日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

忘れ物とCOPQ

オルリー空港はパリ市内の南にある。北側のシャルル・ド・ゴール空港は日本からの便も到着する国際便ターミナルを持つフランスの玄関だが、オルリーも小さい規模ながら近郊への国際便が入る。空港チェックインカウンターで指摘された。なんと、娘のパスポートが失効していると。誤って古いパスポートを持ってきたと気付いた。これでは飛行機には乗れない。オルリーから自宅まで渋滞なしでも三十分、帰宅して戻ったら間に合わない。イライラしてもどうしようもない。旅行は取り消しとなった。

溜まったエアラインマイレージを使ってのポルトガル旅行だった。その意味でエアラインチケットはマイルの無駄遣いのみで済んだが予約していたリスボンのホテルはしっかり実費を取られた。悔しくて格安エアラインで翌週再びリスボンへ向かった。今度こそパスポートも正しいものを持っていった。

とある文芸コンテストへの応募原稿を書いていた。手頃なサイズの文字数なのではあるがその中に思いを込めるとかなりの推敲が必要だった。投稿は、がしかしあまり気がすすまなかった。ペンネームではなく実名で投稿する事とあった。どんな駄文であっても自分の思考や癖は文章に出てくる。ネタも身近なものを膨らますことが多い。とても実名などでは書けなかった。裸になる勇気は無いのだった。物書きという仮面をかぶったただのペルソナなのだ。ペンネームを剥いでしまうと無神経と繊細さの同居する、何かに怯える初老の男に過ぎない。

気が進まないまま稿をまとめた。投稿するか、と応募サイトを見たら募集終了とあった。納期を一日間違えていた。締め切りは明日だな、そう昨晩思ったが確認しなかったのがミスだった。しかし実名応募でありどうしても投稿するという気力に欠けていたのも事実だった。それがあれば確実に納期を再確認していただろう。少しだけホッとした。同時に悔しかった。これに費やした自分の労力は無駄になった。また次回に、あるいは違う用途に使おう、と思っている。

COPQという言葉は製造業では一般に使われていた。Cost Of Poor Qualityの略称だが、直訳通り低品質に起因するコストの意味になる。無駄なものだ。COPQをいかに削減するかはテーマだったが、なにもここでいう対象物は製品だけでなく一連の付随するサービスも含んでいた。納期遅延に伴うリカバリーの費用などはCOPQの最たるもので、論外だった。

気が進まなかったとは言い訳はなるまい。納期間違えでの応募しそこない、パスポートをチェックし忘れてキャンセルした旅。どれもCOPQだった。これからの年齢、スローに生きようとは思うがこんな間抜けな忘れ物はしたくない。厳しい会社生活を離れ三年半。兜の緒を締めよという訓戒は好きではない。そもそも勝ってないから相応しい言葉ではない。が、やる以上はしっかりやれと、と自分に言いたくなった。

これを忘れたら海外渡航などできるはずもないのだった。旅の費用は無駄になり、再度旅を計画した。その費用もまた本来発生しないもの、COPQだった。COPQとはもうさようならしたいものだ。

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