日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

秋の蚊

夏にしか会わないメンツで蚊とゴキブリほど嫌われる存在もあるまい。かたや血を吸いあろうことか痒くなる成分を人体に残す。かたや黒光りして見るだけでおぞましいが実際様々なばい菌を持ち込むという。

温暖化と言われる昨今、はて今年は何カ所が蚊に刺されたのかと思う。自分の場合ややエキサイティングな性格があってか蚊に食われるとその痕を爪で猛攻撃してから薬を塗るという荒治療をする。そのせいか傷跡は深く残り多くの場合出血する。かさぶたを剥がしても尚を薬塗ったりするのでたいてい悲惨な傷跡になる。それを数えたところ20カ所以上あった。多くの刺され跡に思い出があった。まったく痒かったなと。幸いにゴキブリを見たのは一度だけだった。餌もない場所で不思議だった。スプレー缶をシューシューかける。ひっくり返っても尚もスプレーを浴びせるのだからやや偏執的かもしれない。夏になるとこうして自分のやや精神異常者的な側面に面と向かうのだからあまり好きな季節ではないのだった。

外出しようと車に乗った。すると蚊が僅かのタイミングを見て乗り込んできた。たちどころに手で総攻撃を加えるが相手はヒョイヒョイと身軽に飛んでいく。「蝶のように舞い蜂のように刺す」とはモハメッド・アリの戦術だが、まさに目の前の蚊がそうだった。真夏なら車の中に殺虫スプレーを置いておきシューシュー吹きかけるところだがそれは先日のゴキブリ退治の際に家の中へ持っていってしまった。手で払いフロントガラスで叩こうと手を動かすが、やはり小さい彼は身軽だった。いたずらに手の甲をぶつけるばかりだった。

流石に運転中は攻撃できない。ふと気づいた。彼も元気が無いのだった。そもそもメスの蚊ではないようだった。獰猛に血を吸いに来てもよいのだが彼はどうやら疲れ果てているのだった。力なく飛んではふわふわと空気に乗るだけだった。更にはダッシュボードで休んでいる始末だった。コーナーポストでクリンチしている相手だった。

僕は攻撃の無為を悟った。もう夏も終わりなのだ。誤って開いたドアに潜り込んだだけに過ぎない。それを追いまわされる彼も勘弁してくれと言いたいのだろう。僕は攻撃を止めた。彼は気儘に狭い車内を飛び回った。車で一時間離れた地で停車しドアを開けると彼は何処かへ飛んで行ってしまった。

40キロほど彼は移動したことになる。蚊にとって40キロの飛翔がどれほどのものかなど考えたこともない。種の保存は動物の本能だが、限られた地ではなく新天地ででも種を残せたら本望ではないか。その新しい土地で上手く受精して新しい水辺で多くのボウフラが産まれるのなら彼の勝ちだろう。

秋の蚊か。あんたにはやられたよ、頑張ってくれ。そう声をかけて車を出た。

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