日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

アンサンブル

このメンツでスタジオに入るのは三年ぶりだった。コロナで予定していたライブハウスをキャンセルしてから様々なことがあった。外出規制、リモート勤務、社会全体の沈滞。また罹患を防ぐマスクのために素顔を出すこともなくなった人々。誰もが相手の素顔を忘れ今ではマスクを外すのも怖い人も居るという。マスク症候群と言うらしい。個人的にもまたメンバーにとってもこの三年間には大きな出来事があったようだ。六十歳になると体にもガタがでる。病は人に不安を運んでくる。

長いトンネルは終わったのだろうか。ライブに出ることが決まった。短い準備期間なので新曲はやらずにこれまでのナンバーからセット・リストを選んだ。

スタジオの扉を開ける。この業界も狭い個室で演奏するのだからコロナで苦しんだのだろう。なんとか生き残っていた。大きなベース・アンプに火を入れる。思い思い各楽器は音を出している。ドラムは相変わらずにタイトだ。ギターはクリーントーンを出している。キーボードも安定している。ヴォーカルと三声コーラスはいつもどおり決まっている。流石だった。

では、やるか。行きまぁす。・・・ドラムのカウントで最初の一音を出した時に、あぁこれだな、と即座に思い出し心は高まった。演奏はすぐにまとまった。キメや構成の確認だけだった。

すぐに息が合うのはやはり長くこのメンツでやっていたからだった。誰が何をしたいのかすぐにわかる。伊達に十年近く経ったわけではない。演奏している曲の方向性はステージごとに都度変わる。昔のようにこの音楽をやりたい、それ以外は嫌だ、そんなこだわりは今はない。曲目は今は気にならなくなった。今はお客様が聞いて懐かしいと喜んで頂ける曲をやる、そんなコンセプトで選曲している。演奏は自分だけのためではない。丸くなったと思う。

音楽は聞くのもよいが演奏するとなお楽しい。心配は次回のステージで指使いを間違えること、曲の展開を見失うことだった。練習ではできてもステージでスポットライトを浴びるとに緊張からスッポリ抜けてしまう。そこに加えて明らかに短期記憶力が弱くなった昨今、うまくいくだろうか。まだある。三年前は老眼鏡は今ほど必要ではなかった。薄暗い中に果してフレットが見えるのか?

スタジオを後は反省会。そんな不安を口にするとメンバーは笑ってこう言う。大丈夫、みんな同じだと。

少し安心した。ミスをしても皆で楽しめればよいのだ。音楽も若い頃とは違いガツガツやらない。なんとも気楽で楽しい世代になった。

流石に4キロあるベースギターを担いで繁華街を歩き満員電車に乗ると疲れるのだった。こんなときに歳を感じざるを得ない。しかしアンサンブルの中でグルーブを楽しんだ身は何故か軽いのだった。

自宅の小さなアンプと録音された音源で練習するのとは違う。生身のグルーブだった。

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