日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

二つの伝承・大勝軒

自分がラーメン店巡りに乗り出したのは1980年代末だった。その頃に丁度ブームが来た。環七ラーメン戦争と言われた環七通り添いに増えたラーメン店は博多ラーメンに加え背油チャッチャ系と当時は言われていた豚骨だった。我が街横浜では家系ラーメンが暖簾を増やしていたし、こってり好きには三田は変わらずに聖地だろう。群雄割拠。いずれも美味かった。しかし好みは絞られてくる。自分にとってラーメンは井の頭線から中央線の文化だった。永福町、浜田山、阿佐ヶ谷、荻窪西荻三鷹。いずれの街も醤油ラーメンで光輝を放っていた。どれもが支那そばと呼ばれる類のラーメン店が多い街だった。

ラーメン店の系譜については真面目にかつマニアックに調べている人も多く、自分の好みは偏りがあるのでとてもそんなことは語れない。総てのラーメンが系譜にタグ付けできるわけもない。ただ、わりに短いインターバルを介して二つの「大勝軒」の味に接することが出来た。世に言う「東池袋系」と「永福町系」だ。創業店の所在する地名からそう冠されるが、お互いには何の関係もなく、たまたま店名が同じだったのだろう。ぱっとみは同じ支那ソバだが、共通点も違いもある。

本家の味はそれぞれ数度しか味わったことが無いので、この項についてはその系列店(弟子なのかなどは不明)での味わいを参考にしていることを予めお断りしなくてはいけない。幸いな事にそれぞれの系譜を引く店が近所にある。共通点は、醤油ラーメンにして煮干しやブシなど魚系の出汁を感じさせる点。そしてなによりも麺の量が多い。なにも言わないとともに300gグラムに近い麺が出てくる。市販の袋入り生ラーメンがたいてい一玉100から120グラム程度となので倍以上だろう。又ともにスープがとても熱い。心してかからぬと口の中が火傷する。違いは、太麺と中細麺の差、汁の濁り具合、具の違い程度だろうか。前者は噛み応えのある太麺で胃にずしりと来る。ややワイルドかもしれない。後者は中細麺だがそのせいか麺はスープに良く絡む。見た目の品が良い。また後者についてはその系列店は厨房の清潔さを維持することに心血を注いでいるように思える。自分はスープの澄み具合から後者に行くことが多い。またどちらの店も大きなピッチャーに冷たい氷水が満たされている。熱いラーメンを食べやすくとの配慮だろうか。

いずれも美味しい。そして量が多い。後者はあえて小盛を頼むことで150グラム程度の麺になる。前者は「女性用」というメニューを持ってそれを実現している。麺の量が多い事については東池袋大勝軒の創業者氏の言葉を聞いたことがある。「庶民の食べ物だから自分も、誰もがお腹を満たせるようであってほしい。」 冷たい水については永福町の店内でこんな但し書きを読んだ記憶がある。「お子様の急な発熱などに備え冷たい氷水を用意しています」と。両店ともに創業者の志した使命があるのだった。

嬉しい事にどちらの店もどうやら創業者の意思をしっかりと維持しているという事だった。創業者さんも職人である以上何らかの金科玉条があるはずだ。それが系列店や弟子の店に伝わっている。その結果をこうして頂いている。どちらの店が好きかなどと言う事はあまり意味がない。

自分は脈々とつながる伝承を楽しんでいるのだからありがたい話だ。

同じ店名でも系列の異なる一杯。ともに美味しい。左は小盛り。右は普通サイズ。