今では主流ではない味かもしれない。しかし、いつもながらに「中華そば」「支那そば」と呼ばれるものが好きだ。様々に多様化するラーメンの世界でも、この手の味が健在なのは嬉しい。一口に「中華そば」「支那そば」と言って、実は様々な世界があるだろう。生醤油ベース、チャーシューの煮汁ベースなど「かえし」の違いも大きそうだ。しかしすぐにわかるのはスープの違いだろうか。煮干し・ブシ系の強い味もあれば、鶏ガラベースのあっさりしたものもある。麺も個性が出るところだ。「麺・スープと具・お店の親父の所作の美しさ」。これが自分にとって美味しいラーメンの三要素であることには変わりない。
さて埼玉県でも中部にあたるだろう、八高線エリア。八王子と高崎を結ぶこの路線は電化は一部のみというローカル感がある。ここでのお気に入りは毛呂駅前の「大海軒」。永福町大勝軒の流れを強く汲むこの店には、事あるごとに立ち寄ってきた。奥武蔵と言われるこの地域は低山も多く、また、自分自身もハイキングやサイクリングで訪れる機会があるエリアだった。いや、それらは「ついで」で、この店で食べることが主目的だった、と言わざるを得ない。
先日のハイキングは小さな行程であることを前提にコースを組んだが、コースの最後に計画したその締めはやはり「ここ」だった。
永福町の流れを汲み麺は多い。澄んだ醤油のスープには油膜が浮かび、うっかりレンゲで飲もうとしたら口中火傷することは必至だ。しかしえもいえぬ「ブシ系」のにおいが心地よい。柚子の皮の小切片が入っているのも素晴らしいアクセントだ。
前回訪問からは3年、いや4年ぶりくらいだろうか。家族経営と思われる厨房の呼吸は相変わらず抜群だった。つまりは「三要素」をすべて高次で満たす納得の味だった。一杯を仕上げる所作や呼吸感までも楽しめるのがラーメンなのだ。
埼玉中部ならやはりここだな。唸ってしまう。さて、次回はいつ来ることか。残念ながら自宅のあるエリアからはかなり遠い。また魅力的な「付属となるハイキングやサイクリングルート」を考えなくてはいけない。
幸せなことに平和な悩みは尽きない。