁氏やゼノン石川氏あたりが愛用者として思い浮かぶ。凄腕のベーシストばかりだった。彼らの使う楽器を触れるのか、と嬉しく期待していた。

オールナチュラルという自分好みのカラーだった。ジャズベースにしては意外にネックは太い。スラップ奏法に向いているベースと言われるが確かに親指で叩かれて人差し指で弾かれても大丈夫なタフさがある。単純なプレシジョンベースに触っている身としてはニボリュームにニトーンは悩ましいコントローラーだった。音は流石に良かった。しかし何故かアース不良でノイズが乗り自分はずっと弦に触れている必要があった。これはシールドかアンプのせいかもしれない。右親指を乗せるネックエンドの高さやピックアップの位置も微妙に違い直ぐには馴染まなかった。自分の楽器ではないのだから当たりまえだった。やはり自分は弘法大師ではないのだった。下手くそは筆を選ぶのだ。帰宅して弾き慣れた愛機を手にして一時の浮気を詫びた。

さて次回のリハにはやはり自分の楽器だろう。たとえ銘機であってもやはり使い慣れたものが勝る。変化を求めるほうが認知症にも良いと言われるが、楽器については弾けてなんぼだろう。気心が知れて余計な神経も使わなくて済むと言う事はこれからは万事において大切に思う。ベースギターを持ち歩くと頭二つ抜きん出る。風が強い日だと流されるほどだ。バス停にたどり着いても若くて楽しそうなバンド女子校生の中で無精髭のシニアが腰も痛そうに背負っているのだから目立つだろう。きっとシルバーシートでも譲ってくれるかもしれない。それもありがたき副産物だろう。

例えプロユースのハイエンド機でも、使い慣れた我が楽器のほうがピンとくる。

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