日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

狂騒曲

それは自分の中では狂騒曲だった。ここ数日間頭が一杯になっていた。何本も電話をかけまくった。

仲良しグループでも何でも良いが小さな集団を長く維持することは容易でないことを知っている。夫婦がそれだろう。山あり谷あり。しかし夫婦は互いに人生の伴侶なのだからそれをなんとか乗り越える。では趣味の小集団はどうか。好きなことをやっているだけで特に縛るものがない。これは余り波風立たないだろう。さて、バンドになるとどうだろう。

誰もが個人のミュージシャンであり音楽に対する嗜好も志向も皆異なる。何かのきっかけでバンドという小集団形態が出来る。技量や嗜好も違うのだからいずれ何処かにズレができてくる。

組織論で良く聞く話だ。上手くまとまるグループ人数とは三、四名までだという。母集団の中から無作為に三~四名集める。誰かが主張して誰かが譲り誰かが纏めて次を決める、とうまい具合に人がバラけるという。数学の確率論だろう。主張、譲歩、調整。このバランスが取れないと上手くいかない。大概は主張者に対して残りのメンバーは嫌気がさす。もうやってられない。と、堪忍袋の緒が切れて崩壊する。しかし寛容と愛という言葉もある。あいつはあんな奴だから仕方ない。まあいいか。何よりこの仲間たちでやってきたからな、だろう。誰がリーダーになるのかも難しい。なんとなくかもしれないし結局力仕事をいとわない人かもしれない。また目標を共有していないと分解する。

そんな小集団を60年続けている連中がいたとしたら、それは奇跡だろう。しかし実在する。自分のここ数日の狂騒曲の原因だった。

ロンドン南部のダートフォードと言う街の駅で二人の男子学生が出会う。一人はマディ・ウォーターズチャック・ベリーのレコードを手にしていた。二人は意気投合しバンドを始める。ロンドンの下町のクラブでブルースプレイヤー風の芸名を名乗っていた男に出会いそれは本格的なバンドになった。1962年、ストーンズThe Rolling Stones)の誕生だった。誰が61年後の今もバンドとして活動していると想像しただろう。ダートフォード駅で出会った二人、ミック・ジャガーキース・リチャーズは今、齢80を迎えている。ロンドンのクラブに居たブライアン・ジョーンズがリーダとなっていた。彼らの新譜が発表されたのは数日前だった。前作から十八年目。80歳の彼らが創りあげた最新作だった。16歳で彼らを知りずっとファンを続けている自分は新譜は奇跡に思えたが何処かで確信していた。バンドのグルーブの核でもあったドラムスのチャーリ・ワッツが2021年に80歳で逝去した。しかし彼らはしぶとい。何処かでバンド名の如く「転がり続ける」だろうと思っていたからだ。八方手を尽くし、何軒ものレコード店に電話してようやく在庫を押さえてもらった。

ブライアンは才能に溢れていたがドラッグに溺れバンドを去り不幸な死を遂げる。代わってミックとキースが主導を握る。ブラックミュージックの模倣をしていた初期のバンドは二人の手によるオリジナルナンバーを演奏するバンドになる。腕利きのブルースギタリスト、ミック・テイラーを迎えてバンドは最盛期へ。しかし彼はバンドを去り、後任にロニー・ウッドが加わる。彼は最後にバンドに加入した新人として50年以上バンドに貢献している。オリジナルメンバーのベーシスト・ビルワイマンは去った。四人になったストーンズはチャーリーの死で三人となった。

バンドの長続きも小集団の法則を思えば肯ける。リーダーはドラッグで崩れて去る。共同で歌を作ってきた二人がリーダーになる。次に入ったギタリストは若いテクニシャンでバンドは一皮も二皮もむけたが、自分の居場所をバンドの中にとうとう見いだせなかった。そして入った「最後の新人ギタリスト」。彼は人柄が良い。いつも陽気で前向きだった。リーダーが二人いる小集団は難しい。お互いのプライドとエゴがぶつかり合う。ドラマーはいつも冷静で成り行きを静観する。誰もが彼を頼っていることはバンドサウンドを聞けばすぐにわかる。最後の新人は仲たがいする二人のリーダーの絶妙な調整役だった。実際いがみ合ってきた二人をいつも彼が糊付けしてまわってきた。面白い話だ。主張、譲歩、調整がある。

新譜を聞いた。待ちきれずにレコード店から戻る際にカーステレオに入れた。とたんにアクセルはベタ踏みだった。小さな車は、揺れた。エッジの効いたロックンロール、ファンキーな16ビート、パンク、カントリー、ブルース、バラード・・。ブラックミュージックを根底にしたイカしたサウンドで、僕はハンドル操作を危うく謝るところだった。

これが80歳の作る音なのか。驚きしかない。今回はポール・マッカートニースティービー・ワンダーレディ・ガガエルトン・ジョンなど豪華なゲストメンバーが脇を固めていることもある。夜のニュースでのインタビューを見た。ロニーウッドのコメントが刺さった。「混沌とした今日、自分達に出来る事はバンド活動をして人々を笑顔にしダンスさせ幸せにすることだよ。ファンは自分達を必要しているし自分達もファンが必要。お互いに支えあっているんだ。だからバンドの解散はないよ。」 筋の通った目標だった。転がり続ける中で見つけたのかもしれない。片意地もはっていない。

ロンドン出張の余暇を利用してミックとキースが出会った町、ダートフォード駅のホームに行った時胸が躍った。体が自然にうねった。ずっと彼らの音楽は自分の中の鼓動として存在している。CDをゲットしても狂騒曲は止まない。デカい音で何度も聴く。家人に近所迷惑だから音を下げて、と言われた。我に返った。八十歳の彼らに六十歳の自分が励まされている。注意されてもまたデカい音で聞くだろう。許してほしい。仕方ないのだから。

ストーンズの解説本は幾つも出版されている。右下は狂騒曲の末に入手できた発売三日後の新譜。

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